臆病者
ある村に一人の未熟な臆病者がおりました。
その臆病者は、村の人々から、嫌われるのを何より恐れていました。
誰の意見も否定せず、自分の意見も全く言わずにただ笑っていました。
そんなある時、傲慢な村の長は、退屈で村の人々に言いました。
「この頃、この村は、退屈で、退屈でつまらない。誰が私にショーを見せて楽しませろ!!」
人々は、戸惑い表情を浮かべていましたが誰も何も言いません。
ここで、暮らしてゆくには、この長に従うしか無いのです。
誰も手を挙げない中、一人の青年が手を挙げました。
その青年は、長のお気に入りで、弱いと判断した村の人々をいつも馬鹿にしていました。
長は、驚いた顔になり
「お前が楽しませてくれるのか?」
と言いました。
ですが、青年は、首を振り、臆病者を指差して言いました。
「私のショーなど、長の前では、到底見せられません。」
青年は、長の顔を見て、胸を張りました。
「しかし、私は、彼のショーに胸を打たれました。彼ならきっと良いショーを見せてくれるでしょう。」
長に丁寧にお辞儀をして、下を向いた青年の顔はニヤニヤと悪魔のように笑っていました。
「本当か!!ならば、お前。今夜、村のステージでショーを見せい!!」
長は、笑いながら去っていきました。
村人たちも安心した顔になり、自分たちの家へ帰ってゆきました。
取り残された青年と臆病者。
青年は、臆病者の肩を叩いて言いました。
「悪かったね。君は、優しいから村のヒーローになってくれると思ったんだ。それに君のショーを見て笑ったのは、本当だよ?期待してるよヒーロー」
そう言って、去って行ってしまいました。
独りになってしまった臆病者は、困り果ててしまいました。
ショーをやったことがあるのは、一回だけでとても人に見せられるものでは無かったのです。
実際に、村のステージでショーを演じたとき村の人々は、臆病者のショーを馬鹿にして笑いました。
本当は、ショーなんて笑われるだけなので
やりたくない臆病者は、どう逃れるか独りで悩みました。
結局、夜になっても答えが出ず、ショーの時間がやってきてしまいました。
ステージの会場には、村の人々が全員集まっていました。
全員、悪魔のような笑顔をしています。
やがて、始まりの合図が鳴り、臆病者がステージに現れました。
ですが、やはり臆病者のショーは、とても下手くそでした。
というか、臆病者は、強制されてやる気が出なかったのです。
なので、良い意味で言うと自由に、悪い意味で言うと、いい加減にショーをしていました。
台本もロクに考えず、ただ逃れる方法だけを考えている臆病者が良いショーなんて出来るはずがないのです。
ぶぅ〜
村の人々は、思い思いにブーイングを飛ばして
疲れたらスマホを見ていました。
長も青年も高所から酒を飲みながら、臆病者を馬鹿にして見下ろしていました。
そのうち、臆病者の中にある感情が生まれます。
それは、怒りなんて物ではなく、憎悪でした。
その憎悪の矛先は、村の人々や、長だけでなく、何も言えずに人に嫌われるのが怖くて、逃げていた自分にも向けられました。
人を信用していない癖に、人に好かれたい。
そして、それが傲慢な事だと知っていながら変わろうともせず、ダラダラと生きてきた。
「あぁ~そうか、自分はこんなにも卑怯者だったのか。これじゃぁ、まるで詐欺師しゃないか。」
自分に、村人や青年を責める資格は、無い。
臆病者は、気付きました。
そして、自分も村の人々も全て嫌いになった臆病者は、良いことを考えつきました。
この台本もロクに考えていないショーの中で
本当に首を吊って死のうとしたのです。
それからの時間の進みは、とても早かった。
そして、
「さらば、愛しき私よ。」
ベストなタイミングを作り出した臆病者は、遂に首を吊りました。
苦しくて、意識が遠のくのが分かりました。
ですが、走馬灯を見始めた所で運悪くロープが切れてしまったのです。
臆病者は、地面に落ちてしまいました。
その音を聴いて、先程までスマホを見ていた
村人たちは、一斉にステージを見ました。
カメラを向けるものや、ブーイングを浴びせる者、スマホゲームをする者。
反応は様々でした。
長と、青年はまだ、馬鹿にして嘲笑っていました。
そんなわけでショーは、大失敗で幕を閉じて
臆病者は、村の人々から笑い者にされる日々。
もちろん、臆病者を陰ながら好いてくれる者もいました。
でも、臆病者は、その好意を見ないふりをしました。
悲劇の主人公で有りたかったからです。
誰からも愛されず、自分が嫌いな哀れな主人公でいれば、同情してもらえると考えていたのです。
死にぞこなっても、何一つ変わりませんでした。
恨んで、逃げて、泣いて、笑って、怒って
臆病者は、そんな無意味な日々をただ淡々とおくってゆきました。
それから……
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