スレ61 もう一つのグレイプニル
『アキ:それで、結局どうなったんだ?』
[どうもこうも、面倒な弟子は優秀なこっちの世界の師匠に押し付ける予定だよ。というか、俺が師匠面できるわけねぇだろ]
『アキ:ハハッ、そりゃそうか』
チャットアプリを通じて、地球の師匠の一人とトークタイム。
誰にもバレないよう、こそこそとやっているがそもそも見る奴なんていないか。
[面倒だから勝ったあとは気絶して、閉会式までぐっすり寝てた。心配そうにやってきたクラスメイトに働きすぎたって言ったら納得してくれたよ……師匠を除いて]
『アキ:鎧騎士な。ああ、いくら気功で誤魔化してもバレるだろ』
できるだけ偽装を施して、本当に数時間の休憩が必要な体にしてたんだが……あのときの眼が未だに忘れられない。
[それで祝勝会とかもすっぽかして、今こうしてチャットをしてるってわけだ。映像も録画してるんだし、反省をあとでしようぜ]
『アキ:ああ、剣聖や戦闘狂が観ながらいろいろとケチつけてたぜ』
[うげ、それは厄介な……まあ、聞いてしっかりと修正しよう]
入力を終えて送信する。
一度スマホを不可視状態にして、ベッドの上から窓の外の光景を覗く。
「……盛り上がってるなー」
どこのクラスもお祭り騒ぎ、闘いで滾った熱をどんちゃん騒ぎでさらにヒートアップさせている。
地球に還ったら、俺もみんなと花見でもしようかな? たぶんだが、数人は来てくれるだろうし。
「けどまあ、ミッション達成か。ちゃんと成功してよかったー」
今回も出た『面倒事対処シリーズ』。
その内容は──レイルを圧倒的な差で捻じ伏せ教育しろ、というものだった。
やり方にできるだけ沿ってやってはみたものの、未だに意味が分かっていない。
「最後に師匠面をして終了ってところがなんとも不思議だよな。それでなんの意味が生まれるんだろう?」
まあ、神のみぞ知るってヤツか。
レイルは気絶することもなく、逆に俺を医務室まで運んだりして……傍から見れば完全に、『試合に勝って勝負に負ける』状態だったのは否めない。
けどそれでも、地球で俺を鍛え上げてくれた友人たちのお蔭でどうにか辛勝することができた……余裕をかましてはいたが、体に染みこませて自動発動するようになった武術以外で、対応する手段が無かったからな。
「闇が晴れて俺が気絶、そして荒い息を吐きながら剣を棒代わりに使うレイル。どこからどうみても、俺の負けだよな」
結界の外に自動送還、なんて機能も存在しなかったので普通に倒れていた。
レイルが必死に説明してなきゃ、完全に俺の負けとなっていただろう。
「まっ、何はともあれ……今日も平和な一日だったってことで!」
夕日が沈む中、生徒も教師も関係なく盛り上がっている。
そんな光景にフッと笑みを浮かべながら、俺は静かに瞳を閉じた。
……と纏めたかったのだが、ふいに放たれた殺気を感じて慌ててベッドから逃げる。
その瞬間、ついさっきまで俺の居た場所に巨大な鎌が振り下ろされた。
ベッドのギリギリ、つまり壊さないように加減はしていたようだが、俺の心臓は完全にお外にこんにちはしている角度だったぞ。
[カモン]
「お、おはようございます」
[カモン]
冷徹なる無慈悲な騎士甲冑が、剣呑な瞳を甲の中から向けていた。
背中に背負った大鎌も相まって、さながら死神様のようでもある。
[みんな待ってる、祝勝会]
「……本当に苦手なんだよ。誰かから祝われるのって」
[貴方にどんな事情があれ、結果Xクラスが優勝した。主賓がいなきゃ、始まらない]
「…………それでも!」
歩行術の限りを尽くし、どうにかサーシャから逃れることを選択する。
[──グレイプニル]
奇しくもレイルのスキルと同じ名を持つ魔法の紐が、唐突に俺の体を拘束する。
逃げようとしていた体勢のまま縛られたため、頭から床にダイブ……強打したよ。
[このまま連行、慈悲は無い]
「そ、そんなっ! お代官様、今一度のご検討を!」
[……れっつごー]
やる気のない入力だな、なんて思っているとサーシャは俺を本当に連行する。
「いたたたたっ! さ、サーシャ様! せ、せめて持ち上げてください!」
[…………]
「三点リーダ、入力しなくて良いから!」
無慈悲なお代官様によって、俺は引き摺られながら祝勝会の会場まで運ばれていく。
途中でその光景を見る者は、なんだか残念そうな目をしていた(気がする)。
や、止めてくださいサーシャ様!
生徒たちからの好感度が、ただでさえ低いのをどうにか取り戻した好感度が再びどん底へ墜ちてしまいます!
『(プイッ)』
貴様ぁぁぁぁっ!
分かっててやってるよ、絶対これをやったら周りがどう思うか知っててやってやがるよこの騎士めっ!
俺の心の慟哭は届くことなく、運搬は常に引き摺られた状態で……って、あれ?
ミノムシ状態で担がれてても、結局好感度的なモノは下がってたよな。
そう考えると、そもそも……逃走しようとした時点で、俺は詰んでいたのか。
「……ハァ、貝になりたい」
[?]
「いや、なんでもない。とりあえず反省したから、もう外してくれていいぞ」
[り]
そこはあっさりと外してくれたサーシャ。
この後は二人、少しばかりの会話をしながら会場に向かうのだった。




