マサヒコの記憶消去 前編
ある朝、ぼくが目覚めると自分に“能力”が宿っていたのが分かった。初めてのことではないのでそこまで驚くことはなかったが、やはり慣れないもので少し違和感がある。いつもどおり試すまでもなく、能力の効果、使い方、制御などは既に理解していた。今のぼくならまるで手足を動かすように能力を発現できるだろう。
今日は火曜日であり、小学4年生であるぼくは学校に登校しなければならない。学校まで歩いて30分もかかるので急いで朝食を食べ、急いでパジャマから私服に着替え、急いで登校の準備をする。ちなみにぼくは学校をそこそこ楽しんでいるので能力の発現くらいで学校を休むようなことはしない。能力を使わなければ一般人と何一つ変わらないことを知っていたし、学校を休んだところで能力が消えるわけでもないのだから。
一息ついて能力についてを考えることができたのは学校への登校途中だった。3年以上通っている通学路には目新しいものは何もなく、他にすることがなかったからという理由もある。今回ぼくが得た能力は“記憶消去”であり、任意の人間に対し任意の記憶を消去できるというものだった。うまくやれば非常に役立ちそうな能力に見えるが、小学生で頭のわるいぼくには使い道が思い浮かばない。どうしたものかと考えていると後ろから声を掛けられた。
「おはよう、マサヒコ。途中まで一緒に登校しようよー。」
聞き覚えのある声である。甘ったるい声でぼくを呼ぶのはあの人くらいだ。
「了解しました。サオリさん。どこまでもあなたについていきましょう!」
ぼくはサオリさんの忠実な家来だった。まぁ、ぼくが勝手に志願しているだけなのだが。
サオリさんはぼくの小学校のそばにある中学校に通っている女子中学生である。ぼくの小さい頃からの幼馴染であり、同時に姉のような存在だった。向こうもぼくを弟のように接してくれる。
しかし年上は年上である。きちんとした敬語を使いこなせなければ立派な家来とはいえない。
「相変わらず変だね、マサヒコは。ちゃんと学校でもやれてるの?」
「はい。気に掛けて下さり、ありがとうございます!問題なく生活を送れています!」
ぼくからしてもどう見ても男子小学生と女子中学生の会話ではないなとは感じる。
いい加減やめようかな…この口調。
「そういえばサオリさん。今日の朝またぼくに“能力”が出てきたんですよ。今度は“記憶消去”らしいんですが、何か良い使い方はないですかね?」
いい答えは返ってこないだろうけど尋ねてみる。
「使わなくても困らないでしょ。むしろ悪用し放題の能力じゃない?それ。私だったら……そうだな…他人のヒットした著作物の記憶をみんなから消して、改めて私が作ったものとして発表する。」
「…思ったより最低なこと考えましたね。努力の結晶を罪悪感なしに奪えるサオリさん、尊敬します!」
「でもこんなことしたら私は許さないからね!私はマサヒコに悪い人になって欲しくないんだ。」
サオリさんの優しさを感じつつ、ぼくは能力を悪用しないことは肝に銘じた。サオリさんに嫌われるのは何よりもつらいことではあるのだ。
ちなみに言っていなかったが、ぼくに能力があるのはとぼくだけの秘密である。ぼくは能力なんてあってもなくても変わらないと考えているし、このままでいいとも思っている。大事になるのもぼくは嫌だし。
学校の校舎が見えたあたりでサオリさんと別れた。いつもの4-2と書かれた教室に入ると、窓際に少し人だかりができていた。あまり良い雰囲気でないようであり、誰もふざけている様子はない。
近づいてみて全てを理解した。
子猫が無惨に死んでいた。
頭があり得ない方向を向き、手足も骨が折れているようだ。血はあまり出ていないためか、すべて乾いている。正直長時間見ていたくない光景である。
この異常事態にもかかわらず、なぜかぼくは冷静になっていた。
明らかに自然に死んだものではないだろう。子猫の死骸は窓際のベランダに放置されていたが、昨日はそんなものはなかったからだ。
「事故かな?それにしてはなぜこんなところに死骸があるんだろう?
猫の喧嘩かな?でも骨を折る猫なんてものが存在するのだろうか?
他の天敵かな?それにしては食べられた様子もないんだけど…」
独り言をつぶやきながらぼくは考える。あまり考えたくないけど人間のやったことなのかな…
誰かが先生を呼んだらしく、廊下から誰かが走ってくる音が聞こえた。
騒動はそれほど大きくならなかった。死骸は先生たちに運ばれ適切に処理されることになり、先生からも登下校に気を付けるようにと注意されるのみだった。クラスのみんなも落ち着きを取り戻しているように見え、授業もいつもどおりに開始された。
<この小さな事件はサオリさんによって一日と経たずに解決されるが、ぼくはあんなにも後味の悪い結末になるとはまだ知らないのであった。>
前編・完
後編はできるだけ早く書きます。




