幕間 スライムの見る夢は
あの頃は幸せだった、と今にして思う。毎日毎日、失敗作の処分をさせられて、身動きも出来なかったけど、あの時には、自分の周りにはみんながいた。みんなもみんなで大変そうだったけど、塔が寝静まった後、みんなで集まって色々な話をした。白い子は何よりも大きかったけど、泣き虫でいつも泣いていた。赤い子はそれを見て怒っているけど、それは白い子が嫌いだからじゃなくて、何にもしてあげられない自分が嫌いで怒ってるんだ。黒い子はとても頭が良いから、白い子が困らないように色々考えてあげていた。白い子も赤い子も黒い子が大好きで。勿論、自分も大好きで。だから、ある時、黒い子が言った、“自分達に名前をつけよう“に誰も反対しなかった。
「外の世界では、みんな名前で呼び合うんだよ。」
黒い子はそう言った。時々、迷い込む精霊に聞いたんだって。自分達はどんな名前が良いか一生懸命考えた。それまで、自分は102って呼ばれていた。黒い子が39058で赤い子が40003。白い子は667。自分が一番“年上“っていうやつらしい。なんか、偉くなった気分。自分がみんなを守るんだって思った。
自分は“シャオシャオ“、黒い子は“ロン・ロー“、赤い子は“ガイア“。そして黒い子は“ソラン“。
「僕らだけの秘密だよ。」って笑ったソランの顔はとっても嬉しそうだった。
だから、ねえ。ソラン。早く、目を覚ましてよ。また、自分を見て、シャオシャオって名前を呼んでよ。
折角、みんなで自由になったのに、どうして、みんな、いなくなったの?一緒にって言ったのに。
でも、自分は一番の“年上“だから、ソランを置いて、ロン・ローとガイアを探しに行けない。ちゃんとソランのお世話をしなくちゃいけないからね。
だから、ねえ、ソラン。早く、目を覚ましてよ。シャオシャオって呼んでよ。
でも、本当は知ってる。ロン・ローは時々、様子を見にきてるって事。あの子は泣き虫だから、自分とソランを見たら泣いちゃうから、会いに来れないだけなんだ。今更なのにね。ガイアは・・・。ガイアは知らない。どこにいるんだろう。一番、ソランと仲良しだったのに、どうしてソランを置いてっちゃうのかなあ。
ソランが目を覚ましたら、一番にガイアを探しに行こう。あの子が一番“年下“だから、一番守ってあげなくちゃいけないから。
ソラン、ソラン。目を覚ましてよ。
もう、随分沢山、魔力を集めたよ。魔石も集めたよ。あいつらみたいに、また、君を作ったのに、どうして君は目を開けてくれないの?
オベリスク、かつてのロフェンケト皇国魔導研究所の魔力集積塔の内部で、一体のスライムが培養タンクを抱きしめるように包み込んでいた。




