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『大奥様』

旦那様の母親視点です。

 わたくしと夫の子……夫の不器用さを見事に受け継いでしまった我が子から、久々に連絡が来たので何かと思えば、養子を迎えたなどと言うものだから、わたくし達は大層驚いた。驚いて……その孫になる子に会いに行く事にした。


「ねえあなた。どんな子なのかしらね」


 わたくしが年甲斐も無くうきうきと夫に話しかけると、夫は苦笑した。


「さあねえ。今までどんなに言っても頑として頷かなかった養子なのだから、余程何かあったのだろうけれどね」


 息子の嫁のシャルロッテさんは婚姻から5年しても子を為せず、夫婦仲も控えめに言っても良好とは言い難いとセバスに聞いている。息子はシャルロッテさんに惚れ込んでいた筈なのに、何故か息子の方から突き放しているとか。どうせ何か、面倒な思考回路を拗らせでもしたのだろう、というのがわたくし達夫婦の見解。

 しかしいくら息子がシャルロッテさんに惚れ込んでいても、子が授からないというのは大問題だ。わたくし達も出来ればそっとしてあげたかったのだけれど、周りが放っておいてくれなかった。息子は当初の、養子を取ってはどうかという声を頑なに跳ね除けた結果、むしろ追い詰められて、妾を得る事になったのは記憶に新しい。


「妾はどこのお嬢さんだったかしら……」

「そのお嬢さんの様子も見てこよう。うちの息子が幸せにしてあげているとは思えない。どんな心変わりか養子を迎え入れたのだし、実家に帰して差し上げる事も視野に入れなくてはね」

「そうよねえ……」


 シャルロッテさん1人の相手で精一杯だったのだし、自分の意に沿わないからといってろくに顔も合わせていない可能性すらある。あの子は大人気ないところもあるから。




 懐かしの屋敷に着くと、少し雰囲気が変わっているようだった。何だか明るくなったというか、優しい空気が流れているような。養子になった子のお陰なのかもしれない。

 わたくし達が馬車から降り立つと、丁度少女がシャルロッテさんと笑い合いながら歩いているのが見えた。可愛らしい少女だ。隣のシャルロッテさんも、前に会った時の陰鬱な顔とは比べ物にならない笑顔を浮かべている。


 シャルロッテさんはふとこちらを見て、それから慌てて少女に何かを耳打ちして、近寄ってきた。

 少女は屋敷の中へ駆け込んで行く。


「お義母様、お義父様!?」

「急にすまないね」

「来ちゃった!」







「来ちゃった!ではありませんよ母上。父上まで……何の御用です?」

「えー」


 わたくしは、可愛くない息子と可愛い嫁に挟まれた、とても可愛い少女を見る。少女はわたくしと目が合うとにっこり笑った。可愛い。


「シャルロッテさん、わたくし達にもこの可愛いお嬢さんを紹介してちょうだいな」

「母上、何故私に言わないのですか……」


 息子の言葉は封殺してシャルロッテさんを見遣れば、シャルロッテさんも心得たもので、普通に話し始めた。


「お義母様、この子は養子として引き取りました、アンジュですわ」

「アンジュです!お祖父様とお祖母様ですか?」


 わたくしの頬が勝手に緩む。夫も中々見ない程の優しい顔になっていた。


「そうよぉ、お祖母様よ〜!」

「お祖父様とは良い響きだね……」


 アンジュちゃんはにこにこしたまま、唐突に特大の爆弾を投げ入れてきた。


「私、妾として買われた時はどうなるかと思いましたけれど、お祖父様とお祖母様まで出来るなんて嬉しいです!」

「……え」




 息子、いえ、愚息の必死な弁解を聞くと、愚息が屑にしか見えない問題を除けば納得出来る話ではあった。


「ごめんなさいねえ……!シャルロッテさん、うちの愚息が!」

「シャルロッテさんにも君にも本当に愚息が申し訳ない事を……」

「え?いえいえ、旦那様……じゃなかった、義父様(とーさま)が買ってくださらなかったら私、きっと今頃お金持ちなお爺さんのお嫁さんとか、そんな感じになっていたと思うので!」

「アンジュちゃん……」

「その、アンジュのお陰で今、とても幸せなので……」


 シャルロッテさんが頬を赤らめてそう言う。


 アンジュちゃんの答えを聞くだけで、生家でどのような扱いを受けてきたのか分かろうというもの。

 アンジュちゃんは明るくて裏表の無い少女、見えるままの性格なのだろう。

 愚息はともかく、社交界で『妖精姫』とまで呼ばれ、その美しさ故に様々な者達を見て、あしらってきたシャルロッテさんの人を見る目をわたくしは信用している。シャルロッテさんがあんなに可愛がっているのだから、わたくしも安心して可愛がれる。


 ……まあ、大貴族としては素直過ぎる面もあるようだけれど、そんなものわたくしがいくらでも鍛えてあげられるのだし。こんなに素直なら吸収もきっと早いし。


「アンジュちゃん、わたくし達はアンジュちゃんを歓迎するわ!」


 アンジュちゃんはとても喜んでくれた。

 セバスや使用人達にもとても評判が良いアンジュちゃん、ええ、わたくしから見ても掘り出し物だったわ。愚息の妾になど収めておくのは勿体無い、養子にと望んだシャルロッテさんは流石ね。




 最後に、わたくし達は憂いを無くす為にアンジュちゃんの実家について調べた。

 けれど、結果から言えば問題は無さそうだった。アンジュちゃんを売った父親はとうに当主の座を追われていて、アンジュちゃんの弟が親戚を頼って後見人になってもらい、頑張っているそう。

 父親と関係が薄く、そして有能な親戚に助けを求めたのも、父親を追い落としたのも、全て幼い彼の功績のようだ。


 アンジュちゃんはこの話を聞いたらきっと、喜んでくれるだろう。また会いに行かなくてはね!

次はきっと多分メイビー、アンジュの侍女視点になると思います!

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編からこちらに来ました! 幸せになってよかったね! たった1つの誤解から大変だったけど、これからはうまくいくね。
[良い点] イケメンだけど中身は拗らせ過ぎって… おばば様、実子の旦那様の事をそこまでわかっているなら もっとビシバシ扱いても良かったんですよ(笑) でも、きちんとわかる人に囲まれて本当にアンジュは…
[一言] 爺婆秒で堕ちる ちょっと気になってた弟君も上手くやってるようで良かった 優秀な姉弟だこと
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