騎士VS古い悪魔 2
剣を構えた騎士たちが、悪魔との距離をじりじりと詰めていく。いきなり切りかかってこないことがじれったく感じている悪魔だが、自分から騎士たちに近づこうとはしなかった。
騎士たちは隊列を組んで、足音を揃えて移動する。そして、敵を中心に円になるように移動している。そして、敵をその縁の中に閉じ込めたところで、騎士団長が剣を片手で持ち、剣を掲げて剣先を悪魔へと向けた。
「行くぞっ! お前たち! 我らの王と民を守るのだっ!」
団長の掛け声と共に騎士たちが一斉に敵との距離を詰める。怒鳴り声を上げながら悪魔に向かって進んでいく。悪魔はその様子を見ても動じているわけもなく、涼しい顔で彼らを見ていた。
「これだけの数は初めてかもしれませんね。昔は集団とは言え、同じ格好をして言うわけでも、連携の訓練をしているわけでもなさそうでしたから。これは興味がありますね。しばらくは、攻撃を受けるだけにしましょうかね」
騎士たちは全方位から同時に攻撃を仕掛けた。悪魔にそれぞれ剣を振るい、攻撃する。前や後ろ、左右や上下様々な方向から同時に剣を振るう。敵が中心にいるため、騎士同士の剣がぶつかって音を鳴らす。剣同士がぶつかっても、その反動を利用して、悪魔に追撃をかけた。
「なるほど、なるほど。さすがに待った甲斐がありましたね。集団の戦術も乱暴な戦い方ではなく、こういった戦闘方法を長い間訓練してきたのでしょう。昔よりも攻撃が洗練されています。この連携は素晴らしい」
彼は口を動かしながらも、どの攻撃にも当たらない。回避と防御を同時に行い、四つの攻撃が来ても、彼はそれにすら対応する。上下左右の連撃も簡単に回避と防御を行う。同時攻撃と言っても、全く同時に攻撃しているわけではない。人間ではそのわずかな差を理解できるはずもないが、彼はそれを理解している。わずかに先に来る攻撃に合わせて、体を動かし回避する。次に来る攻撃に合わせて、手の甲をぶつけた。彼の手は剣より硬く、剣を弾くのは容易であった。
「いいですね。好奇心が刺激されています。もっと、鋭く、素早く、連携してみてください。いくらでも練習台になりましょう。私が飽きる前に、強くなりなさい」
彼は口角を上げて、彼らの攻撃を視界に収めていた。後ろの攻撃を見ることはできないが、感じることはできる。魔気を利用した感知。先ほどの騎士たちが音を魔気を辿る技術と似たようなものだった。しかし、彼らの魔気探知の精度に比べれば、圧倒的に悪魔の扱う感知の方が繊細で速い。だからこそ、どこから攻撃しても、彼に剣が届くことはなかった。
「お前たち、下がれ!」
騎士団長の声に合わせて、騎士が一瞬で攻撃をやめて後ろに退いた。悪魔は騎士団長の声を聴いた時点で、追撃することもできたが、追撃する素振りも見せなかった。騎士団長はその場所から動かない悪魔に向けて、一歩踏み出した。高く掲げた剣を力の限り振り下ろす。
「せやぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」
闘気を迸らせて、騎士団長の声が辺りを震わせる。肌がピリピリとするくらいの声量だが、悪魔はそれに驚きもしない。彼にとっては人間の速度など、力など、大したものではないとわかっているからだ。その証拠に彼は騎士団長の剣を肩で受け止めた。それは、防御すらしていないということになるだろう。
「いやはや、勢いだけはよかったのですが。残念でしたね」
彼はそういうが、騎士団長は自身の攻撃が効かないだろうと思っているため、他の騎士たちが、敵に攻撃を始めた。
「なるほど、なるほど。貴方たちは勝つことができると思っていないようですね。それでも命を賭ける意味はあるのでしょうか。民も王も逃がすと言えば、貴方たちは戦うのをやめて逃げるのでしょうか。ああ、いや、返事が欲しいわけではありません。ただただ、私の中の疑問が口から出てしまうだけでして」
誰も彼の言葉に返事をしようとなんてしていない。彼らは敵を話の分かる人間のようなものだとは思っていない。誰が、人の心をわからない化け物を理解しようとするだろうか。既に何千人と殺してきた悪魔の話に耳を貸すだろうか。ここで討伐しなければ、人間は亡ぶとわかっていながら、無価値な対話に割く時間はないのだ。
「さて、そろそろ、攻撃も見飽きてきましたね」
先ほどとは打って変わって、既に攻撃を見るのは飽きが来たと言い始めた。彼が見たいのは文明の進化。つまりは、攻撃だけでなく、集団での防御の技術も見たくなってきたところだった。
「では、一つ」
彼はその拳で向かってくる一人の騎士に向かって、拳を振るった。




