第21話 雅 3
朝、目を覚ますと、床に美少女が寝ていた。
丸まって、タオルケットにくるまっている。
可愛い。
微笑ましく思うが、これの中身は、男のおじさんだ。
間違えてはいけない。
だけど、昨日いろいろ助けてくれたのはたしかだった。
「こういう時は、朝ごはん作ってあげるのが定番よね」
恋人同士ってわけでも、何でもないけど。
まあ、漫画でも定番。
だから、さほど違和感もないだろう。
とりあえず、顔を洗って、制服に着替える。
そして、冷蔵庫を開けると……。
卵とハムくらいはある。
あと、冷凍庫に食パン。
まあ、ハムエッグとトーストか。
フライパンを軽く洗って、ハムと卵を焼く。
パンはトースターに直行。
お皿が流し台の中にあったので、あきらめて他の食器も合わせて全部洗う。
お湯のポットとかが見当たらなかったので、鍋で湯を沸かして、インスタントのコーヒーをいれる。
そして、声をかける。
「朝よ」
むくりと起き上がってきた真琴は、朝食に気づくと、そのままテーブルにつこうとする。
「顔くらい洗ってきなさいよ」
「あ、ああ。ごめん」
この人、謝り癖がついているよね。
どんだけ、卑屈なんだか。
だけど。
「美味しい」
その言葉と笑顔が、きゅんと刺さった。
何か嬉しい。
あー、こういうのって嬉しいものなんだ。
新鮮な感覚。
お母さんは、私が手伝っても何も言わない。
智哉も、いろいろ気を使って、私にそんなことを言うことはない。
こういうものなんだな。
私は、一通り支度して、そのまま学校へと向かう。
いつもとちょっと違う登校ルート。
昨日は、もともと友達の家に泊めてもらうとは話していたので、お母さんは、何の心配もしていない。
確認すらしないだろうことはわかっていたので、アリバイ工作すらしていない。
むしろ、アリバイ工作なんかしようものなら、どこへ行っていたのかの追求の方が厳しい。
「おはよう。何か眠そうだね、今日は」
「うん。ちょっと寝不足」
「何やってたの? ゲーム?」
「ううん。ちょっと本読んでたら、夢中になっちゃって」
「そっか。それ面白い?」
「かなり」
「何て本?」
「恋のドレスとつぼみの淑女。19世紀、イギリスの仕立て屋さんのお話」
「へー、今度貸して」
「うん。いいよ」
同じクラスの楓と、どうでもいい会話を交わす。
だけど、下水道で吐くという、この後、二度としたくない経験の翌朝としては、かけがえない時間のような気もする。
そう思うと、この友達が、とてつもなく大切なもののような気がしてくる。
「どうしたの、じっと見つめて。惚れた?」
「あ、いや、髪跳ねてる」
「え、マジ?」
「あ、嘘」
「みーやーびー」
けらけらと笑う。
チャイムとともに、先生が入ってきて、その時間は中断された。




