第1話「拝啓、今日の私へ。予定はどうなっていますか?」
拝啓、今日の私へ。予定はどうなっていますか。
まっさらな予定表を眺めながら、コーヒーをすする。今日も見事に何も書かれていない。潔いくらいに。
窓の外はよく晴れていた。雲ひとつない、絵に描いたような青。
「ふぅ……なんだかいい天気だね。こういう日はのんびりするにかぎる」
仕方ないよね。ゆきちゃんも窓際で丸くなって、日向ぼっこを満喫してる。友達がくつろいでるのに、私だけ頑張る理由がどこにある? ない。ないったらない。
――そう思っていた矢先、腹の虫が盛大に鳴いた。
忌々しい肉体め。魂だけになりたい。
保存庫を覗く。……何もない。空気しかない。最後に狩りをしたのなんて、もう思い出せないくらい前だ。
いやいや、これは仕方ない。生存のための外出だ。怠惰ではない。理論武装を済ませ、渋々町へ繰り出す。
馴染みの店では最低限の会話――「これください」「はい」だけを済ませ、逃げるようにその場を後にする。その足で、一応と自分に言い訳しながら傭兵ギルドへ立ち寄った。
受付のカウンターの前で、目がぐるぐる回る。口の中で言葉を何度も噛みながら、
「あの、お仕事……あ、やっぱりいいです」
結局、何も聞けずに引き返した。
――何をしに来たんだろう、私。
帰路をとぼとぼ歩きながら、さすがにこのままだとマズい、という危機感だけは残っていたらしい。町外れまで来たところで、足に力を込めた。
地面が抉れた。踏み込んだ跡が、そのままクレーターになる。
次の瞬間には、森の深部にいた。町外れから森の奥まで、常人であれば半日はかかる距離。それを、まばたき一つで詰めた。
そこにいたブラッティベアーへ、素手のまま拳を叩き込む。武器はいらない。危険度Bプラスの魔物は、声を上げる間もなく地に沈んだ。
「よし、食料確保。今日はめっちゃ頑張った!」
誰も見ていない森の中で、一人ドヤ顔を決める。
「あとはお家で読書でもしてますか」
これが、リーゼロッテ・リーディスティの日常であった。
*
同じ日、アルファポリスの傭兵ギルドにて。
「森の浅いところにブラッティベアーが確認されているそうです。優先度は高めですが、危険度もそこそこあります。どうしますか?」
受付の問いに、リーダー格の男が胸を張った。
「俺達5人組サンシャインを舐めんなよ。余裕でやってやるぜ!」
意気揚々と出発するサンシャイン団。しかし――探せど探せど、それらしき姿はどこにも見当たらない。
結局、手ぶらで戻ってくることになった。
「いなかった? 変ですね。サンシャインの皆さん以外、怖がって誰も受けていないはずなんですが……」
「なんか前もこんなことなかったか? しっかりしてくれよ、商売上がったりだぜ!」
ぶつくさ文句を言いながら、リーダーは去っていく。
残された受付は、記録簿に視線を落とした。
「おかしいですね。この一ヶ月で、三件目ですか……調査の必要がありそうです」
*
**tips:危険度B ブラッティベアー**
アルファポリス近郊の森の深部に潜む魔物。図体は3メートルを超え、長い爪と硬い毛皮に覆われており、並の傭兵では刃が立たない。図体に似合わぬ俊敏さと鋭い嗅覚を持ち、遠くからでも獲物を捕捉できるため、戦闘は不可避。パーティー推奨。




