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83 方針変更

アイリ達の“魔人“(仮)情報を参考に魔人討伐のこれからの方針が立てられた。

「子供の言うことを真に受けるのですか!?」

と、声を大にして反対したのは近衛第二の副隊長だったが、周囲の反応から聖徒教会の面々も同様の考えであることは明らかだった。

それに対して、ルーは非常ににこやかな笑顔を浮かべた。

《なら“大人“の意見ってぇのをさっさと出せってんだ。この子達がくる前に散々話をする時間があったろうが、能無しが。》

口調すら優しく語られた言葉の意味を理解しているのは、アイリ達とイーウィニーのブラフ海賊達、そしてアルブレヒト王太子と数年前から勉強を始めたダイアナ大聖女のみ。その他の人々は、何を言われているのかわからぬまま、笑顔に釣られてついつい頷いていた。

《愚者どもが。》「私としたことが失礼いたしました。この者らは、我らが先遣隊として送り出した者達。実力は十分なのですが、皆様には不安に思われるのも仕方のないこと。ですので、私達ブラフは、別行動をさせて頂きましょう。」

取り敢えず、毒を吐いて少し溜飲を下げたルーは、コルドー標準語に切り替えて、言い直した風を装った。当然、前言を理解していた者達の顔は引き攣っている。

その中で、流石にアルブレヒトは、申し訳なさげな表情を浮かべ、今回の魔人討伐の旗頭であるダイアナを見やった。


今後の予定について、彼らの間では既に話し合いが済んでいる。

アイリ達の遭遇した、人間に擬態したスライム、が魔人の正体との推測に反論はなく、ならば、正体を晒し、その体の大部分を失っててしまったスライムが遭遇した場所に居続けるとは思われなかった。その上で、アイリは南の大森林を越えた先、滅びた王国の調査を提案した。カイの無事を確かめたい気持ちも強かったのは言うまでもない。


カイの安否については、意外にもミルナスが情報を持っていた。

遠話の魔導具を使い、シモンに色々相談していたらしい。5年前のフェラ砂漠での擬態のスライムとの遭遇時にシモンは、スライムの体の一部を回収し、それを使って、その後、色々研究していた。今回、ウィンディラが風の刃で斬り飛ばしたスライムの細胞は回収してある。シモンは大喜びで飛んできそうな勢いだったらしい。

「僕があの時戸惑っていたのは、()()カイさんの服装と装備にでした。」

《服装と装備?》

「ダマルカントの街でカイさんとミケーラさんと別れた時、カイさんは吟遊詩人の服装で楽器を背にしていました。森であったカイさんは、楽器も持っていなかったし、あの格好は徒歩で旅をする格好じゃ無かった。」

「そう、だっけ?」とシルキス。

「ごめんなさい、私も、いきなり戦闘態勢に入ったから、全然気がつかなかった。」

「アイリ姉さんは、仕方ないよ。だけど、シルはもう少し注意力を鍛えた方が良いんじゃないか?」「むぐぐ・・・。」

「で、切り落とした腕とかは、すぐにスライムの体、あの透明なブヨブヨした物に変わったんですけど、一緒に切れたはずの服もブヨブヨになったんです。それって、つまり、服もスライムの擬態って事ですよね。それに()()カイさんが着ていた服は、どう見ても、吟遊詩人の服じゃ無かった。もっと言うなら、昔の人が来ているような服だったんです。シモンさんに聞いた所、滅びたロフェンケト皇国の貴族の衣装に似ていたらしいです。」

「あー、説明長い。つまり、どう言うことだよ、ミル。」

()()()、あのスライムはものすごい長生きのスライムで、取り込んだのは、カイさん本人じゃなくて、カイさんによく似た祖先、ロフェンケト皇国が滅びる前に生きていた人、ってことじゃないかな、と思うんだ。」


ミルナスの発言に皆、黙り込んだ。


《その仮定はシモンも認めてるのか?》

「はい。と言うか、僕の観察した事を聞いて、仮説を立てたのは主にシモンさんです。」

《しかし、擬態のスライムとは厄介だな。最悪、そいつはアイリにも擬態できるのだろう?》

ルーの言葉に皆がアイリを見た。

「どうだろう、よく考えたら、一応、ディディの癒しの水の皮膜で覆われていたから、直接の接触は無かったよ。」

《に、しても、だ。もしもの事を考えておいた方が良い。これからも、擬態のスライムに遭遇することはありうる。特にそれが“魔人“である、と言うなら尚更だ。》

「仲間を見極める方法?」

「合言葉!」

「あのスライム、話せるのかな?」


どんなに真剣な話であろうと、いつの間にか和気藹々とした雰囲気になってしまうのが、ミルナスとシルキスの二人組だ。ふふっと笑って、アイリはルーに、自分はカイの無事を確認したい。彼が向かっているはずの滅びた王国に自分も行かせて欲しい。と頼んだ。

「今度は一人で行くなんて言わない。わがままだけど、誰か、私と一緒に来てほしい。」

ルーが自分が行く、と言い出す前に、インディーがハイッと手を上げた。

《家畜の運搬任務つまらんかったし、俺もド派手に戦いたいっす。》

《お前にアイリは任せられん。》

《何言ってんすか、お嬢。俺ほど、安心、安全でお得な男いないっすよー。》


どのみち、今後の魔人討伐の方針については、主役のダイアナ大聖女に相談することになる。()()アルブレヒト王太子もだが、ルーも協力を申し出ているに過ぎない。これまでの経緯から、不義理はできないが、どうせ無駄足を踏むなら、納得して探索をしたいものだ。


南の大森林から逃れて、“魔人“はどこへ行ったのか?

一番可能性の高いのはフェラ砂漠。初めて、ルーたちがスライムに出会った場所だ。今回、魔神討伐の流れでなら、聖徒教会も目くじらを立てずに、聖女や神官を砂漠に入れることに反対はしないだろう。砂漠の魔物は危険だが、大聖女と近衛で敵わなければ、仕方ない、と諦めるしかない。

そして、大森林を抜けた滅びた王国。アイリはこちらに逃げたと、実はこっそり思っていた。何故なら、初代アイリが魔人征伐に向かった先が、その地だったから。魔物の巣窟の奥に魔人はいた。まだ2年ある。だけど、2年しかない、かもしれない。

今なら、“魔人“は弱っているのではないか?魔核に触れられて大慌てで逃げて行った。倒せるかもしれない。


こちらからの提案は、“聖戦“の主戦力であるダイアナ大聖女はフェラ砂漠へ、盟友であるブラフ海賊貴族は滅びた王国へ、それぞれ分かれて魔人探索を行う、と言うこと、で決まった。


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