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エピソード20 拳の中の光

石柱の向こうの通路は 肩二つ分ほどしかない

そこでは闇が隠れていない

闇は書かれている

石が 一歩も言葉も すべて覚えているみたいに


ショーンゴが最初に入る

喉みたいな回廊

ランゼがすぐ後ろ 中央

盾は少し斜め

セイガは左

床の線に沿って 光を糸で流す

リオルは右の壁際

指は温かい

いつでも傷を塞げるように

ケルトはショーンゴの背中に近すぎる距離

望んだより近い

ミロスは後ろの影

退路が見える位置

気配を光らせないために


オルンは円い広間に残った

ついては来ない

だが言葉は喉に残る


- 名を声に出すな


ショーンゴが一歩

回廊は皮膚じゃなく 声にする権利に触れてくる

何を自分のものと言えるか それを確かめるみたいに


セイガは左の線に糸を張る

筋にかすかに触れる

糸が髪の毛ほど暗くなる

回廊が小さな硬貨を取ったみたいに


ランゼがほとんど無音で


- ここは圧がある


ケルトが返そうとする

だが言葉の半分で声が折れる

恐怖じゃない

規則だ

音になる前に盗まれた


ケルトは口を手で覆う

目が鋭い

自分のミスへの怒りがある


セイガが壁を指す

石に小さな四角が浮きはじめている

帳面の行みたいに


リオルが低く息を吐く


- 言葉は即払いだ


ショーンゴが小さく頷く

それから誰も余計な音を出さない


回廊はやがて窪みで行き止まりになる

小さな部屋みたいな空間

天井はさらに低い

床は平ら


中央に石の拳

固く握られている

何かを力で押さえ込んでいるみたいに


拳の中で欠片が光る

鈍い

でも結晶の光じゃない

押さえつけられた光だ

逃げるのを許されていない


拳から下へ

細い黒い線が石へ伸びる

根みたいに

導線みたいに


ミロスは入口の影で止まる

視線は光じゃない

線へ


敵じゃない

規則がどこで支えられているか

それを探す目


窪みの右に男が立っていた

背は中くらい

肩は広い

印のない暗い上着

茶色い目

短い髪

顔は普通


手に金属の札

指の骨に こつこつ当てて鳴らす

時間じゃない

他人の迷いを数えるみたいに


男は拳の光を見て

それからこちらを見て

落ち着いて言う


- 通るなら払え


声は平ら

だが語尾だけが薄くなる

回廊が言葉を一欠け持っていったみたいに


ケルトが堪えきれず 低く吐く


- ナイル


次の瞬間 ケルトは詰まる

声が消える

身体が小さく跳ねる

名にも税がかかった


ナイルは笑わない

札をもう一度鳴らすだけ


セイガが床の線へ一歩

光の糸を少し広げる

縫い目みたいに

攻撃じゃない

制御のために


ナイルが掌を上げる

拳から伸びる黒い線が蠢く


石の中で印が瞬く

規則が動く


線は飛ばない

必要な場所に現れる

セイガの手首の下

ランゼの膝の下

リオルの肋の下


ランゼは次の一歩が消えるのを感じる

足裏が探す

だが踏む場所がない


リオルは自分の肋に指を押す

熱が上がろうとする

だが上から押さえつけられる

治療が途切れる


セイガは糸を保つ

でも掌が白くなる

光が本来より重いみたいに


ミロスは左へ滑る

ナイルじゃない

線へ


刃で触れる

皮膚じゃない

線が石に入る継ぎ目へ


線が震える

冷えがミロスの手首へ返る

触れた分も払えと言うみたいに


ミロスは引かない

刃の角度を変える

筋をなぞる

自分から折れたがる場所を探す


ショーンゴは力で線を引きちぎらない

拳へ一歩近づき

掌を上げる


空気が濃くなる

硬くなる

鉗子みたいに


線は動きの途中で止まる

見えない境界に当たったみたいに


ショーンゴはすぐ代価を感じる

右の指が重い

心臓が一拍ずれる

空間が一秒だけ言うことをきかない

それでも姿勢は崩さない


ナイルは札を早く鳴らしはじめる

目が変わる

恐れじゃない

注意だ


- 結び目を押してるな

- ここでは そう歩かない


ショーンゴは静かに


- 俺はお前らみたいに歩かない


圧をずらす

ナイルへじゃない

石の拳へ

線が集まる場所へ


石がカチリと鳴る

割れじゃない

許可が折れた音


拳の光が一瞬 強くなる

胸が軽くなる

税が一部だけ戻ったみたいに


セイガが息を吸う

久しぶりに感じる

空気が本当に自分のものだと


ナイルは半歩下がる

逃げじゃない

道具が危ないと身体が理解した動き


その瞬間 ミロスが弱点を掴む

刃が短く触れる

一本の線が音もなく裂ける

自分から折れたかったみたいに


ケルトが鋭く息を吐く

今度は音が出る

弱い

でも自分の声だ


ナイルが札を握り潰しそうにして言う


- お前らに権利はない


ショーンゴが低く返す


- 権利を奪うなら

取り返せる


印がまた瞬く

回廊の空気がひとつ重くなる


遠い地上で

街が答える

叫びじゃない

短い転倒

一歩踏んで 次の一歩を失ったみたいに


リオルは皮膚で感じ 歯を食いしばる


- また上へ引く


ショーンゴは拳から目を逸らさない


- なら 勘定を支えるものを奪う


掌を光へ近づける

触れない

視線で

意志で押す


その瞬間 頭の中で自分の名が小さくなる

回廊が借金として消し込みに来た


ショーンゴは許さない

歯を食いしばり

道が自分のものだと言うみたいに踏み込む


石の拳がほんのわずか緩む

光が鋭くなる

闇の向こうで誰かが顔を上げたみたいに


ナイルは脇にいる

道は塞がない

でもまだ崩れない


手が震える

恐れじゃない

怒りだ


- お前らはまだ知らない

- 何を手にしてるか


ショーンゴは答えない

ただ前を見る

回廊の闇へ


光がゼロであるはずの場所に

細い線が現れる

新しい扉みたいに

壁のない扉


はっきりする

これは最初の結び目

最初の拳

最初の糸


そして先には

規則を道具じゃなく

王座みたいに握っている者がいる

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