ダンジョンでの注意事項とダンジョンについて
ここは迷宮都市ラピリスヘイムの中にある宿の一つ、Cランク冒険者御用達の宿屋だ。それも一ヶ月半の宿泊で宿泊予定になっている。
Cランク冒険者になるとそれなりに稼ぎがよく、そのCランクが泊まる宿もそれなりに良い宿だ。防犯にも優れ宿の施設や出される料理の質もかなり良い。
俺はBランクだから一ヶ月半くらい泊まれるが。Eランクのセシリアとアンジェリカと仮登録のシャノンだとかなりどころか普通に無理だ。
だから今回は俺の自腹で出している。当然彼女達には俺からの借金と言うことで。ちゃんと無期限、言う訳ではないがダンジョン探索で稼いだ一部から返してもらうし、利息もないから安心して欲しい。
「まず最初にここ迷宮都市ラピリスヘイムのダンジョンでの注意事項を三つ、説明しておく」
「わ、わかりました」
「ダンジョンの、注意事項……」
「……」
三人とも、まるで先人から教えを乞うみたいな顔をしている。
「まず最初の一つ目、それは」
「「「それは?」」」
「大技を極力使わない事」
「「「……はっ?」」」
「それは……、大技を使うとダンジョンが崩れるから、ですか?」
「いや、違う。そもそもダンジョンはそれくらいでは壊れない。いや、壊せない、だな」
ダンジョンの内も外も、とても頑丈で壊す事は不可能なのでは?とされている。
「そもそもダンジョンはどうやって稼働しているのか、だ」
一般人的にダンジョンはダンジョン内で受けたダメージや負の感情を喰らって稼働しているとされている。
ダンジョン内のモンスターや罠は中に入った者を必死にダメージを負わせに来ているのが多いことから受けたダメージがダンジョンのエネルギーと考えられている。
負の感情に関しては、この迷宮都市ラピリスヘイムにはないが、他の何処かのダンジョンで異様にダンジョンに入った者へ嫌がらせをさせ、殆どダメージを負わせないダンジョンがあったことで、ダンジョンは負の感情も食うと考えられる様になった。
ここまでを彼女達に話した。
「ならダメージを極力負わない、やストレスを溜め込まない、が最初の注意事項になるのでは?」
「それはそうだが、それは二つ目で、一つ目の大技を使わない、には理由はちゃんとある」
これは一般には知られていないことだが、ダンジョンはダメージや負の感情以外にも、ダンジョン内の入ったあらゆるものを食らっている。
それはエネルギーであれば、ある程、ダンジョンは強化され、稼働していく。
それらを彼女達に話すと
「そ、それは、どういうことですか?」
「つまり、魔法やスキルを使えば使う程、ダンジョンはそれを糧に強化されて行くって事だ」
「えぇ!?だ、ダンジョン探索してる冒険者が今でも何千人いると思ってるんですか!?それじゃあ、ダンジョンが強くなりすぎてダンジョン探索なんて無理ですよ!?」
「そう大声を出すなって、安心しろ。ダンジョンはそう簡単に強化できないから」
「えっ?あっ……どういうことですか?」
ダンジョンは中に入った者からエネルギーを奪っていくが、当然奪われる側も奪われるばかりでは無い。
ダンジョン内外でもモンスターに襲われれば誰だって抗う。それは時として打ち勝つこともある。特にダンジョンに潜る者は冒険者や強さを求める武芸者などの戦闘に携わる者が殆どだ。
エネルギーを殆ど発さずにモンスターを倒せば、エネルギーを使って、モンスターを生み出した側のダンジョンの損失になるし、ダンジョンで倒したモンスターは復活するがその復活にだってエネルギーを使う。これはダンジョンで発掘されるアイテムも同じだ。
「つまり、エネルギーを奪われる量よりもモンスターを倒す、アイテムを持ち出す量の方が多ければダンジョンが強化される事はない、という事ですね!」
「そういう事だ」
「ん?ならなんで大技はダメなんだ?大技使った方が多くのモンスターを倒せるだろ?」
「……アンジェリカ、お前は雑魚を狩りまくって強くなれるのか?それで自分は強いって言えるのか?」
「……すまん」
確かに雑魚は多く狩れるだろう。だがそれだと自分のレベルは上がらないし、大技に使ったエネルギー量と倒した雑魚のエネルギーを釣り合わせれると圧倒的に大技に使ったエネルギー量の方が多い。
「しかし、流石Bランク冒険者。よくそんな情報を知ってますね。まるでアルベルトさんがダンジョンだったみたいです」
「……二つ目はさっき言ったダメージとかについてだが、これは飛ばしておこう。三つ目が重要なんだ。そしてさっきまで話していた情報にも深く関係する」
「えっ?」
「三つ目の注意、いやこれは絶対だな」
「絶対、ですか?」
「あぁ、絶対だ。いいか?これは絶対にやるなよ」
俺達一息ついてから次の言葉を出した。
「絶対に、ダンジョンマスターは殺すな」
「「「えっ!?」」」
俺の言葉に三人ともが驚きと疑問の声を上げた。
「な、なぜだ!?ダンジョンマスターと言うのは悪い奴なんだろ!?」
「そうですよ!アルベルトさんも知らない訳じゃないはずです。ダンジョンを作り出す者、それがダンジョンマスター。年間ダンジョンで誰だけの者が死んでいるのかを!」
「……ダンジョンマスター、は魔王の、残滓……。生かして、おいてはいけない、存在だって、聞いた……」
それぞれの反応は一般的に見れば正しい。
2000年前に存在した最初の魔王にして魔神教が崇める神の中の一柱。ダンジョンはそんな魔王が最初に作り出した物で、魔王が人間に与えた災害だ。現在魔王は封印されているが、ダンジョンは今も新しく増え続けている。
年間でダンジョン内で死んだ者は数え切れず、放置しているとダンジョンからモンスターが溢れ出し、周辺にモンスターと言う災害を撒き散らす。
そして、ダンジョンマスターは魔王の力を引き継いでいるのか、人をダンジョンに依存させ、宝を与える代わりに惨たらしく命を奪っていくと世間では認知されている。
実際に現在の人間はダンジョンを無限に湧き続ける金鉱のように、毎日出入りして、ダンジョンから得られた富で生活していると言っても過言ではない。
「普通に考えればダンジョンマスターってのは殺されても文句は言えねぇよな。でもな、ダンジョンマスターは人なんだよ」
「「「え」」」」
「ダンジョンマスターは人でダンジョンとはその人の家。で、俺達は他人の敷地に高々と入り込んで番犬殺して他人の敷地内にある物を奪っていく。やってる事は盗賊や強盗とそう変わんないんだよ。だから向こうは正当防衛でこっちを殺しに来てるんだ」
「た、確かにそう言われればそうですけど……」
「まぁ、向こうも、俺達が入ってくれないと死んじまうからな」
「「「えぇぇ!?」」」
「ダンジョンマスターって、何もしないと勝手に死んじゃうんですか!?」
「そうだよ。言ったろ?ダンジョンに入った者からエネルギーを奪うって。そのエネルギーはダンジョンを支配するダンジョンマスターに行き、ダンジョンマスターはそのエネルギーでモンスターやダンジョンを生み出し、ダンジョンを強化して行く。そして余ったエネルギーはダンジョンマスター自身の生存と自己強化の為に使われるって訳だな」
「てことは」
「ダンジョンマスターはダンジョンを攻めて貰ってエネルギーが欲しい。俺達冒険者はダンジョンから取れる宝が欲しい。WIN-WINな関係って事だな」
「ん?それでは、何故ダンジョンマスターを殺してはダメなんだ?」
あまり話の内容が飲み込めていなかったぽいアンジェリカが話しかけてくる。
「……アンジェリカ、そもそも人を殺すことは良くない事だぞ」
「私の住んでいたところでは、人同士の殺しなど日常茶飯事だぞ?」
「……まぁ、そんな物騒なところは後回しにして、さっきの質問だが、単純にダンジョンマスターを殺してはダンジョンから得られる富が得られなくなってしまうからってのと、領主からの命令だな」
「領主、ラピリス伯爵ですか……。それなら絶対にダメですね」
「そう言うことだ。それら三つが守って欲しい注意事項だ。これから一ヶ月は例の依頼までの猶予がある。それまで、ダンジョンで力をつけて行こう」
「わかりたした……」
「ダンジョンマスター、戦ってみたかったな」
「わかった……」
「ちなみにダンジョンマスターと戦う事は禁止されてないぞ」
「本当か!」
「ただし、殺すな、戦いを強制するな」
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