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2017ーanother  作者: セビル
2/2

二日目

築何十年か分からない、少なくとも私が生まれた時からあって、私の母もこの家で幼少期を過ごしていたのだから最低でも50年は経っている2階


建ての木造住宅が現実の住いだ。

1階にはキッチンとリビング。祖母と今は亡き祖父の寝室と、ほとんど入ったことのない謎の衣装室。そしてかつて曾祖母が使用していた部屋に


今は私が寝泊りしている。

ずっと前に増築して増やしたという2階は二部屋あり、片方は娘のゆかなの部屋になっている。もうひとつは物置となっているが、私の初めての


ひとり部屋だった部屋だ。その証拠に今でも私の学習机がおいてある。ウルトラマンの絵柄のいかにも昭和の子供が好みそうなものだ。

この机の引き出しの中にはきっと今でもかつて宝物だった蝉の抜け殻や、変な形の折り紙が入っているのだろうが、その引き出しを空けて過去の


思い出に浸る気はない。


時刻は朝の4時。

1枚のメモがこんなにも自分の心拍数を上げることになるなんて思いもしなかった。

誰かの悪戯か?ゆかなだろうか?しかし、例え悪戯であったとしても夢とリンクしている点は理解に苦しむ。

できるならメモの謎を解き明かしてしまいたいけれど、仕事の時間が迫っている。

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら玄関の横にあるトイレへ向い用をたしおえたら隣の洗面所で歯を磨く。

足元で猫のみいが喉を鳴らす。この猫は私が小学生だったころからこの家にいる。つまりもう20年以上生きていることになるから化け猫になって


いても不思議ではない。人間だったなら100歳を越えていることになるが、見た目はまだまだ美人だ。美魔女というのはこいつのことだろう。

昔と変わったところといえば模様が薄くなったことと、声がガラガラになったことくらいなのだから。

歯を磨き終えた私は部屋に戻り、携帯のソーシャルゲームを開きログインボーナスを貰いながらタバコを吸う。日課なのだ。

その後、冷たいゴムのライナーと呼ばれるものを左足の大腿切断部へつけ、先端についたネジを義足のソケットへ装着する。

上着を羽織るときにズボンのポケットへメモを押し込む。そして仕事へ向う。





ジャラジャラと小銭を投げ入れる音を聞き、乗る人が乗り、降りる人が降りるのを確認したらドアを閉めてアクセルを踏む。

毎日たいして変わらない景色を眺めながら路線バスのアクセルを踏む。

私(神田雄三)がこの青森県むつ市へと帰ってきてからもう何年たっただろうか。

東京には友と呼べる者もいたし、忙しくも助け合いながら頑張れる仲間に囲まれた仕事もあった。

それらを振り払い、まだ幼い娘のゆかなを連れて私はこの生まれ故郷へと帰ってきた。当時すでに寂れはじめていたこの町で職にありつけたのは


親戚のおかげだ。

決していい暮らしができる給料を貰えるわけではない。土日祝日を休めるわけでもない。

手取りは17万を切るくらいだし、今後昇給する見込みも薄い。

それでも今の今まで続けてこれたのは、長い拘束時間のほとんどを誰にも縛られず、無駄なコミュニケーションを取る必要もなく一日を終えられ


るからだろう。


今朝のことは、何だったのか。それを考える時間はたっぷりある。

幸い自分は体に運転させて思考を別のことに使うことには長けているようだ。

もちろんこの仕事は自身だけじゃなく、他の乗客がいる以上思考の全てをそちらに注ぐことはできない。

だからいつもは業務中にここまで他のことに思考を傾けることなんてないのだが、今日ばかりはどうしてもそれができそうにない。

夢の記憶はすでに断片的に薄れてきている。夢なんてそういうものだ。

大事な部分を忘れてしまう前に内容を補完して記録しておかなければいけない。

妻にあった。

相変わらずの声と仕草。

机の上をみてね。

また夢の中で。

実際にあったメモ。

私はおかしくなったのだろうか。いや、とてもそうは思えない。

もしもおかしくなれるものなら10年前になっているはずだ。

当時狂えなかった自分が今になって狂えるなんて時差があるにもほどがある。

だからもしも。もしも今日見た夢が現実だったなら?このメモは本当にかなみが書いたものなのでは?

そう思ってしまうのも仕方がなかったが、同時にそんなことはありえないし、ありえないことで完結させようとすることのほうが狂っていると思


う自分もいる。

やはりいくら考えても何も分からない。

今日はこんなことをぐるぐると考えて仕事が終わった。


仕事を終えると私は特に寄り道をすることもなく真っ直ぐ家へ帰る。

「おかえり」

祖母が声をかけてくれる。

「うん。ただいま。ゆかなは?」

「まだ帰ってないよ。」

中学生になった娘とは最近うまくいっていない。この数ヶ月まともに会話もしていない。

思春期だからというのもあるかもしれない。寂しいが、こちらから変に近寄って悪化することも怖いので私も今の距離を保っている節がある。

夕飯は祖母が用意してくれたもの食べ、自室に篭ってノートパソコンでメールチェックをする。

いくつかのWEBサイトを運営しているので、そちらの問い合わせ対応等だ。

そうしていると階段を登っていく足音が聞こえてくる。娘が帰ってきた証拠だ。

私がいまいる部屋の真上が娘の部屋であり、真横が階段になっているが、古い家なので華奢な娘が階段を上がるだけでそれなりに大きな音がする


。私が2階へ上がっていったら階段が抜けるかもしれない。問い合わせ対応を終えると、シャワーを浴びて睡眠薬を飲む。そして携帯のアプリで


カードゲームをする。睡眠薬を飲んでから1時間ちょっとすると眠気がやってくるので、それに逆らわずに眠る。強い眠気ではないが、逆らって


しまうともう眠れなくなってしまう。そうなればもう一錠薬を追加しないとまったく眠れなくなってしまうから大変だ。

特に今日は確かめなくてはならない。あのメモが本物なのか、それとも私がおかしくなってきたのか。






目の前にある玄関の扉は、東北の築何十年か分からない家のものではなかった。

これは私が妻と一緒に過ごした東京のマンションだ。駅から近く、築年数も10年以内の綺麗な物件だった。駅近築浅家賃も手ごろなのだから部屋の狭さには目を瞑るしかない。ポケットに手を突っ込むが、あのメモは持っていなかった。それよりも、今この瞬間に私の記憶がはっきりしていることに驚く。覚えている。これは夢だし、私は昨日夢で彼女にあった。心拍数が上がっていくのが分かる。胸の鼓動の高鳴りを抑える術を知らない。玄関を開ける。

「おぉっ!きたかね」

よく分からないキャラだ。

中に彼女がいるだろうことは予想していたが、分かっていてもこみ上げてくるものは止められそうにない。

「またかよお。全然話が進まないよお」

嬉しそうな声で困った困ったと続ける彼女の顔が涙で滲んでよく見えない。私も結構なオヤジになっているわけなので、こうやって涙を流すことに抵抗がないわけではない。状況を理解できている分、昨日より早く落ち着きを取り戻すことができた。

「ちょっとは信じてくれた?私マジで本物なんだけど!凄くない?」

まだ少し怪しい部分もあるが、私自身信じかけてきている。今ここにいる彼女は私の脳が作ったものではなく、本物なのではないかと。

「もう一押しかなあ。けどこうやって会うのってあんまりよくないんだよね。」

「なぜ?」

「んん。本来は寝るときってカラダを休ませてるわけでしょ?けど私といるとカラダが休めないわけ。いや、休んでるには休んでるけど全力休みはできないみたいな感じ。」

幽霊に憑かれたようなものを一瞬想像してしまったが、こんな愛しい幽霊もいないだろうと少し可笑しくなった。

「なんで笑ってるのか分かんないけど、とにかくそういうわけだからあんまり長くはいられないの。」

「時間はどれくらい?」

「んん30分以内かな」

夢の中での30分が、どれくらいなのかイメージが沸かなかった。

「っていうか、睡眠薬に頼るのやめたら?カラダ借りた時すんごいだるかったんだけど」

「そうそう!カラダ借りた時ちょっと思ったんだけど、あ、やぱいいや」

話たいことがたくさんある。なのに不思議と彼女の話を聞くだけで満足してしまう。

「明後日仕事休みでしょ?私もその日休みとるからさ、デートしよう!」

「休みとるって、働いてるのか?」

「そりゃそうでしょうよ!ニートしてるとでも思ってたわけ?昨日もいったけど、私こうみえて結構頑張ってるからね!だからこういうボーナス貰えたわけ!ニートだったらただのオバケじゃん」

ジョークのつもりだろうか。当然のことのように話しているが、正直よくわからない。

「明後日の15時に玄関前にいるから、そこから2時間お散歩しよう!」

「散歩?俺にかなみは見えるのか?」

「見ることはできないと思う。ゆぅって絶望的にそういう力弱いし」

「そうなの?じゃあどうすればいいんだろう。」

「好きなところにいっていいよ。見えないかもしれないけど、私ちゃんといるから。あれ?やばい、これホラーじゃない?」

彼女は一人で喋って笑ってる。気づけば自分も笑っていた。

「そうそう、ここでのことって目が覚めると忘れやすいんだって。夢じゃないけど夢とそんな変わらないものでもあるかららしいのね」

「らしい多いな」

「まぁまぁ。そんなわけでさ、すっぽかし食らうのもやだからあとでまたカラダ借りるよ。そんでラブレター書いてやんよ」

そろそろ時間らしい。この時間が終わるのが嫌で彼女を強く抱きしめたが、強い睡魔が襲ってきて眠りに落ちていくようだ。

この睡魔には逆らえない。国語の授業で15分間教科書を読むだけの時に襲ってくる睡魔以上だ。

どうかこれが脳みそが作ったただの夢じゃありませんように。




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