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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第56話 新たな討伐依頼

 殺し屋蟷螂キラーマンティス、二体を討伐した後。

 僕たちは、もう少しだけ先へと足を延ばした。

 一本道の先は湖に続いていた。

 その湖のそばには、小さな神殿が佇んでいた。

 結構、古い建物の様だった。

「これが水神みずがみの神殿かな?」

「多分……そうじゃないかしら?他に建物も見当たらないし……」

 周囲を見渡すけれど、湖とその周囲に生える木々とこの神殿くらいしかない。

「とりあえず、殺し屋蟷螂キラーマンティスは二体ともやっつけたから、これで依頼完了かな?」

「依頼内容は、この神殿の安全確保だったから、他に脅威になるものがなければ、それでいいはずよ」

 メルティナがそう言ったので、僕たちはとりあえず、神殿内に足を踏み入れた。

 神殿内はひっそりと静まり返っていて誰もいなかった。

 水神様と思われる石像があるだけだった。

 飾り気も何もないシンプルな神殿だった。

 魔物が住み着いているような気配もないし、痕跡もなかった。

 あんな殺し屋蟷螂キラーマンティスなんて魔物がいたら、なかなか他の魔物がこの神殿内に住み着くなんてことはできっこない。

 神殿内は安全そうだ。

 なので、その神殿の周囲を歩いて確認した。

 こちらも魔物などは確認できなかった。

 小鬼ゴブリン一匹すら見当たらなかった。

 安全は確保されたってことでいいのかもね。

 だから、帰路についた。

 来た時の一本道を辿って帰る。

 あっさりと街へは戻れるだろう。

 戻ったとしても、まだお昼まではそれなりに時間はある。

 本当にあっという間に終わったっていう感じだった。


 メギドの街のそばまで戻って来た。

「キャリアンヌ、ありがとうね」

 僕はキャリアンヌに抱き着いた。

 拘束されている手で、そっと頭を撫でてくれた。

 僕はキャリアンヌの足元に魔法陣を描き出す。

「えっ?ヴィオ君?キャリアンヌさんを帰してしまうの?」

 不安げな声でメルティナが尋ねてきた。

「そうだよ」と簡潔に答えた。

「どうして?」

 メルティナは、キャリアンヌを聖獣界に戻すことに反対なのかな?

「どうしてって……」

 僕はキャリアンヌに視線を向けながら言いよどむ。

 メルティナは不審げな眼差まなざしで僕を見つめていた。

「キャリアンヌの姿は目立ちすぎるんだよ。それに……いろいろと聞かれそうだし……」

 身体をベルトによって拘束されている姿。

 目元を覆い隠すマスクや鼻や口も布地で隠している。

 しかも、両手両足にはかせめられていて、そこからは鎖に繋がる棘付きの鉄球と蟹鋏かにばさみのオブジェを引きって歩くさまは、とてもごく普通の状況とは言えない。

 怪しいというか異様というか、そんな感じの見た目のキャリアンヌだ。

 僕としては一緒にいてもらった方が心強いけれど、街の人たちやギルドの人たちの目からはどう映るだろう。

 面倒臭いことになりそうだし、いちいち説明するのも手間になる。

 そういうことは避けたかった。

 キャリアンヌ自身も自らの拘束された姿を人前にさらけ出したくはないだろう。

「街の中はそれなりに安全だし、もしものことがあれば誰かを呼び出せばいいんだから、帰してしまっても問題ないはずだよ」

「まあ、ヴィオ君がそう言うなら……」

 納得はしていないけれど、メルティナは歯切れの悪い言い回しをしていた。

「またね、キャリアンヌ」

 僕は手を振ってキャリアンヌを見送る。

 魔法陣の中に佇む彼女は、拘束されている手を少しだけ振り返してくれた。

 魔法陣が輝き、キャリアンヌの全身を包み込む。

 その光が天に上るように消えた。

 魔法陣は消え去り、キャリアンヌの姿もそこにはなかった。

「討伐完了したことを伝えに冒険者ギルドに行こうよ」

「ええ、そうね。報奨金を貰って、ゆっくりとご飯でも食べましょう」

 僕とメルティナは、メギドの街の門へと向かって歩みを再開した。




 メギドの街の北門をくぐって街へと入り込む。

 あっという間に終わった依頼だったので、楽勝という感じだ。

 大通りを歩いてギルドへと向かう。

 何だか街の様子がおかしい。

 通りを行き交う人々の動きがせわしなく慌ただしい雰囲気を帯びていた。

 そう感じているのは僕だけなのかな。

 メルティナは両手を握ったり、開いたりして魔物と戦った時の感触を思い返しているかのようだった。

 だから、街の様子など気にして見ている感じはなかった。

 何だか、僕たちが水神みずがみの神殿へ向かった時と比べると、街全体の雰囲気が何か違うような気がしてならない。

 何かあったのかな?と思いながら歩いていると、あっという間に冒険者ギルドへと辿り着いていた。

 いつもなら、ギルドに入ることを躊躇ためらうメルティナだけれど、今は立ち止ることなく戸を開いてギルド内に足を踏み入れていた。

「あっ?戻ってこられたみたいです」

 聞き覚えのある声が耳に入った。

 声の主は、僕たちが水神の神殿の安全確保の依頼を請け負った際に対応してくれたオレンジ髪の受付嬢だった。

「メルティナさん、こちらです」

 手を振って迎えてくれている。

 熱烈な歓迎ぶりに、僕とメルティナは顔を見合わせた。

 オレンジ髪の受付嬢は、小走りに駆け寄って来た。

「神殿周辺の安全は確保されましたか?殺し屋蟷螂キラーマンティスは、どうなりました?」

 矢継ぎ早に尋ねてくる。

殺し屋蟷螂キラーマンティスは、二体ともメルティナがやっつけてくれたよ。行く途中で変な奴とも出くわしたけれど……」

「変な奴?」

 僕の曖昧な説明に困惑して受付嬢は首を傾げていた。

「神殿に行く途中で怪力漢ギガスと遭遇したんですけれど、それも退治しておきました」

 メルティナがそう言うと「さすがは、メルティナさんです」と瞳をキラキラと輝かせながら尊敬の眼差しをこの受付嬢はメルティナに向けていた。

「ピチカ、その人がそうなの?」

 受付嬢の背後から別の声が飛んだ。

 ピチカと呼ばれたオレンジ髪の受付嬢と同じ制服に身を包んでいる大人の女の人がいた。

 赤みの強い茶色いボブヘアーの女の人だった。

 すらっとした細身の体格で、結構背が高い。

 凛とした声色が印象的だった。

 腕組をしながらゆっくりとした足取りで僕たちの方へと近づいてきていた。

「あっ!ギルドマスター。そうです、この方です」

 ピチカは、振り返りボブヘアーの女性に向かって頷いていた。

 両腕でメルティナを指し示している。

「ギルドマスター?」

 僕とメルティナは、同じことを同時に口にしていた。

 二十代半ばから後半くらいの人だと思う。

 大人の雰囲気というか、オーラとでも言うのかな。

 他の受付嬢とは違った死線を潜り抜けてきたと言ったらいいのだろうか。

 そんな独特の雰囲気を醸し出している人だった。

 多分、元冒険者だと思う。

 ただ、そこに佇んでいるだけでも、ちょっとした威圧感を僕は感じた。

「あなたがメルティナ・メーベリアさんでいいのね?」

 ギルドマスターに尋ねられ、「はっ……はい」と、呆気にとられたような表情でメルティナは返事をしていた。

「初めまして。私はこのメギドの街の冒険者ギルドのギルドマスターを仰せつかっているルミナリエ・ルミーリアと申します」

 腕組をしたまま、ちょっとだけ頭を下げてきた。

 反射的に、「ど~も……」という感じでメルティナも頭を軽く下げて会釈していた。

「とても実力のある凄腕の冒険者だと、そこのピチカから聞いています。よろしければ、冒険者証明書を拝見させてもらえないでしょうか?」

 言い方はものすごく丁寧だったけれど、メルティナの実績に何だか疑いの目を持っているような、そんな感じにも聞こえた。

 何やら嫌な予感を感じたのか、メルティナはどうしよう?といった様子で僕に視線を向けてきた。

「見せてあげたら」

 僕は顎をしゃくった。

「はぁ~……」と溜め息をついた後、メルティナは背負っていた背負い袋ナップザックから一枚の紙切れを取り出し、それを手渡した。

 渡した紙切れはメルティナの冒険者証明書だ。

 メルティナが冒険者になってから、これまでの実績が書き記されている。

 と、言っても、どれもこれも僕の召喚獣が成し得たことがメルティナの実績として書かれているのだから、メルティナの本当の実績ではない。

「拝見します」

 ギルドマスターのルミナリエは、折り畳まれていた紙切れを開いて行く。

 それに目を落とした途端に顔色が変わった。

「……嘘でしょう?冒険者になって二日目でキラーベアーを二頭討伐?スネークドラゴンを単騎で十匹以上討伐したの?どうなっているの?冒険者になってまだ一年も経っていないのに何なのこの記録は……」

 書き記されている内容に驚き戸惑っていた。

「それに称号も貰っているの?『龍殺しドラゴンスレイヤー』や『巨漢殺しトロルバスター』って、それぞれ別の街のギルドマスターから貰っているなんて……信じられないわ……」

 わなわなと打ち震えていた。

 メルティナは申し訳なさそうな表情をしている。

 僕としては、ものすごく驚いているギルドマスターの様子がおかしくてたまらない。

「メルティナさん」

 ギルドマスターは、冒険者証明書から顔を上げるとメルティナに詰め寄った。

 ガシッ!とメルティナの両手を鷲掴みにして「あなたにお願いしたい緊急の依頼があるの。引き受けてもらえないかしら」と迫っていた。

「えっ?いやぁ~……あの~……」

 メルティナは、苦笑いしながら断ろうとしていた様子だ。

 メルティナの実績を見て依頼したいなんて言って来るからには厄介な依頼というか、厄介な魔物の討伐依頼なのは目に見えていた。

「どうしても、あなたでなければできない依頼よ。お願いできないかしら?」

 メルティナの両手を握って、このギルドマスターは離さない。

 多分メルティナが引き受けると言うまで離さないかもしれない。

「その依頼って魔物の討伐なの?」

 僕が尋ねると「ええ、そうよ。この凄い実績があるんだもの。魔物の討伐以外には、あり得ないわ」とギルドマスターはメルティナの冒険者証明書を広げて見せてきた。

「ちなみに……何体討伐するんですか?」

 控えめに小さな声でメルティナが尋ねていた。

 さっきの殺し屋蟷螂キラーマンティスは、二体の討伐依頼だった。

 今から引き受けさせられるのは、もっと多い数なのかもしれない。

 数が多ければ多いほど、危険度は増すというものだ。

「討伐対象は、たったの一体よ」

 簡単と言いたげにギルドマスターは答えていた。

「一体だけでいいの?」

「ええ、一体だけですよ」

 確認すると、はっきりとそう言っていた。

 一体だけだったら楽勝じゃん。

「引き受けてあげたら?」

 僕は横目でメルティナを見上げてささやく。

「はぁ~……しょうがないわね。ヴィオ君が、そう言うなら引き受けても良いですよ」

 どうせ僕の召喚獣で倒してしまうのだから。

 しかも、たった一匹。

 楽勝に違いない。

「引き受けてもらえるんですね?」

 再度確認するようにギルドマスターはメルティナに尋ねた。

「ええ、たった一匹なら、引き受けますよ」

 メルティナの返答を聞き、すぐさま手に持っていたメルティナの冒険者証明書を脇にいたオレンジ髪の受付嬢に手渡していた。

「ピチカ、すぐさま手続きを」

「はい」

 命じられた受付嬢は、冒険者証明書を持ってカウンターへと滑り込み、書き込みを始めた。

 これで、ギルドマスターから依頼された魔物の討伐の仕事を引き受けたことになる。

 さて、どんな魔物の討伐依頼なんだろうか?

 殺し屋蟷螂キラーマンティスなんていう魔物の討伐をさせられたんだから、それと同程度くらいの魔物の討伐依頼だろうね。

 並の冒険者では対応できなような、少々厄介な魔物となると何かな?

「ねえ、その討伐するって魔物はどんな奴なの?」

 気になったので尋ねてみた。

「私も実物を目にしていないのだけれど、情報では今まさにこの街へと向かって来ているって話しね」

 んっ?

 この街に向かって来ている?

 なんだか最近同じような話を聞いた気がするんだけれど……。

 嫌な予感がした。

「四つの街を壊滅させた魔物らしいわ」

 ギルドマスターの言葉に、僕とメルティナは顔を見合わせて絶句した。

 言葉が出なかった。

「それって……滅茶苦茶でっかい魔物だったりする?」

 思い当たることがあるので聞いてみた。

「あら?知っているの?バジールの街から、このメギドの街へ向かっているらしいわ」

 うわ~……それってバジールの街で聞いた、でっかい魔物のことじゃん。

 それと遭遇しないようにこの街にやって来たのに、この街に向かってきているなんてあり?

「えっ?でも、その魔物を討伐するためにバジールの街の冒険者ギルドは冒険者たちを集めて討伐隊を結成して送り出していたはずですけれど……」

 メルティナの言う通り、僕たちはこのでかい魔物討伐に向かって行った冒険者たちの集団を目撃していた。

 誰も彼も強そうな人たちばかりだった。

 その人たちは、どうなったんだろうか?

「そのことも知っているのね?バジールの街から送り出された討伐隊は全滅したと報告があったわ」

 最悪な状況だよ。

 討伐隊の冒険者たちがやっつけてくれることを願ったんだけれど、無理だったようだ。

 全滅したとはね。

 相当な強さの魔物みたいだ。

「嘘ですよね?」

「本当よ。つい先ほど、その連絡がきたわ」

「えっ?じゃあ、バジールの街は壊滅しちゃったの?」

 ギルドマスターに尋ねたけれど、先ほど彼女は四つの街を壊滅させた魔物だと言っていた。

 バジールの街で聞いた時も四つの街を壊滅させた魔物だと聞いた。

 と、言うことは……。

「バジールの街は無事よ。方向転換して、このメギドに向かって来ているみたいなの」

 うわ~……そういうことか。

 バジールの街の冒険者ギルドを出て行く際に受付嬢が方向転換したみたいな声を上げていたけれど、あれって魔物が回れ右して帰って行ったものだとばかりに思っていたけれど、違ったみたい。

 このメギドの街へと向かって方向転換したって意味だったんだ。

 それをちゃんと確認していたら、この街に来る必要なんてなかったじゃん。

 バジールの街にいた方が安全だったってことだよね。

 失敗したと思っても後の祭りだ。

「えっ?」

 メルティナは、ものすごく動揺し、困惑した瞳で僕を見ていた。

 僕が悪いわけじゃないよ。

 メルティナが早くこの街へ行こうって言って、ここに来たんだからね。

 と、言い合うつもりはない。

 こうなってしまったからには腹をくくるしかないね。

 しかも、その巨大な魔物を討伐するって依頼を受けてしまった。

 もう、後には引けない状況になっていた。

「どうしよう?ヴィオ君。とんでもないことになっちゃったわよ」

 かがみ込み、僕の耳元で小さな声で耳打ちしてきた。

「なるようにしかならないでしょう。もう、腹をくくるしかないよ」

「どっちにしてもこうなる運命だったってことね」

 メルティナは、がっくりと項垂うなだれた。

 逃れられない運命というものがあるのならば、それは今この時のことを言うのかもしれないと思った。

「それで、その魔物の特徴とかはわからないの?」

 まだ、どんな魔物かわからないままだ。

 ただ、大きいということだけはわかっている。

「討伐対象はドラゴンよ」

 ギルドマスターのあっさりとした言葉に「ドラゴン?」と僕とメルティナは声をそろえて叫んでいた。

 ドラゴンで、しかも巨大な奴って、最悪な相手じゃない?

 こりゃ本当に僕の最強の召喚獣であるドラグリアでないと倒せないかもしれない。

 メルティナが装備している鎧は、ドラグリアが討伐したスネークドラゴンの鱗を使用している。

 ドラゴン族は猛烈に強固な鱗に覆われた身体をしていることが多い。

 生半可な武器では鱗に傷一つ付けられない。

 そう考えると、バジールの街の冒険者では、全くと言っていいほど相手にはならなかったことだろうね。

「漆黒の鱗を持つ巨大陸竜きょだいりくりゅう……『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』一頭が今回のメルティナさんの討伐対象です」

 書き込みが終わったメルティナの冒険者証明書をピチカから受け取り、ギルドマスターはメルティナに手渡した。

 もう、依頼を受領したことが証明書に記載されてしまった。

 逃げるわけにはいかなかった。

 それにしても、ちょっとずるいよな。

 それなら最初からドラゴンの討伐依頼だって教えてくれればいいのに……。

 でも、そこまで僕たちが確認しなかったことが悪いと言われれば、それまでではある。

 自分の冒険者証明書を見詰めながら、メルティナはどうしていいのか困り果てていた。

「メルティナ、もうやるしかないよ」

 僕は覚悟を決めるようにとメルティナの腰に手を当てた。

「大丈夫よね?」

 小声で尋ねられた。

「ドラグリアに任せれば大丈夫」

 ギルドマスターたちには聞こえないように小声でメルティナにそう言ったけれど、実際にどれくらいの大きさのドラゴンなのか確認しないことには何とも言えないかもしれない。

 想像していたものよりも大きかったら……ドラグリアは戦ってくれるだろうか?

 頼れるのは最強の召喚獣であるドラグリアだけだ。

 ドラグリアがお手上げしてしまったら、本当にどうしよう。

 この街のことは放っておいて逃げるしかないね。

 まあ、そんなことをしたら二度と冒険者としてギルドの敷居はまたげないだろうけれどね。

 僕とメルティナが小声でやり取りしていると、ものすごく慌てた様子の男の人がギルドの入り口のドアを蹴り開けて飛び込んできた。

「ギルドマスター、ドラゴンだ。でかいドラゴンがやって来た」と、半狂乱な様子で叫んでいた。

 一気にギルド内が、ざわめき立つ。

「メルティナさん、こちらへ」

 ギルドマスターは、メルティナの腕を掴むと引っ張るようにしてカウンターの奥へと連れて行った。

 僕は、慌てて二人を追いかけた。


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