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84 滅びた王国

結局、聖徒教会が南の大森林での探索を望み、ダイアナ大聖女とアルブレヒト王太子の安全を重視する側近達の意向もあり、大森林での魔人探索は続行される事となった。ルーは別行動を了解させ、インディーを隊長にフェラ砂漠に三組九名からなる調査隊を、アイリ達にはニ組六名の調査隊を同行させて滅びた王国へ送り出す許可を得た。ルー自身は一旦、スライムの肉片をシモンの元に持ち帰る為、二人の護衛と共にシャナーン王都に戻る事にした。ブラフ海賊団は三人一組で動く事が基本だから、ダイアナ大聖女の元に一人連絡係として残していく。ルーの護衛が少ない事に皆、難色を示したが、どちらの調査隊にも危険が伴う事は明らかで、シャナーン王国内を移動する自分が一番安全、下手な護衛(シャナーン王国兵の意味)が付くより、身軽な方が移動も速い、と主張した。

また、既にスライムの肉片に狂喜したシモンも二組連れて南下している為、合流までの時間は長くならない、と譲らなかった。


アイリの乗ってきた最新魔導車はインディー達砂漠の調査隊が使う事になった。滅びた王国組は魔導車一台に騎馬三騎、アイリ・ミルナス・シルキスとブラフ海賊の精鋭六名で一路南を目指す。


アルブレヒト王太子とダイアナ大聖女には、この森で聖徒神殿の魔石狩りが行った非道は伝えてある。証拠が必要ならば、と獣と魔物の大量虐殺が行われた場所も地図付きで渡した。後をどうするかは、二人に任せるしかない。ソンジョ達の事は黙っていることにした。証人にはなり得るが、二人に危害が及ぶ可能性があることは避けたい。


合流前と同様、修行しながら、滅びた王国に向かう。


鬱蒼とした大森林を抜けると、腰丈ほどの雑草の野原。魔物や獣に注意しながら、魔導車を先頭に進む。そうやって三日程進んだのち、人工的に作られたと思われる、人の背ほどの水路跡に着いた。底には、僅かに水が残っている。水場には動物が寄ってくる為、周囲を警戒しつつ探索する。動物の死骸や糞、足跡など、残された痕跡から、生息している獣の種類を推測しておけば、迅速な対応が可能だ。

シモン・ラモンの話からかつてこの王国が栄えていた頃、王国の重要な都市の周囲には“堀“が作られ、外敵に対する第一防衛となっていたらしい。つまり、この“堀“の先は、いくつかあった王国の主要都市に相当するのだろう。


堀を越え、また、しばらく行くと今度は石を積んだ“塀“が現れた。所々、残った石組みは大小さまざまな大きさの石を芸術的な美しさで組んであった。

塀を越えて更に中へ。次は浅いが幅の広い“堀“。これはとっくに干上がっていた。そうやってどんどん南に進むと、明らかに草の生え方に違いが見られた。生育の悪い所と、焼け落ち炭化した木片が残る草叢が点在している。


滅びた王国の住居は、基本、木造平屋建て、街中は道が碁盤の目に通っていた、と言う。草の生育の悪いところはよく見ると地面が踏み固められており、小石が敷き詰められている。ここが元々の往来なのだろう。わずか5、60年、全く人の手が入らなければ、自然は、人の営みを見事に覆い尽くしてしまうのだ、とアイリは知った。

しばらく周囲を探索し、一番大きな通りを更に南下すると、広大な広場にでた。等間隔に巨石があり、これを土台に立てられていた大きな建物が存在したのだろう。その更に後ろに、こんもりとした小山があり、幾つもの赤い門のような物が山肌を縫うように立っていた。


広場に魔導車を停め、ここを中心に魔人探索を行うことにする。

「第一候補はダンジョンとして、気になるのはあの山。何か、ざわざわする。」

アイリは思わず、二の腕をさすった。

【強い魔力だまりを感じますね。】

【前に大森林を越えてきた時と、随分、違う?よね。】

顕現した火の精霊テセウスが、アイリに寄り添って立つ。

【あの時には、もっと森の浸食が進んでたわ。いつも霧がかかってたし、魔物も多かった。】

続いて風の精霊ウィンディラも顕現した。

【二人とも‘魔人の巣窟‘の場所、覚えてる?】

アイリの問いに二体は首を横に振った。実はアイリも今一つその辺りの記憶が曖昧だ。二度目のやり直しでもあり、既に20年以上前の記憶、となっているのも理由の一つだが、初代がこの魔人征伐中に考えていたことは、その殆どがアルブレヒト王子の事で、ここへもただ連れてきてもらった様なものだから、周りの様子など、気にもとめていなかったのだ。


「じゃあさ、まず、あの赤いのが何か調べに行こうぜ。」

疲れを知らぬシルキスの提案は、あっさりミルナスに却下された。

「今日は、後少しで日が暮れるから、ダメだろう。まず、拠点の安全を確保してから動け、って言うムニ老師の教え忘れたのか?」

「それに、あの赤いのはきっと‘トリィ‘だ。後でシモンさんに聞いてみよう。この国に古くからあった宗教の遺跡だと思う。」

「ううー。」

ミルナスの言う事の方が圧倒的に正しいのと、ほんの少し前のスライムとの遭遇でのやらかしがあった為、シルキスは残念に思いながらも、引き下がった。


その夜、遠話の魔導具でシモンと連絡をとったミルナスは、自分達の現在地が、滅びた王国で神霊の集う地と呼ばれた特殊な地方で、後の山は霊山なのだ、と知らされた。

『ええーっと、今はそこまで行けてしまうのですね。その地は、かつては結界が幾重にも張られていた特別な場所だったのですよ。この60年程で結界は機能を失ったのでしょう。』

「結界?」

『おそらく、今、あなた達が拠点としている広場は、かつての太極殿、霊山の麓に建てられた神主たちの祈りの場所と思います。』

そしてシモンは太極殿と霊山の話を皆にした。

本来、太極殿の東西南北には霊獣の碑が建てられ、太極殿を結界で守っている。霊獣とは水風火土のそれぞれの元素を司る、言わば、精霊の王の様なものと考えて良い。太極殿の背後にある小山は霊山と呼ばれる精霊界で、百本並んだ赤い門(鳥居)をくぐると行く事が出来る、と言われている。しかし、その道は精霊の道、と言われ、誰も通ったことはない。


「通ったら行けるのに、誰も行かないの?」

不思議そうにシルキスが尋ねた。

『ええーっと、霊力が残っていないなら、通れるでしょうけれど、その場合は精霊界には行けないでしょうね。近くに行けばわかるでしょうが、本来の霊力が満ちている状態は、鳥居の一本一本が魔法障壁のようになっていて、それを破って行くにはかなりの霊力が必要でしょう。』

「霊力と魔力は違うの?」

『わかりません。私は霊山に行った事は無いのです。魔傷の研究でその地の事を初めて知った位、一般には秘された特殊な文化と土地なのです。』


ならば精霊の事は精霊に聞け、とアイリの精霊達に尋ねてみたが、霊獣など知らないし、精霊界も存在しないと明言されてしまった。シモンの集めた情報との齟齬はあったが、精霊達が魔力だまりを指摘しており、あの山が霊山と呼ばれるに相応しい人の立ち入りを拒む場所であることは間違いなかった。


その夜、シルキスが消えた。

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