理解して欲しいわけではない。ただ、見て欲しかっただけである
『【魔技駆動式】ーー更新』
どこからか聞こえた、無骨な音声。暗い領域内で奏でた“異音”故にメトゥールは、困惑し思案する。
ーー問題無い。
それがメトゥールが出した答えであった。
メトゥールの【領域】は、『結界内にいる存在に対して己が示した過程を強制させる』と言う能力を持っている。
最悪、メトゥールの【領域】に踏み入れ、舞台の幕が上がった時点でその命を散らされる事すら、その“役”として消化されるという事である。
しかし、メトゥールは演出をこよなく愛していた男、故にこの能力を台本代わりにしてこの【領域】を使用している。
まるで、一度動かしたら止まらない、再生機器のように。
持ち主の意志関係なく、狂ったように動き続けている。
「それに、ボクには“やり直し”がありますからね」
故に見逃した、その慢心がハルトと言う“バグ”を。
ーー光が、メトゥールを照らしだす。
「あ……」
まるで間違いを見せつけられるように、真っ暗な闇に光が入る。
あぁまただ、また『世界』はボクに間違いを突き付ける。
空間が、【領域】が波打つように激しく唸り始める。一筋だった光が、二つ、三つと増えて行く。
闇が光に飲み込まれる。本当に呆気なく、メトゥールの【領域】は粉々に砕け散った。
『魔技駆動式』とは、理不尽なまでの“理解”する魔術。
戦闘開始から十分経過で発動し、『自身の状態のリセット』と『可能な限り“理解”した事象への芋づる式の適応』のどちらかをする事が出来る。
“十分”と言う制約を無視して発動する事は出来るがその場合、複雑な事象への適応と状態のリセットは出来ない。
今回、ハルトが選んだのは『【開演】という【領域】への適応』である。【領域】への適応という事は、その空間に対しての適応という事、だからハルトはこの空間とは相容れず、水と油の如く互いが互いを反発する。
その“反発”が最大値を振り切れると、【領域】はその異物を吐き出すために自壊する。
「何が、起きてる……?」
『あー長かった!!』
「君が、やったんですか」
目の前のメトゥールは、両腕を力無くぶら下げて、諦めた表情でこっちを見ている。
『うん。オレがやったけど?まぁこれでようやく、まともに戦える』
オレは足を肩幅に広げて、重心を低く左手を前に突き出す。ボクシングみたいな構えをとってるが、メトゥールは依然と力無く腕を垂れ下げているだけだ。
「ボクときみ、何が違ったんでしょうね〜。ボクは止まって、キミは進んでいる。機会も、きっかけも似たようなものなのに」
『知らねぇよ。オレはただ、『やらなきゃいけないこと』に文字通り“必死”でやってるだけだよ』
「ボクにもありましたよ。“必死”になってやりたかった事が」
「もう……何処にも、ありゃあしませんけどね」
そう言うメトゥールの表情は、何処か諦めたような、納得したような表情であった。
やっぱり似てるなぁ、オレとアンタは。
『ーー才能があれば良かったって何回も思った』
「ーー何です?急に」
『「やるだけ無駄だ」「どうせお前には出来ない」なんて、何回も言われた』
『「どうせ俺なんて」なんて言葉も、ずっと頭の隅にこびりついてた。何をするにしても、“才能”って言う二文字がオレを付き纏ってくる』
『ーーほんっとに、しょうもねぇよなぁ!!』
虚な表情のメトゥールがわずかに肩を揺らした。オレの言葉が届くとは限らない。そもそも何で敵に塩を送ってるんだ?
まぁ、どうでも良いか。
『アンタに何があったのかは、オレには知らねぇよ。でもな、オレはここに居る』
構えを解いて、メトゥールに一歩距離を詰める。
『否定されて!全部捨てて!それでも考えて続けて……失ったとしても!こんな姿になったとしても!!』
一歩また一歩。
『今、オレはここに居るんだ。努力して、見返してやりたいって思って、諦めきれなくて、やり残した事があるからッ!!』
メトゥールとの距離は目と鼻の先。立ち尽くすメトゥールの服を掴み上げる。
『ーーオレはここに居るんだよッ!!』
『アンタはどうなんだ!!そんな腐った目ぇして!右腕に縋り続けて!お前はまだ何かに、成れるかもしれねぇだろッ!!』
「そうだったら、良かったんですよ。言葉で変われたら、どんなに楽か」
「ーーわかんねぇよ……もう!!俺が、何してぇのか。何がしたかったなんて全部、全部!俺が壊しちまったんだから!!」
その顔は鳴いてるようで、笑っているようにも見えてしまった。
『なら……何で、笑ってんだよ。お前の【領域】で出てきたあの人形は、顔面がボロボロだったけど、笑ってるように見えた』
「ーー気のせい、じゃないですかね……」
『あぁそうさ。オレも最初はそうだと思ってた。でも、人形と戦えば戦うほど、その確信は強くなってった。メトゥール、お前は魔神七将である以前に、人を笑わせようとしている、“演出家”だったんだろ?』
『ーーオレは好きだったよ。アンタの演出は、滅茶苦茶だったけど、一生懸命考えた跡が感じられた』
「ーー今更ですよ」
『それでも良い。今更だったとしても、オレがお前に対する評価は変わらねぇ。変えられねぇよ。お前の演出全てで笑ってやる自信がある』
「ーーあぁ、そうでしたね。俺とした事が、見えてなかったな。どうやら、埋もれちまったみたいだな」
メトゥールが上を向く。天井は無く、闘技場にぽっかり空いた所から、所々雲で隠れた青空が見える。
「えぇ、えぇ、そうでしょう!!それでもボクは、やらなきゃ。やらねばなりますまい!!ーーそれでは、観客の皆様。いえ、ハルトくん」
メトゥールが顔を下にさげ、こちらを向く。その顔には確かな涙の跡が付いていた。
「申し遅れました。私、ヘルプスト歌劇団『副団長』を務めます、メトゥール・ヴァルセロナと申します!!」
「それでは皆様!今宵の最後の演目となります!!腹から声を出して!さぁ気張っていきましょうッ!!」
両手を広げて、右腕のあの鬱陶しかった袖はめくって、肘から不恰好な縫合跡が見えてしまうが、それも証なのだから、俺と君の繋がり。
だから隠すのは、縋るのはもうやめた。
だから今はただ、楽しもう。
「ーー【再演】!!」
大きく息を吸って喉が張り裂けそうなほどの声を出した。久しぶりの大声は、喉に響いて少し違和感がある。それでも、暗い部分が確かに吹き飛んだ気がした。




