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『侍女』

 わたくしの趣味は人間観察です。悪趣味と言われる事もありますので、あまり公言致しませんが。


 さて、そんなわたくしはお嬢様専属侍女を務めさせて頂いておりますが、このお役目を拝命してからというものの、退屈とは無縁で非常に充実しております。同僚達に羨ましがられるように、可愛らしいお嬢様を見放題なのは勿論なのですが、人間観察的にもおいしいのですよね、お嬢様の周囲は。




 お嬢様は最初、旦那様の妾という立場でいらっしゃいました。実情は名ばかりのものではありましたが。

 あの時の奥様はそれはもうお可哀想でしたが、それよりも奥様付きの侍女達は憤死するかという勢いでした。まあその中の大多数は何週間と保たずにお嬢様に絆されましたが。

 ……わたくしですか?わたくしは……傍観者を気取っていたらいつの間にかお嬢様沼にずぶずぶと……。はい、今では立派な末期のお嬢様好き。後悔はありません。傍目から見てそんなに末期には見えないようですが。わたくし、感情が表に出にくいので、どうもお嬢様に「冷静で有能な格好良い侍女」と思われているのだそうで。ありがたい話です。


 わたくしの話はいいのです。

 今回注目すべきは、反お嬢様派の侍女の話。

 まず面白いのが、彼女達は妾時代のお嬢様に嫌がらせをしようと致しまして……出来なかったのです。何故って?彼女達が『奥様の侍女』である事に誇りを持っていたから。嫌がらせなんて侍女の立場になればいくらでも出来てしまうのですが、それをしてしまえば侍女失格です。奥様にも顔向け出来ません。

 わたくしは彼女達の意識の高さに敬服すると同時に、お嬢様に何も出来ず本気で歯噛みする彼女達を見て、とても笑わせて頂きました。


 思い返せば、その頃は彼女達は確かにお嬢様に敵意を持っていたのですよね。だからといって今の心持ちがお嬢様に好意的であるかと言われれば、決してそのような事は無いのですが……。


 話を戻しましょうか。

 旦那様と奥様が仲直りをされ、お嬢様がお嬢様になった時は、反お嬢様派も随分数を減らしてしまっていました。

 それでもお嬢様の化けの皮を剥がしてやるという勢いは衰えず……今考えると意地になっていたのかもしれませんが。あの時彼女達は『仲直りの手助けをしたお嬢様は救いの手』派と、『あんなに出来た子がいる筈ないので化けの皮を剥がす』派に割れてしまって大変でした。主にわたくしの腹筋が。


 結局『救いの手』派はお嬢様大好き派に吸収され、『化けの皮』派はお嬢様に張り付き監視していましたね。奥様は勿論、同僚達のそんな動きに気付いておられましたが、侍女長に「程々にさせておいてちょうだい。アンジュには探られて痛い腹など無いのだから心配いらないし」と苦笑しながら仰っていたのをわたくしは知っております。

 奥様付きだけあり彼女達は奥様が大好きで、奥様もそれを重々承知しているからこそ、奥様が本当に悲しむ事……お嬢様を傷付ける事をしないという信頼感があったように思います。


 旦那様?あの朴念仁、もとい、鈍めなお方が侍女達の感情の機微に気付く筈もありません。

 あの方、昔は自分と奥様の事で、今はそれに加えお嬢様との距離を測りかねてあっぷあっぷしていますからね。お嬢様が養子になられてどれほど経っていると思っているのでしょう。未だにお嬢様に気を遣われておろおろしているさまを見ていると、とてもとても大貴族の当主に見えません。


 旦那様といえば、大奥様と大旦那様のお嬢様への溺愛っぷりも特筆すべきでしょう。頻繁に会いにいらしてはお嬢様の喜ばれる消え物の贈り物を贈られて、猫可愛がりして帰っていかれます。

「性格の良い孫だから無責任に可愛がれて最高」「良いとこ取りは祖父母の特権」と楽しそうに仰っていましたね。あのご夫婦も大貴族の前当主夫妻ですので、当然黒い面も狡賢い点もあるのですが、お嬢様の前ではただただ好好爺然としているので、お嬢様は微塵も気付かれておりません。お嬢様はそれで良いと思います。


 そうそう。まだまだ純粋なお嬢様ですが、当初は大奥様が貴族の薄暗い面をお教えしようとしていたものの、その役は結局奥様のお母様が担われているようです。あの厳しく気難しいご婦人と定期的に顔を合わせるのは、わたくしでしたら息が詰まってしまいそうですが、お嬢様は楽しみにしておられるようで。「叱ってくれるのは親身になってくれているから」って、お嬢様……いえ、わたくしが口を挟む事は致しませんが。奥様のお母様も、お嬢様のそんな態度を気に入っておられるのでしょうし。




 そうやって周囲に見守られ、時に粗探しをされては歯軋りされていたお嬢様ですが、最近の奥様と旦那様の頭痛の種もお嬢様なのです。珍しい事に。わたくしですら少し心配していると言えば、いかに大事(おおごと)か分かろうというもの。

 何事かってお嬢様、とんと浮いたお話が無いのです……。


 誤解の無いように言っておきますが、お嬢様は社交界に出られてから、それはそれは人気でした。男女問わず。勿論お嬢様と相性が悪く、八方美人などと陰口を叩く方々もおられます。しかし、お嬢様を気に入られた王妃様のひと睨みで鎮火してしまう、儚い方々です。

 では何故王妃様にすら気に入られたお嬢様にお相手が現れないのか?

 簡単な話です。お嬢様を気に入られた大貴族のご夫妻やご令嬢が、勝手にふるいにかけて追い払ってしまうので、お嬢様の元へ辿り着ける殿方がいらっしゃらないのですよね……。ふるいにかけている筆頭が王妃様なのがもう……。


 2年前にご誕生なさった、待望の奥様と旦那様の御子達もお嬢様にべったりですし……あら?お嬢様、もしかして本当に行き遅れてしまうのでは……?

アンジュを全員が全員気に入っているわけじゃないよーというお話ですね。

因みにこのお話の時間軸は短編版の数年後になっております。


次回はセバス視点かなー?という感じです。

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[一言] アンジュ好き好きウィルスの感染力ヤバ過ぎ 抗体持ちは少数派? ウィルスに感染した王侯貴族防壁を突破してアンジュの前に立てる勇者は現れるのか
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