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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
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1-4 Akira Park, Akira, Shinagawa-ku, Tokyo

 歩玖は、自分でも自然に言葉が出てきたので驚いた。といっても、えぐ子たちはもっと驚いていた。


「んん~っ……⁉」


 歩玖は何回もえぐ子に驚かれていて、いまや慣れを感じだしていた。


「それは……。そうなったらそりゃうれしいけど!」


 歩玖はゲームのことをよく知らないが、自分がパーティに入れば、実質えぐ子たちがやめぐらカリバーを手に入れたのと同じになると思ったのだ。やはりそのとおりだったらしい。


 えぐ子の反応に@も続く。


「いや、鍛え方次第では行けるか……」


 パンダとシオンヌは「その発想はなかったわ」「私、実は期待してた」などと話している。


 えぐ子は興奮しているのか、歩玖の両肩をがっしりつかんだ。


「え~⁉ でも……まずくない⁉ 大丈夫⁉ 私たちと一緒に遊ぶってことだよ⁉ おうちの人、心配しないかな⁉ それに当日の予定とか……!」


 目のやり場に困った歩玖はレンズの画面を見ながら答えた。


「両親はちゃんと話せば大丈夫だと思います。それに僕、夏休みでもやることないですし……」


 @がすぐさまつっこみを入れる。


「いや、それはあるでしょ」


「えっと、ほんとに宿題くらいしか……。僕、好きなこととか、逆に嫌いなこととかもあんまりなくて、やりたいことがなかなか見つからなくて、ちょっと悩んでたんです。だから、もしゲームで役に立てるんだったら、やってみたいです」


 歩玖にはえぐ子ごしに、シオンヌが「へぇ~……。かわいいのに意外としっかりしてる」と言ったのが聞こえてきた。パンダも「俺は良いと思うけど、やっぱ親御さん次第かね」と言う。


 えぐ子はようやく歩玖の両肩を放すと、ひと呼吸おいてから言った。


「……気持ちはうれしいけど、このゲームってほら、移動とかで時間もお金もかかるし、一緒にやる人もちゃんと選ばないと危ないからさ。私たちはまぁ、ちゃんとしてるつもりだけど、あるくくんとかお父さんお母さんにとって絶対安心ってわけじゃないじゃん?」


 パンダが高度を下げながらえぐ子の方を向く。


「いつも気遣わせちゃってすみませんね。本当に悪いと思っています」


 たしかに、歩玖はパンダのことを親にどう説明したらいいのかわからない。


 @はほかにもいろいろと気になるようだ。


「パンダの素性はあとで教えるとして。よかったら参考にさせてほしいんだけど、ボク何年生?」


「六年です」


 歩玖が答えると、みんなはちょっとざわついた。誰かが言った「そういやこの状況ってすでに事案じゃ……」というのが歩玖の耳にも入った。


 パーティの結論がまとまり、ひとまず歩玖はえぐ子たちと連絡先を交換することになった。えぐ子は歩玖の画面に自分たちの情報を送る。


「そういうわけで、ちょっとおうちで相談してみてね」


「わかりました。ありがとうございます」


 歩玖はすでにえぐ子、@、シオンヌ、パンダで慣れてしまったので、しえる、芽緒、紫音、一飛という名前に頭を切り替えられるか心配だった。同じように、えぐ子たちも歩玖の呼び方を考えていた。


「歩玖くん本名なんだ。じゃー、あるくんでいい? 私はしえるでいいよ」


「あたしはこういう場合、普通に歩玖って呼ぶけど」


「え? 待って芽緒、普通あるきゅんでしょ?」


「それは姉さん勝手すぎるよ。俺はちゃんとさんをつけるよ」


 ほとんど同時に言われたので、歩玖はさっそく誰が何と言ったかわからなくなったが、お互いの名前がわかると、なんだか距離が縮まった気がした。歩玖は出会ったばかりの人とこんな風に話すのは初めてだ、と思った。


 芽緒が待ちかねたように歩玖に尋ねる。


「でさ、この流れなら見せてもらっても自然だよね。それ」


「あ、これですか。どうしたらいいですか?」


 歩玖は芽緒に刺さらないようにそっとやめぐらカリバーを傾けた。貴重さがわかった今では意味もなく丁重に扱ってしまう。やり方はしえるが教えてくれた。


「武器の詳細画面をサインボードで出してくれればみんなで見れるよ。立札かスタンドみたいなアイコンがあるでしょ」


 歩玖はそのとおりにする。歩玖は武器の画面をあまり気にしたことがないので、何が書いてあるのかさっぱりだった。


 芽緒が「さあて、いったいどれだけ強いんだか」と言うあいだに歩玖が操作を終えると、剣の上にさっきの歩玖の画面が吹き出しのように浮かび上がった。みんなが即座にゲーマーの顔になってのぞき込んできたので、歩玖はちょっと怖かった。


 一瞬の間の後、芽緒が独り言みたいに言った。


「……え、なにコレ」


 しえるがパーティを代弁するかのように大声を上げる。


「【THE END】って何⁉」


 どこを見たらいいかわからない歩玖のために、しえるが指で示す。武器にはさまざまな能力値が割り振られているが、攻撃力の数値だけ数字ではなく、アルファベットで「THE END」と書かれている。


 パンダだけ落ち着いているようだったが、テンションはこれまでで一番高めだった。


「なにって……カンストしてるだけだが? リアルでは初めて見たなー。厳密にはリアルで見てはいないけど」


 紫音がドローンを指で押すとパンダがよろける。


「なに意味わかんないこと言ってんの⁉」


 パンダは「だって説明はえぐ子先生の専売特許だから……」と言ってしえるの方を見たが、勢いよく首を振られたので自分で説明し始めた。


「ていうか説明も何も、ゲームやってりゃカンストくらいわかるでしょ。攻撃力が最大値ってことですよ」


 しえるはまた首を振って言う。


「だって見たことないもん、こんなの!」


 芽緒は信じられない様子だった。


「じゃ、マジで999か1000ってこと? 500いけば天下とれるこの時代に……?」


 パンダと芽緒は、「いや、誰も四桁目を見てないんだからもっと上かもよ」「あたしだって死ぬ気でやってんのにいいとこ400だよ⁉ あり得なくない⁉」「やめぐらの純粋な総ポエなら1000は超えてもおかしかない」「たしかにこれは環境破壊だわ……」などと盛り上がっていた。


 歩玖は、剣が本当に噂どおりかそれ以上のものだったのは良かったが、もし、しえるたちが普通に手に入れていたらもっと喜んでいただろうと考えると複雑な心境だった。そう察してか、しえるが歩玖に声をかける。


「……この、ラストイレイザーっていうの、たしかにものすごい武器みたい。だけど、あるくんがパーティに入りたいって言ってくれるのがうれしいのは、この武器が強いからじゃないよ。一緒に遊びたいって言ってくれるのがうれしいんだ」


 そう言われて、歩玖ははっとした。パーティに入るにしても、罪悪感で入るのだと思われていては、誰もゲームが楽しくならないだろう。今だって余計な気を遣わせてしまっているのだ。


「だから、私たちも武器のことは関係なく、一緒に遊びたいって思ってるからね」


 しえるの目を見れば、本心なのが明らかだった。歩玖はパーティに入れるのなら、ちゃんと仲間として信頼してもらえるようになりたいと思った。


 少しのあいだ視線を上に向けていた芽緒は、グラスで時計を見ていたらしい。


「歩玖、時間ある? ちょっとその剣で敵ボコってみたくない? 切れ味試してみようよ」


 ゲームに慣れていない歩玖は、急に物騒なことを、と思ったが、抜き身の剣を握りっぱなしの自分に言えたことではなかった。


「はい。えっと……どうやったらいいですか?」


 歩玖が本当にゲームを全くやっていないのを悟った芽緒たちは、ちょっとだけ顔を見合わせた。しえるが説明を始めようとしたがパンダがとどめる。


「あ、ちょい待って。そんだけ武器強いと、半端な敵じゃ上限ダメージが出ちゃって、ちゃんと強さがわかんないかも。相当固い系のやつじゃないと」


 「そっか」と言うしえるの横で芽緒がジェスチャーをし、グラス上のリストをめくっている。


「あれ、ここの晶ってあの晶じゃないの? めっちゃ固くて有名なカメいなかったっけ?」


 パンダからかすかにキーボードのカタカタという音が聞こえてくる。


「晶なんてほかにないし、品川で固いカメといえば【アモルファスタートル】かな。@さんよく知ってんね。通学路の敵しか殴らないんじゃなかったっけ」


「基本はね。ご当地ボーナスないと損した気になるから。でもここはまだ近いほうだし、なんかの時に寄ったらぶちのめしたいと思ってたんだけど……。あー、そのカメもういないみたい。作成者が解体したって」


「マジか! けっこう老舗だったのに。こういうのがあるから地限はなー……」


 しえると紫音が、「ゴメンね」「意味わかんないよね」と言ってくれたが、歩玖はこの性格なので、話においていかれても別に気にならない。それに、アイテムと同じように、プレイヤーがボスを作ってゲーム内に配置できることは知っていた。


 芽緒とパンダは固いボス探しを続けている。


「バーチャルで良ければいくらでも出せるし、なんならテストバトルでもいいけど。でも出先でサンドバッグ叩くのはなんか空しいような。@さん的にはどう?」


「うん。どうせ戦うなら経験値がないと」


「そっち? さすがブレないなー……。あ、そうだ! こいつのこと忘れてた」


 パンダからキーボードとマウスの音が小気味よく響くと、パーティの目の前にはボスが出現した。その姿を芽緒が不満がる。


「なんだ、動物系じゃないのか」


 ボスの姿は、透明な三個の大きな箱が一組になっているような感じで、およそ生き物とは思えないものだった。パンダは芽緒の不平を気にしてはいないらしい。


「形でいえば物体系だね。ジャンルでいうと【ギミック系】」


 しえるが歩玖に用語を解説する。


「ギミック系っていうのは、普通に戦うとほとんど勝ち目ないんだけど、パズルみたいに仕掛けを解くと、あ、なーんだって感じで意外と簡単に倒せちゃう敵キャラのことだよ」


 パンダが説明を引き継ぐ。


「この【スリーボックスィズ&スリーラインズ】、通称、晶くんってボスは、ギミック解除前はギャグみたいに防御力が高いんだけど、こっちが特定の行動をすると即死するようになってるんだよね。これなら上限ダメージの約7000とか絶対出ない」


 芽緒はまた不平を言う。


「……そういうめんどくさいの苦手。サクッと倒させろ」


 しえるが芽緒をなだめた。


「まあまあ芽緒ちゃん。つまり、ギミックを解除する前の状態なら、絶対に百点満点が取れないから点数がよくわかるってことでしょ? とりあえずやってみようよ! まずはあるくんには待っててもらって、試しに私たちだけで普通に戦えばいいんだよね?」


 パンダは「そゆことです」と言って、パーティ全員に「晶くん」とのバトルの準備画面を出した。グラスでSNSを見ていた紫音は意外そうな顔をする。


「あれ? 私も?」


 芽緒が「マイペースだなぁ」と言うのにパンダがつけ加える。


「ヒントになっちゃうけど、シオンヌさんもやることあるよ。さて、このギミックがみなさんに解けるかな?」


 やはり芽緒は面倒そうだった。


「いやいや、倒すのが目的じゃないから。比較用に通常攻撃すりゃ終わりでしょ?」


 パンダから「評価高いボスだから初回撃破の経験値おいしいよ」と聞くと、芽緒の目の色が変わった。


「速攻でぶっとばす!」


 経験値につられて急に威勢がよくなった芽緒が合図となり、パーティと晶くんとのバトルがスタートした。


 公園の風景にミックスされた晶くんの三つの箱は、それぞれ空中を漂いながらゆっくり回転したり移動したりしている。歩玖は晶くんと向き合っているパーティの姿が、パンダを除いて今までと全く違っているのに気づいた。


「あれ? これ……。しえるさんですよね?」


 歩玖は、しえるがいたはずのところにいる、大きな盾を持った女騎士に話しかける。


「うん。あ、あるくんはバトルでアバターに切り替わる設定なのかな。どう? この鎧かわいくない?」

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