第2話 7つの課が市役所には存在しました
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次の日、朝八時前には、異世界転生審査課のフロアの前で皆さんを待っていた。
実は部屋で一人泣いているとき、坂本さんがやってきて、同じチームで働くことになる方々の名前等を教えてくれたんだ。
チームリーダーの坂本イサブロウ。
仕草が妙に古風だと思ったら、大正生まれだと聞いて納得した。
異世界転生課が出来たことで、元々アニメや漫画が生前好きだったこともあり、率先してチームリーダーになったのだという。
続いて、副リーダーの谷崎メグミさん。
本人曰く、盗んだバイクで走って死んだらしいけれど、真実は不明らしい。
ヤンキーなのに副リーダーになれたのは、面倒見が良いから坂本さんがお願いしたのだとか。書類を雑に扱いそうで、実は几帳面らしい。
第一印象は怖い。でも、撫でてくれた手は妙に優しかった。
そして、俺の死を楽しそうに話していた、栗崎ゴロウ。
女の子かと思っていたら男の娘だった。
あれだけ可愛いのに驚きだった……。
パリピ系女子を目指しているらしく、性別については必ず女性として扱うようにと厳しく言われた。無駄に距離が近い、声がやたら大きい……とのことだった。
最後に、俺をワンルームマンションに案内してくれた、田中アカリ。
柔軟な考えが得意ではないらしく、義務的な会話しかしてくれない女性で、彼女に口で勝とうと思うなと言われた。
注意事項としては、業務を見学することからスタートすることに決まった。
というのも、市役所で働ける人材については、特殊な人選が行われているらしい。
俺が無茶を言って頼んだ働くことについては、坂本さんが全責任を負うこと。
そして見学しながら簡単な書類を見る程度に収まった。
それが、この世の決まり事なら仕方ない。
これ以上、坂本さんに我が儘を言うことは出来なかった。
「ようガキ、早いじゃねーか」
「谷崎さん、おはようございます」
「お? 俺の名前知ってんの? なんで?」
「昨夜、部屋に坂本さんが来て教えてくれました」
「流石坂本さん。面倒見が良いというか人が良いというか」
「俺の我が儘に付き合ってくださる皆さんに感謝しています。でもどうしても、心残りだった夢は忘れられなくて」
そう言って頭を下げると、ガシッと頭を鷲づかみにされ軽くビビる。
予想していなかった事態、けれど谷崎さんは俺の頭を犬猫のようにガシガシ撫で回すと――。
「誰にだって忘れられない夢くらいあるさ」
そうぶっきらぼうに答えてくれた。
「あれあれー? メグミちゃん早いじゃーん?」
「今日は新人が来るだろ。研修生」
「あーそういえば今日だったっけ。あと、そこの……中島くんだっけ? 坂本さんから連絡は受けてるから気楽にしてね~?」
「はい!」
「ほら硬い。もっとフレンドリーにしてよ~! 男友達って欲しかったんだよね~」
「なら敬語はやめて普通に話すよ。我が儘聞いてくれてありがとう」
「んふ――! 私も我が儘言うから覚悟してね?」
「それでは、皆さんには業務に入ってもらい、私が不本意ながら中島君へ最初から市役所の説明をしましょうか」
音も無く後ろに立っていたのは田中さんだった。
谷崎さんも驚いた様子だったけれど、頭を掻きながら「気配消すのやめてくんない?」と口にしていた。
田中さん、気配も消せるんだ……凄いな。
「俺が説明するって」
「いいえ、メグミちゃんでは適当な説明しかしなさそうなので、私が担当します。新人研修でやってくる女性に関してはメグミちゃんに頼むので、そちらをよろしくお願いします」
「だから、メグミちゃん言うのやめぇや」
「中島君、行きましょう」
「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
深く一礼すると田中さんは眼鏡をクイッと上げて背を向け、ハイヒールを鳴らして歩き始めた。
案内された部屋はそこまで大きくも無く、ホワイトボードに田中さんは七つの課を書き出した。
【異世界トラック課】
【異世界転生課】
【異世界転生審査課】
【異世界転移課】
【異世界転生警備課】
【異世界転生処理課】
【異世界安置所】
「この七つの部署により、異世界転移がスムーズに行われるようになっています。まずは上から説明していきましょう」
「俺もここを通ったのか……。よろしくお願いします」
こうして、この市役所にある異世界転移に関係する課の説明を受けることになった。
――まずは、異世界トラック課。
異世界トラック課というのは、あの世とこの世を物理的に分断する為のもの。
名前はトラック課とあるが、それらは乗り物全般を指すらしい。
特に、人は死後必ず『霊柩車』に乗るため、それが主なトラック課案件らしい。
まずはそこで【命の選別】を行うことになるそうだ。
「元は幅広く手掛けていた場所ですが、現在は命の選別をする課として機能しています。異世界転生にロマンを求めるのは……実際よくないですけどね」
「なんとなく分かる気がします」
続いて、異世界転生課。
こちらは異世界トラックによって、命の選別をした際、異世界転生にふさわしいかどうか等がチェックされる場所だそうだ。
まれにクラスごと転生なんてこともあるらしく、急ぎ作られた課なのだそうだ。
それまでは全ての負担は次に出てくる異世界転生審査課がやっていたらしい。
「最近では過労死も増えましたが、以前は異世界トラック課が殆どしていたんですよ」
「過労死……」
「現代社会の闇ですね」
そして俺のいる異世界転生審査課。
異世界へ行ける切符を手にした死者が訪れる場所。
ここで【三つの願い】を聞き入れる事が確約される。
まだ新人研修も受けていないような俺には詳しく教えてもらえなかった。
「見て聞いて覚えなさい」
「できる限り頑張ります」
そして、異世界転移課。
この部署は少々変わってるらしく、異世界転移。
つまり、生きている人間を別の世界に転移させるらしい。
この異世界転移課に関しては別の棟で行われるらしく、俺が行くことはなさそうだ。
更に――異世界転生警備課。
やはり、死者が問題を起こすことも多々あるらしい。
その際に出動するのがこの警備課で、警備課に連れて行かれると、異世界転生の切符および、異世界転移の切符は抹消される。
死者に手加減などしないため、腕の一本二本持って行かれるだけの覚悟は必要とのこと。
「この課は特別です。正直荒々しいのでお気をつけて」
「はい……被害が出たことは」
「何度もあります。騒ぎが起きたら近くに行かないように」
最後に、異世界転生処理課、と異世界安置所。
これについては、研修生でもない俺には関係ない話であり最も機密が多いため、話すことは出来ないと言われた。
ただ、そんな課があるのだということだけは覚えておいて損はないらしい。
「現場では通りません。そのような課があるというのだけ知っていればいいです」
「安置所……と言うと」
「異世界転生した、転移した者たちが帰る場所……といった感じです」
◆◆◆◆
「ここまでで質問は?」
「質問ではないですが、一つ確認したいことが」
「なんでしょう」
「よく〝三つの願いを叶える代わりに代償を払う〟なんてことが漫画やアニメなどの作品によくあります。異世界転生審査課でも、願いを三つ叶えるそうですが、何かしらの代償とはあるのでしょうか」
そう問いかけると、田中さんは「ほう……」と感心し、眼鏡をクイッと上げると、椅子に座り直した。
「よくそこに気がつきましたね。当然、ペナルティはあります」
「ペナルティ……ですか? 死んだ後なのに、まだ罰があるんですね……」
「ええ。三つの願いの内容次第ではありますが、大なり小なり、ペナルティは発生することになっています。また、転生先にて問題を起こした場合にも、ペナルティは発生し、願い事が消される……ということも十分にあり得ます」
やはりペナルティはそれなりにあるらしい。
俺も転生することを選んだ際には注意しようと思った。
「更に、最も漫画や小説に多い転生において〝前世の記憶を持っての転生〟がありますが、基本的に前世の記憶を持って転生することは、あまり多くありません。何せ皆さん、転生するときは記憶を持って転生すると思っていらっしゃいますから」
「つまり事前に『記憶を持っての転生を望みたい』と言わないと難しい、ということでしょうか」
「その通りです。希にですが、事前にいってなくとも、願い事次第で前世の記憶を持って転生することはあります。元夫と関わりたくない、や、元上司には会いたくない等といった願い事の場合は特に」
元夫と関わりたくないや元上司と会いたくない……。
いわゆる、毒と言われる存在とは会いたくないのは……なんか分かるな。
「悲しいことに、そういう願い事をされると……その強さの反動で、相手側が記憶を保持したまま転生することがあるんです。善し悪しですね」
「なるほど」
「また、一番叶えたい願いなど、順位を決めていただきます。その願いの大きさ次第で、ペナルティを計算し、ご提示することになっています」
「ご説明ありがとうございました」
「勉強熱心なことは良いことです。貴方が特殊な手順でこの市役所に来ていたのでしたら、後輩として育てたでしょうね」
意味ありげな言葉に何の反応も返せずにいると、田中さんは一枚の紙を俺に手渡してくれた。
どうやら、今日のために昨日の夜、先ほど話してくれた内容を書いて印刷してきてくれていたらしい。
「一度には覚えきれないでしょうから、私の方から貴方へプレゼントです」
「ありがとうございます! 助かります!」
「では、そろそろ帰りましょうか。また都度説明が欲しいときは聞きなさい。報連相は必ず守るように。それと、こちらが仮の名札です。つけておきなさい」
「はい!」
田中さん……なんとも頼りになる先輩だ。
谷崎さんだって面倒見が良かったけれど、田中さんだって同じくらい面倒見がいい。
失礼なことを言う人だなって最初は思ったけれど……。
根はやっぱり優しい人なんだろうな。
異世界転生審査課へと帰る途中、行き交う人々はやっぱり死者で、たまに小競り合いも起きているように見受けられる。
死を受け入れる人。
死を受けきれない人。
生前を諦めきっていた人。
生前叶えたい夢があった人。
一人一人が違うように、一人一人が思い描く三つの願いは違うんだろう。
彼らの願いを一つずつ精査していくのが審査課なのだと思うと、田中さんも含め、あのチームは凄いんじゃないだろうかと思ってしまった。
――けれど、その時だった。
「マジで? 中島も来てんの? めっちゃウケるんだけど」
聞き覚えのある、むしろあまり聞いていて良いものではない声の主。
目をやると、そこには同じ時、自動車に撥ねられた相園ミサキが壁に寄り掛かって笑っていた。
胸の奥が、嫌な音を立てて軋む……。
——生前、俺を一番苦しめた声だった。
結構、異世界に行く人って、すんなり自分の死を受け入れて、ワクテカ言いながら旅したりしてるけど、現実って違うような気がするな~。
と言う個人的な謎から生まれました。
また、妻シリーズの二弾にて、異世界転生審査課は出てきてます。
ちらっと気になったら読んでみてくださいませ。
評価があると飛びはねて喜びます。
あるといいなぁ……(;´Д`)




