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俺と異世界とチャットアプリ  作者: 山田 武
【異世界学園の】面倒事対処 その04【劣等従者】

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スレ60 試合結果は闇の中



 会場中が魅せられた。

 互いにスキルを必要としない、絢爛にして剣嵐な舞の数々に。


「負けるかぁぁぁぁっ!」


 猛り狂う獣のように吼えながら、剣を振るうレイル。

 しかしその剣技は正確無比のもので、一撃一撃に映えを感じさせる。


「いいや、お前さんは負ける」


 明鏡止水──澄み切った邪念無き剣技で、アサマサはレイルを翻弄する。


 努力が生みだす結果を許されない彼が身に着けた、弛まぬ修練が表す至高の武術。

 そこにはあらゆる人間が到達できる、可能性が秘められていた。


「剣技──『流星』」


 怒涛の勢いで放たれた剣撃を、アサマサは自身の剣を以って誘導していく。

 洗練された技術を持つ達人だけが成せる、見る者の心を奪う優美な剣閃。


 それを他者の剣で行わせ、自身は相手に攻撃を加える。


「ぐあっ!」


「ほらほら、もっと本気を出せよ。技術に頼るか、それとも──」


「対価──ぼくの強化スキル全部!」


「より強大……いや、凶大な力を取るのか」


 アサマサがそうボソリと呟いた瞬間、高速で移動を行ったレイルがアサマサに向けて鋭い剣閃を払う。


「だから、これとこれ、それにここの力を入れすぎだ。もっと丁寧に、脱力するぐらいの方が斬りやすくなる」


 脚に気を籠め、ヌルヌルと回避しながらアサマサは再び指導を行う。


 叩かれる度に『流星』を受けたときのように剣技に磨きがかかり、美しい剣術として洗練されていく。


「というか、精神も面倒だな。とっとと元に戻れ──『魂柔』」


「う……かはっ!」


 アサマサは自身の練り上げた気を、直接レイルの中へ流し込む。

 たび重なる【貪狼縛枷】の効果で疲弊していた精神が、魂魄単位で癒されていく。


「あ、あれ? アサマサ、ぼくは……」


「気にするな。どうせプラン通りだ」


「プラン?」


「俺の作戦通りだってことだ。お前がそうして暴走するとこから、俺が戻すところまで」


 ハッと、これまで自分が何をしてきたかを思いだすレイル。

 そして、少ししょんぼりとしだす。


「また、制御できなかったんだね」


「けど、今はできてるだろ? だからまだ、効果は継続している」


「あっ……」


「俺は精神に作用させただけで、肉体には何もしていない。だからお前のスキル……グレイプニルだっけ? は、停止していない」


 気絶など、本人が活動不能になれば稼働を止めるスキルが多い。

 しかし今回のケースの場合、レイルが気絶したわけでもないので止まらなかったのだ。


「ほら、もう少し剣技を磨け。そして、この恩を忘れるな」


「恩……ですか?」


「お前の師匠は優秀なんだろうが、俺の師匠たちの方がもっと優秀だ。そして今、なんの因果か俺はお前の剣技を磨かなければならない状況にある」


「えっ、どういうこと?」


 説明を求めるレイル。

 しかしアサマサは沈黙を貫き、すべてを黙殺することを選んだ。


 そして剣を構え、自ら前へ出る。


「面倒だし、体で覚えろ。俺の師匠はそりゃあ立派な奴だが……俺に問題があって、剣技は全部その身で覚えた」


「……まさか」


「教え方なんて分からないし、見て覚えてくれ。おっと、ここからは企業秘密にでもしておこう──“闇幕(ダークカーテン)”」


 指輪に籠められる限界まで魔力を注ぎ、会場一帯に闇を敷き詰める。

 視界が奪われた中、アサマサが別の指輪を嵌めて灯りを生みだす。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 不思議そうな顔をしているレイル。

 照明を用意したのが、いけなかったのかもしれない。


 ──それとも今さら……俺が光属性を使ったからか?


 けど、どうせ全属性分の指輪を持っているわけだし……隠す必要はないんだよな。


「俺が習ったのは、基本一通りの武術だけだが……レイルは何を使う?」


「剣を主に使うんだけど、だいたい全部使えるようにしてあるよ。ぼくの【貪狼縛枷】の関係上、できるだけ多くのスキルを持っていた方がいいからね」


「いちおうだが、そのグレイプニルってスキルの効果は聞いてもいいか? まあ、言わなくてもいいんだけど」


「大丈夫だよ。対価としたモノを永劫的に消失させることで、支払った分だけ強化が行われるスキルなのさ」


 ずっとロスト……ってことじゃあ、きっと無いんだろうな。

 そんな俺の表情を見たからか、コクリと頷いて説明を続ける。


「もう一つ、【干天慈雨】ってスキルを持っていて、一度失ったり強く欲したスキルの習得率と成長率が高くなるんだ。ちなみに雨が降っているとより高まるね」


「……何、そのチートスキル」


「チート? ああ、異世界人が使う便利で強力なスキルのことだね。たしかに自分でも、少しばかりチートだと思うよ」


 イケメンスマイルでそんなこと言われてしまうと、ほんの少しだけ憎悪が……。


 俺なんて、どれだけ強く願ってもスキルは手に入らないし(鑑定)と(言語理解)は戻ってこないのに……。


「まあいいや。この勝負、俺の勝ちってことでいいか?」


「……うん、そうだね。ぼくは自分自身に負けていた。君との勝負は、その時点で決していたんだ」


「自分でそう思うなら、それでもいいけど。あとで足腰が立たなくなるまで、しっかりと学んでもらうからな」


「分かりました──師匠!」


 師匠、ね……ずいぶんと懐かしい言葉だ。

 俺もよく、そう言わされていたな。



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