再会
玄関のドアを開けると「おかえり」と言葉が帰ってくる。
毎日聞いていた言葉だが、今は何度聞いても聞き足りない。
この声と言葉を聞くとここが現実でないことを嫌でも実感してしまう。
それでもいい。今はとにかくその姿をこの目で見たい。小さなマンションの一室だから玄関をあければすぐにキッチンがある。奥のソファーにちょこんと座る妻の姿が目に映ってすぐに視界はぼやけてくる。涙がにじんで彼女の姿を映すことを邪魔してくる。年に何度かこういう夢を見る。夢だと気づくこともあれば、予め決められたストーリーを演じる役者のようになる時もあるし、過去の再現のような場合もある。
今回はもう気づいてしまった。だとすれば時間がない。明晰夢はたいてい自覚してすぐに目が覚めるか記憶が途切れてしまう。その前にできるだけその姿を目に焼き付けておかなければならないし、できるだけ抱きしめておかなければならない。
「ちょっちょっと、落ち着いて!いや嬉しいんだけど。一回タンマタンマ」
彼女の軽い言葉に反応し、抱きしめていた力を緩める。
改めて彼女をみると、昔のままだ。今の自分は彼女の目にどう映っているのだろうか。
「ちょっとおでこ広がってきた?」
何か返事をしなければいけないが、喉の奥に何かが絡まってうまく言葉が出せない。
「会いたかった」と彼女の質問を無視する形で発した言葉も、ちゃんと言葉になっているのか怪しい。
「私もだよ。ありがとう。」
伝わっていたようだ。これも自分の脳で作り出した幻なのだろうが、だとしても良くできているし、自分が作っているという自覚がない以上本物に変わりない。気づけば彼女も泣いているし、自分の涙も止まる気配はない。彼女は何か伝えようとしているが、泣き出した彼女もまたうまく言葉が出せないようだ。二人が落ち着くまで少しの時間を要した。
「もう、今日は話したいことがあってきたのに、泣かせないでよ。時間は有限なんだから大事にしてよね」
彼女の説明では、これは夢だが彼女は自分が作り出した幻ではなく本物だということだった。
「私もね、結構あの世で頑張ってるからこういうボーナス貰えるようになったわけ!褒めていいよ」
「でもたぶん、ゆぅってあんまり信じてくれなそうだから、1週間くらいはまず信じてもらうことに時間を使おうと思います!」
涙はやっと収まって、彼女の笑顔を目に映すことができるようになっていた。
この突飛な会話も、笑いながら聞くことができた。
「はいはい、信じてませんね。そこ予想済なんで。」
「とりあえず、このあとちょっと体借りるから、朝起きたら机の上みてね。手紙残しとくから」
かなみがそういうのなら、なんだっていう通りにするよ。だから今はもう一度抱きしめたいと伝えると、「調子の狂う奴だ」と笑いながら彼女のほうから飛び込んできた。
年に何度かこういう夢を見る。そして幸せを思い出して幸福感を得て、目覚めたあとの現実に彼女がいないことを思い出すと途端に空しくなる。
上げて落して、落ち込んで、自分の脳みそながら嫌気がさす。
だけれど感謝もしている。
結局自分の脳みそなのだ。
この日もまた目覚めて気づく。
やっぱり夢だったのだと。
「朝起きたら机の上みてね」
仕事の用意をする前にふと夢を思い出して机を見ると、1枚のメモが置いてあった。
~今日は会えて本当に嬉しかった。何度も何度も泣かないように一人で練習したんだけど、ダメだったね。結局泣いちゃった。それで、今日会えたことが本当だって信じてもらうためにここに手紙を残しておくね。ゆうの体借りて書いてるから、すっごい違和感あります(笑)この字みてよ?こんな字ゆうが書くのは無理でしょ?少しは信じた?あとはまた夢の中でね。~




