ep,1 ひねくれ悪知恵バカと、プライドの高いお嬢様
数ある作品の中から目を留めていただき、本当にありがとうございます!
本作は、
「勉強は1ミリもできないけれど、サボりや裏工作の悪知恵だけは働くひねくれバカ」の主人公と、
「学年1位の完璧超人だけど、実は生真面目すぎてちょっと不器用なプライド高めお嬢様」
が織りなす、噛み合わない漫才のような学園ギャグ&じれじれラブコメディです。
凸凹な名家コンビの、笑えてちょっともどかしい距離感を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、第1話どうぞ!
我が神楽坂家は、代々続く名門の家系らしい。
教科書に載っているような偉人やら、国を動かす政治家やらが親族にズラリと並んでいる。
……だが、そんなハイスペック遺伝子の奇跡の掛け合わせから、なぜこんな「純度100%のバカ」が産まれてしまったのか。
「――9点、か。逆に一桁の数字を維持する方が確率的に難しくないか?」
自室の机の上、蛍光灯に照らされた数学の定期テスト用紙。
平均点78点。俺の点数、9点。一桁の数字を眺めながら、俺は自嘲気味に鼻で笑った。
いや、言い訳をさせてほしい。文字を見るのが絶望的に苦手なのだ。教科書を開いた瞬間、白い紙の上の活字がモゾモゾと動き出し、脳が「あ、これアカンやつや」と思考を完全シャットダウンする。
クラスの連中は「神楽坂ってマジ終わってね?」と陰で笑っているし、悪友の阿部には「お前その点数は、マークシートを適当に鉛筆転がして解いた奴にも負けるぞ」と真顔で煽られた。
だが、勘違いしないでほしい。俺の脳みそが完全に死んでいるわけじゃない。
たとえば、先週の抜き打ち荷物検査の時。俺は学園の厳しい監視網と教員の巡回ルートを完全に読み解き、没収対象の私物を「校長の盆栽の裏」へ一時的に隠蔽、クラスで唯一ノーペナルティで切り抜けた実績がある。あの時の俺の脳内シミュレーションは、NASAの軌道計算並みに冴え渡っていた。
要するに、俺のハイスペックな脳細胞は、保身・サボり・裏工作といった「悪いこと」にしか最適化されていないのだ。学校のペーパーテストという、表舞台のクソゲーには1ミリもやる気が出ないだけである。
そんな俺の、世界の理から目を背けた態度が気に入らないのだろう。母親が般若の面のような顔で部屋に入ってきた。
「次の期末テストで全教科平均点以上を取らなければ、神楽坂家から勘当。および自主退学です。……でも、安心しなさい。お父様が『近衛』の家に頭を下げて、家庭教師を雇ってくださったわ。今夜から来てくれるから、死ぬ気でしがみつきなさい」
近衛家。我が家など足元にも及ばない、日本を代表する最高峰の超名門。
「へえ、名家様がわざわざ不良品の処分を手伝いに来てくれるわけね。おいくら万円包んだんだか」
内心で毒づきながらベッドに転がっていると、数十分後、廊下に少し遠慮がちで、どこか格式高いノックの音が響いた。
「どうぞ。鍵は開いてるよ」
俺がベッドに寝転んだまま気だるげに声をかけると、ドアが静かに開いた。そこに立っていた人物を見て、俺はさすがに身を起こした。
「……失礼します。神楽坂君」
腰まで届く、シルクのように美しい艶やかな黒髪。
意志の強さを感じさせる、冷たくて切れ長の美しい瞳。
仕立ての良いネイビーのワンピースに身を包んだその少女は、学園で知らない者はいない超名門の令嬢――近衛 零華だった。
常に学年1位の座を譲らず、その圧倒的な美貌と近づきがたいオーラから、学園では『氷の令嬢』と恐れられている高嶺の花。なぜ、彼女が俺の目の前にいるんだ。
零華さんは部屋に入るなり、ツカツカと机に歩み寄り、そこに置かれていた俺の「9点」の答案用紙を見つけ、眉根を寄せて小さくため息をついた。
「……万年最下位とは聞いていたけれど、本当に酷いのね。神楽坂君、1次関数すら理解していないなんて……。私の貴重な時間を、こんな非効率な作業に費やさなければならないの? 一体、何の罰ゲームかしら……」
トゲのある言葉。学校での噂通りの、人を寄せ付けない冷たい態度。
だが、ひねくれ者の俺の感想は違った。
「……ククッ、あははは! おいおい、非効率って言うなよ。俺の人生、常に省エネモードなんだからさ」
「な、何がおかしいのかしら!? バ、バカにされて頭がおかしくなったの?」
零華さんが不快そうに眉をひそめ、警戒するように一歩、身を引く。
「いや、悪い。近衛さんってさ、学校じゃ誰も近づけない『氷の令嬢』とか言われて、みんなビビってるけど……。そうやって必死に冷徹なお嬢様ぶって、自分の生真面目さや不器用さを隠そうと虚勢張ってるのが丸わかりで、面白いなと思って」
「なっ――!?!? な、何言ってるのよ、不敬よ……っ!」
零華さんの顔が、怒りと動揺で僅かに色づく。しかし、すぐにその瞳に鋭い光が戻った。
「……随分と失礼な人ね。自分のバカさを棚に上げて、他人の分析かしら? だからあなた、クラスでも石下君みたいな類友としか喋れないのよ。……ただの落ちこぼれだと見下したければ、勝手にすればいいわ。私は私の義務を果たすだけ」
冷たく言い放ち、零華さんは部屋の丸椅子を引っ張り、俺の机からあえて1メートル以上離れた位置に座った。
近衛家の令嬢としてのプライドという重い鎧は、そう簡単には剥がれないらしい。
「石下を巻き込むなよ、あいつはただのバカ仲間だ」
俺は椅子に座り直し、少し意地悪く、だけど真っ直ぐに彼女の綺麗な瞳を見つめた。
「まあさ、周りは近衛さんのこと完璧超人って恐れ多く見てるけど、それってプレッシャーだろ?それってかっこいいし、すごいけど俺みたいに勉強を完全に放棄して楽しようよ」
俺はニヤリと笑ってみせる。
「その天才の頭脳、俺の退学回避のために貸してよ。あいつらを見返したいとか、家のためとか綺麗な理由はねえよ。ただ、学校辞めさせられたら自由に遊べなくなるのと、石下とつるめなくなるのが最高にダルいだけ。頼める? 近衛先生」
「っ――」
零華さんは目を見開いた。
学校では周囲から「近衛家の人間」としてしか見られず、完璧であることを当然とされてきた彼女。
それを、このひねくれ者の男は、自分の本質を見抜いた上で、「かっこいいし すごい」と、斜めからの直球で認めてきたのだ。
チョロく赤面して崩れるようなことはない。しかし、彼女の頑なだった瞳の奥の「氷」が、ほんの少しだけ揺らいだのを、俺は見逃さなかった。
「……ふん。口だけは達者なのね。お世辞なんて私には通じないわよ」
零華さんは、ぷいっと顔を斜め後ろに背けた。
まだトゲはある。距離も物理的に遠い。だけど、彼女がテキストを開く手つきは、さっきよりもほんの少しだけ丁寧になっていた。
「いいわ、そこまで言うなら覚悟しなさい。私の指導は、あなたのその貧弱な脳細胞が焼き切れるほど厳しいんだから。……ほら、早く教科書を開きなさい、神楽坂君」
「はいはい、お手柔らかに。近衛先生。……ちなみに、期末テストの出題傾向、職員室のゴミ箱からシュレッダー前のデータを回収して分析したんだけど、見る?」
「……あなた、なんでその天才的な悪知恵を1ミリも勉強に活かせないのよ!?」
「いや、合法的な裏ルートを見つける方が数学より合理的だろ」
「没収に決まっているでしょう、そんなもの! 早くその不届きな頭を机に戻しなさい!」
少し距離を置いたまま、冷たく、だけどどこか噛み合わない漫才のように始まった俺たちの勉強会。
完璧と恐れられているお嬢様が、俺の部屋で、少しずつその頑なな鎧を外していく――そんな未来へ向かう最初の1歩を、俺たちは踏出した。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
初日から職員室のデータを回収してくる神楽坂くんと、1メートルのディスタンスを死守しつつツッコミを入れざるを得なかった近衛さんでした。
なぜその天才的な頭脳を勉強に使えないのか……近衛先生の頭痛は次回以降、さらに加速します。
読んでいただきありがとうございます!
「むっつりお嬢様かわいい」「座る位置遠すぎ!」と少しでもニヤリとしたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて応援をお願いします!
ブックマーク登録もあわせてポチッと押していただけると、毎日の執筆の励みになります!




