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閉鎖の桜  作者: うみの はまぐりん
3/11

入院まで

アパートにも慣れた8月の末、ゆかりちゃんから「子供が逆子だら帝王切開になりそうなの」とファックスがあった。彼女は臨月を迎えていた。9月に入って彼女と話をして予定が9月9日に決まったそうだった。そして9月11日朝友人から電話がきた。「ゆかりちゃん、産まれたって」私は大喜びして息子を幼稚園に送り届けた後出産祝いを買いに長岡のスーパーに出かけた。しかしなぜか胸騒ぎがするのである。

スーパーの公衆電話から留守電をリモートして聞いた。別の友人からの電話だった。

「ゆかりちゃんが亡くなりました」私はその友人に電話した。「冗談でしょ?うそでしょ?」問い詰めると友人は本当なんだよと泣いていた。家に帰ってしばらくすると

ゆかりちゃんの旦那さんから電話があった。翌日主人にも会社を休んでもらって東京へ向かった。


彼女の嫁ぎ先は何代も続く旧家。その広い座敷に彼女は横たわっていた。死因は足の血栓が肺に飛んで呼吸が出来なかったことだった。私は泣き崩れた。助かった子供は病院に預かってもらっているとのことだった。その晩彼女の家に泊めてもらって寝ていると息子が急に「足が痛い。足が痛い」と泣き出した。きっと彼女が息子を使って訴えかけているんだ、そう思い彼女の枕元に行くと足をさすった。「ゆかりちゃん足が痛かったんだね」


今でもあれは空耳ではなかったと思う。彼女が亡くなったその日、夜中の9時ころからアルバムを探していた。ぴらぴらとアルバムをめくると一枚の写真がひらりと落ちた、それはゆかりちゃんと初めて出会った母親学級の写真だった。私の真後ろに彼女が写っていた。「あれ?ゆかりちゃんこんな近くにいたんだ」10時を回り、私は呼び声を聞いた。それは確かにゆかりちゃんの声だった。新潟と東京と数百キロ離れているというのに10時9分それが彼女の死亡時刻だった。


私は悔やむことがある。最後のゆかりちゃんとの電話でしばらく話をしたあと電話を切る前に「ゆかりちゃん、もういいよ」と言ったのだ。それは出産をひかえた

彼女をいたわるつもりで言ったのだが、あの時「ゆかりちゃん、行っちゃダメ」と言ったならちがっていたのではないかと。

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