表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/126

89 五重塔ダンジョン VS 霊山

ルーは、四方に送る人選を済ませると、騎馬は北と西に、新開発の魔導単車は南と東に送った。魔導単車は、フェラ砂漠で使った、“砂漠の船“の応用で、サラサラな砂地ではなく、踏み固められた道や岩、草で溢れる悪路でも走れる一人乗りの魔導車だ。荷物はあまり積めないが機動力は抜群で、速度を重視する今回の作戦には打ってつけだ。アイリ達にとって未知の方角である南と東は、道すら残っているかは不明だ。馬が通れない所も魔導単車なら走行可能で、とにかく、早く行って早く帰ってくることが最優先の作戦だった。


待機組の護衛にシュミのみ残して、ラモンとシルキスは五名のブラフ海賊達と霊山に向かった。

残されたアイリ達は取り敢えず、増えた人数でも快適に過ごせるよう、拠点の整備を行う事にした。結界の範囲を広げ、安全な水場を確保し、罠を仕掛け、食糧となる獲物を狩る。万一に備えて、空になった魔石に魔力を込める。

ルーは、ダイアナ大聖女の元に残して来たブラフの部下やシャナーン王国のヨシュアに連絡を取ったり、イーウィニーの海賊貴族の本拠地にも報告書を書いたりと、それなりの当主としての雑用に追われていた。


滅びた王国のダンジョン・五重塔が話題に上がったのは、そんな作業中の雑談だった。

「そこのダンジョン主の魔石を本来、聖徒教会は狙っていたんですよね。」

罠の仕掛けを作りながらミルナスが言った。

「ある程度は攻略が進んでいるんですか?」

《ダンジョン自体はこの国が滅びる前から存在していたので、塔の最上階までは到達しています。ですが、到達した=攻略された、と言う訳ではないのです。最上階の階層主を倒してもダンジョンは閉じていないのですから。》

シュミは、ルーの側近をしている関係から、聖徒教会関連の情報も収集している。当初、計画されていた五重塔ダンジョンの攻略についても、その杜撰な計画は元より、とばっちりを食って、ルーがそのダンジョン攻略に関わる可能性も考えて、調査は済ませていた。


ダンジョンとは魔力だまりから自然発生した魔物の巣と考えられている。それは、洞窟であったり、湖であったり、或いは人工物であったり、巣くった魔物の好む環境に依存している。フェラ砂漠のオベリスクを中心とした一体は今まさにダンジョン化が進んでいる所、と言える。ダンジョンの魔物は魔力だまりに溜まった魔力から派生する。ダンジョンの攻略とはその派生した魔物を倒す事に他ならない。魔物を倒してしまえば、そのダンジョンに魔物はいなくなる。それをダンジョンが閉じる、と呼ぶ。その地にまた魔力が溜まって魔物が集まってくるには、何百年と言う歳月が必要な為、一度閉じたダンジョンは二度と開くことは無い。ダンジョンとはそれ程、貴重な物なのだ。

しかし、どう言う仕組みかは不明なものの階層主やダンジョン主、と呼ばれる強い魔物を倒さなければ、魔物はダンジョンに次々派生してくる。一説にはダンジョン内は魔力が循環しており、ダンジョン主と呼ばれる最強の個体が倒されない限り、その循環によって、倒された魔物の魔力は元より、攻撃や防御に使われた魔力もダンジョン内の魔物を産む魔力に変換される、と言う。


「五重塔ダンジョンには他にも階層があると言う事ですか?」

《そう考えて、何人も挑んでいるようですが、結果は、思わしくないのでしょうね。》「僕達でも挑戦出来ますか?」


はっきり言って、今、ここに集まったブラフ海賊達の中で、戦闘員以外で一番弱いのは、ミルナスとシルキスだと言う事は当人達も理解している。少しでも強くなれる機会があるなら、積極的に挑みたいと思うミルナスだった。

《何事も経験です》と、ブラフの女海賊は笑った。


五重塔ダンジョンに挑みたい、と言うミルナスの願いを、ルーは反対しなかった。社の結界調査に四方に送った仲間達が戻って来た後に、ダンジョンと霊山探索のどちらを希望するか募って、戦力を整えてからなら、行って良い、と言う。ミルナスは緩みそうになる唇を噛み締めながら、しっかりとルーに礼を言う。

《何、ミルの為だけじゃない。連中も、目の前に未踏破のダンジョンがあるんだ。指を咥えて通り過ぎるなんて事、できやしない。まあ、アタシもだけどね。》

そう言って笑うルーにシュミは苦笑いし、マリは《ママはやっぱりママだね。》とうんうんと頷いた。


霊山に登っていたラモン達は夕食前にはキャンプに戻ってきた。

魔力封じの魔導具は‘霊力‘に対しても有効で、活動できる余裕を持って近づける限界は人それぞれだが、最高、12番目の鳥居までは到達可能だった。‘霊力‘と‘魔力‘が同じものなのかは、この実験では判明しないが、これで魔力封じの魔導具を身につけていれば、鳥居まで近づけることがわかった。

更に麓から3番目の鳥居には殆ど霊力が残っていないだろう事が判明した。霊力の失われた鳥居は魔導具無しでも近づくことが可能で、それは、朽ち始めていた。


明日は、霊力の残っている鳥居を調べたい、と言うラモンに五重塔ダンジョン攻略を告げるルー。

「はぁ!?そんな、あっちもこっちも手ぇ出してどうするんだ?ちゅうか、魔人出たら、どうすんだよ。」

《その時はその時だな。大体、魔人相手に6人も18人も変わらんだろ?》

「いや、変わるだろう、そこは。って、だから、マリはどうするんだ?」

《どっちの探索にも行かない者に任せる。マリもそれで良い、と言ってるし。》

「って、ヴィシュ、テメェ、ダンジョンに行く気満々だろ。」

ん?と可愛らしく小首を傾げて見せるルーだが、そんな見せかけで絆されるラモンではない。

「何が、ん?だ、何が。あーもう、大人しく霊山調査に連れ出した方がマシだったのか!?」

「ええーっと、すみません、取り敢えず、社の封印を調べに行った人達が戻ってくる4日後まで、霊山と鳥居を徹底的に調べますので、みんなで、ダンジョンに行きませんか?」

ラモンはふん、と引っ込んで、オロオロとシモンが現れた。

「えー、俺、すぐダンジョン行きたい!」

シルキスもダンジョン攻略組に名乗りを上げ、今日、霊山に登った海賊達もそっちが良いな、的な表情だ。


「ええーっと、地味な調査は人気がないんですよね、そうですよね、わかってます。」

小声で呟き、沈んでいくシモンに気の毒そうな視線が投げかけられる。

「あー、私は、残るよ。出来れば、霊山の調査に加えて欲しい。」

そんな彼に、アイリは元気付けるように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ