『家令』
家令のセバス視点です。
きゃらきゃらと、庭園から幼子の声が聴こえます。嗚呼、何と優しい日々であることか……。
わたくし、セバスは旦那様をお見捨てにならなかった奥様に、心からの感謝を捧げています。
旦那様と奥様が擦れ違っていた頃、何も出来ずに気を揉んでいたわたくしに教えてやりたいものです。この屋敷に、天使達が笑い合う、温かな空間が出来る事を。
奥様の妊娠が判明した時、一番喜んでいらしたのはアンジュお嬢様でした。
奥様も旦那様も、アンジュお嬢様が奥様方の実子に遠慮して、甘えてくれなくなるのではないかと危惧なさっておいででした。わたくしも相談を受け、アンジュお嬢様を注意して見ていたのですが……。
「え!?義母様妊娠なさったのですか!?弟ですか?妹ですか?」
瞳をきらきらと輝かせ、弾んだ声で矢継ぎ早に奥様に尋ねるアンジュお嬢様はどう見ても、純粋に喜んでおられました。
奥様も旦那様も安心なされた様子で御座いました。
「ふふ、アンジュはどちらが良いと思う?」
「えーっ!エドが可愛かったから弟だと嬉しいかなぁ……でもでも!妹も可愛いだろうなあ!」
アンジュお嬢様は実弟のエドワード様と大変仲がよろしく、頻繁に文通をなさっておいでです。お忙しい時間の合間を縫ってお姉様に会いに来られるエドワード様は、大変頭の切れる少年で、奥様も旦那様も気に入っておられます。近頃は旦那様がエドワード様に当主としての仕事を手解きする姿も見られます。
アンジュお嬢様が拗ねていらしたのを見たのは、その件についてが最初で最後ですね。何でも弟君を取られたように思った、と。
アンジュお嬢様にお可愛らしく睨まれる旦那様がおろおろとなさっていて、大変情けなかったです。
アンジュお嬢様は出産経験のある使用人達に話を強請っては、いつかのように奥様の後を着いて回り、奥様が少しでも力仕事をなさろうとされると、さっと先回りなさって……傍目から見ていてとても和む光景が繰り広げられておりました。旦那様もアンジュお嬢様に触発されてか、奥様の後をアンジュお嬢様共々雛鳥のように着いて歩いては、アンジュお嬢様諸共回収されるのがいつもの流れでしたね。
何やらその過程でアンジュお嬢様との絆も育まれたようなので、目を瞑ろうと思いました。正直旦那様のアンジュお嬢様への不器用さは目を覆いたくなるものがありましたので……。
奥様のご出産の折にはアンジュお嬢様と旦那様があまりにも取り乱され、急遽エドワード様に来て頂いた程でした。
「ねえエド、エド……義母様は大丈夫よね?」
「大丈夫ですよ、姉上。母上の事を思い出してしまったのですね?」
「出産は命懸けだもの……」
幼い弟君に縋るアンジュお嬢様の儚げなお姿は、屋敷では見た事の無いものでした。母君が亡くなった件をアンジュお嬢様が気になさっていなかった筈は無いというのに、あまりに上手く隠されるものですから、誰も気付いていなかったのです。アンジュお嬢様の心の傷に。……この場にエドワード様を迎え入れたのは英断でした。
それまでおろおろなさっていた旦那様も、打って変わってきりっとなさって、瀬戸際で旦那様の威厳は守られました。それまでの旦那様は手が震えて顔色が土気色で、今にも吐きそうなお顔でしたからね。
産声が聴こえた瞬間、旦那様とアンジュお嬢様は揃って出産が行われていた部屋に駆け込みました。
立ち会った者に聞いた話ですと、生まれた双子の赤子達を最初に抱いたのはアンジュお嬢様だったそうで、旦那様は赤子に夢中なアンジュお嬢様の周りを彷徨かれていたとか。
ルーシーと名付けられた女の子とジャンと名付けられた男の子は、そうして皆に祝福されながら誕生したのです。
アンジュお嬢様は双子に張り付いて、それはそれは可愛がっておいででした。
寝返りを打ったといっては撫で回し、喋ったといっては褒めちぎり、立った時など感激の涙を流しておられて。その可愛がりようは奥様すら苦笑する程でした。
そんなに可愛がられたお2人も当然アンジュお嬢様に懐き、初めて話した言葉は揃って「ねーね」です。呼ばれたアンジュお嬢様は悶絶しておられましたね……。
「ーーセバス?どうしました?」
物思いに耽るわたくしは、不意に呼ばれて、過去へと飛ばしていた意識を戻します。
「ああ失礼致しました、エドワード様。如何致しました?」
「いえ、何か考え事ですか」
「そうですな……。現状の幸せさを噛み締めておりました」
「ああ……」
わたくしとエドワード様は、揃って庭園に視線を遣ります。
アンジュお嬢様の腰に抱き着いた双子が、きゃっきゃと笑っています。アンジュお嬢様の後ろをぴったりと着いて歩くさまは、最早この屋敷の名物と言っていいかもしれません。
「……僕の姉上でもあるのですけれど」
エドワード様の少し不貞腐れたような呟きが耳に入り、わたくしはつい、笑んでしまったのでした。
ひとまずここで完結です!お付き合い頂きありがとうございました!
……とは言いましたが、誰かの視点が見たいというご要望がありましたら気軽に言ってみてください。熟考のうえ、書けそうなら投稿してみますので!
因みに全くリクエストが無ければ泣きながら完結させておきます!




