第98話 黒い悪魔
「ここなら少しは楽しめそうだ」
ドランはあまり寝ていないはずなのに、楽しそうに肩をグルグル回してほぐしている。
昨夜はあの後大変だった。ドランを1人で行かせたのは間違いだったようだ。
夜遅くならないうちにレオンは帰ってきたが、ドランは全然帰ってこなかったんだ。
どうせまた森で迷っているんだろうと思い、長女に迎えに行かせると、ドランはワイバーンの背に乗ってではなく、爪で掴まれて戻ってきた。
レオンが長女と話してみると、どうやらドランはもっと戦いたいと背に乗ろうとしなかったらしい。
ドラン、どうしたんだよ。そんなに聞き分けのない奴じゃなかったはずだ。
強くなると性格までおかしくなってしまうのか? それともレオンが与えたスキルが何か性格に影響を与えたか、変なスキルでも生えたのか?
少し心配になったが、戻ってきたドランにポチが「ガウ!」とひと吠えすると、大人しく寝た。
寝たんだよな? 気絶って可能性もあるのか? 寝たことにする。
朝起きて、またダンジョン都市までレオンの「よーいドン!」の掛け声で走らされると、昨日飲んだカフェオレとダンジョン産のハニービーの蜂蜜を使った蜂蜜トーストを朝食に食べた。
アシュレイだけがおかわりしていたんだが、やはりアシュレイは甘いものが好きなんだろう。
そして今日は10階層のポータルに飛んで、そこからのスタートだ。
朝からポータルには冒険者たちが多数並んでいる。並ぶのは面倒だが、みんな大人しく並んでいるから偉い。
入り口のポータルで問題を起こすと、冒険者資格を永久剥奪されるとあって、みんなここだけは大人しく並んでいるようだ。
パーティーごとにポータルで10階層または20階層へ飛んでいく。
「今日は20階層のポータルまで行くってことでいい〜?」
「一桁の階層を一気に踏破するのとはわけが違いますよ? 15階層からはパーティーに1人はAランクを入れないと難しいと言われていますし」
アシュレイは俺たちの実力をまだ甘くみているようだ。
その辺の人間と一緒にしてもらっては困るんだ。なんせ俺たちは人間辞めてるからな。ははっ
「どうしたアデル、気持ち悪い笑い方をして。毒にでもやられたか?」
「ドラン、お前はいつも俺に対して失礼だな。あいにく毒は状態異常無効があるから俺には効かん」
「ねえ、そんなこといいから早く行こ〜、時間勿体ないし〜」
「この先は、2階層ごとに10階層のポータルがある場所のような休憩スペースがある。寝ずに進むようなことはせず、夜になったらそこで泊まるのが通常の進み方だ」
アシュレイを連れてきてよかったな。
ダンジョン都市は少し散策したが、俺たちは誰1人としてダンジョンの仕組みを知らない。
前にドランが浅い階層しかないダンジョンなら行ったことがあると言っていたが、一桁の5階層程度のところだったんだろう。それにしても休憩スペースがあるなど、ダンジョンは冒険者に優しいな。
10階層は面白くないということで、片手間に出会った魔物を倒しつつ、最短距離で進み、11階層はまた草原でウルフ系の魔物が群で行動していた。
なるほど、ここからは上位種が出てくるということだな。
それでも俺たちの脅威になることはなく進み、12階層、13階層と群で襲いかかってくる魔物を倒しながら進んだ。14階層の階段を下ると、森が見えた。
森は草原より視界が悪い。木に阻まれ遠くまで見通すことが難しいし、木の上を移動してくる魔獣などもいる。
この階層と次の階層ではハニービーがいるそうだ。なかなか見つけられないらしいが、巣を見つけると一攫千金が狙えると言われている。人の爪ほどの大きさの魔物でない普通の蜂であれば、巣も大きくて直径30センチほどだが、ハニービー自体が30センチほどあるため、巣は小屋くらいでかいのだとか。
見つけられたらの話だ。
この階層と次の階層は虫系の魔物が多いため、動きも早いし群もでかい。
ドランはそれを楽しみにしているらしい。
俺は虫などと戦いたくないため、見学に徹するつもりだ。
「ハニービー見つけたら1匹は残しておいてね〜、巣に誘導してもらいたいし〜」
「分かった」
ココとアリサも気合を入れている。アシュレイは一歩引いてみているが、きっとアシュレイは蜂蜜が好きなはずだ。
「アデル追い立ててくれ」
「ドランもできるだろ」
「俺は細かい操作は苦手なんだ。俺が魔法を使ったらこのあたり一帯が消し炭になる」
仕方ないと小さい炎をいくつか出して、索敵を使いながらトンボのでかくなったような魔物を追い立てた。
近くで見ると、顔が怖い。歯をガチガチ鳴らして威嚇してきて気持ち悪い姿だ。
ココとアリサは短剣でサクサクと倒している。虫のように素早い動きをする魔物は小さな武器でサクセク倒す方が向いているのかもしれない。ドランは剣がでかいから振り抜いた風圧で虫が避けてしまって、なかなか苦労している。
「仕方ない。俺もナイフにするか。剣はもっと大型の魔物に取っておこう」
それがいいと思うぞ。そんなでかい剣を振り回して倒すような大型の魔物なんてそうそういない。
アシュレイは風を付与した弓を使ったり、ナイフを投擲している。レオンは魔法で小さな火球や石塊を飛ばして倒していた。やはり小回りの効く戦い方の方が有効らしい。
「ハニービーはなかなかいないね〜」
「そうだな、だから一攫千金なのか。簡単に見つかるようならもっと市場に出回っているはずだ」
カサカサと嫌な音が聞こえてきた。地面を這いずる虫が来たらしい。
「なんか変なの近づいてきてな〜い?」
「あたし、この音の正体分かった気がするんだけど。たぶん姿見たら耐えられない。周りに冒険者いる?」
「この階層は今のところ冒険者は俺たちの他に2組くらいしかいないな。だいぶ離れている」
長い触覚が見えた瞬間、魔物の全貌を見ていないにも関わらず、アリサは無言で一気に高火力の魔法を放ち、辺り一面を焼き払った。
「無理。あたしハニービーを見つけるとかどうでもいい。この階層が無理!」
「あ、うん……じゃあ先に進む〜?」
「私も虫はちょっと苦手。殻が硬いのが多いから力量不足もあるんだけど、とにかく見た目が苦手」
女性陣はやはり虫が苦手なようだ。
「じゃあとりあえず15階層と16階層の間の休憩スペースまで行って、そこで決めよ〜」
そこからはアリサが炎を撒き散らしながら最短で進み、休憩スペースまでやってきた。
「どうする〜? ドランもアシュレイももっと戦いたいならアリサとココには待ってもらって戦いに行ってもいいけど」
「下の方が強いやつがいるんだろ? 先に進もう」
「私もそれでいいですよ」
俺には聞かないのかよ。まあ俺は好き好んで虫と戦いたいとは思わないが。
「じゃあ先に進むってことで。ちょっと休憩してから行こ〜」
今日のお茶はダンジョン都市で手に入れたフルーツのジャムを入れている。
なかなか香り高く美味しい。このジャムは母上とミアにお土産に買って帰ろう。
と、いけない。観光気分になっていた。
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