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生命は廻り世界は続く  作者: 桜坂 春
二章 〜垣間見える過去〜
21/79

第五話

 祖父に「お願い」された遺跡調査から、ちょうど一週間が過ぎた。四月も下旬に入り、そろそろこの忙しさにも慣れ始めた頃だ。

 そんな時、色葉は再び祖父の「お願い」を受けた。それは──

 

 

 

「……いきなり、火薬を作れって言われてもね……」

 苦笑いを浮かべながら独り言を漏らすと、傍らから形容しがたい気配が漂ってきた。

「お兄ちゃん、無理だとは言わないよね」

「言わないけど、やっぱり無理じゃない?」

「言ったじゃん今!」

 真っ当な事を言ったはずなのに、なぜか白花に怒声を浴びせられた。なんだか悲しくなった色葉は、腹いせに白花の頭を軽く叩く。

「本当に仲良いですね、二人は」

 くすくすと笑う氷波を見て、色葉は一つ咳払いをした。

「では、これより火薬製造の作戦会議を始めます」

 

 そう、今回の「お願い」は火薬を作れという指令だったのだ。

 

 裏庭の縁側に腰掛けた三人は、お互いに顔を見合わせた。

「そもそも、火薬って何で出来てるんだっけ?」

 氷波のもっともな質問に、色葉は額に手を当てた。これは随分昔に覚えたはずだ。記憶を掘り返せ。

「確か……炭と硫黄と、硝石だったはず」

「それじゃあ、やっぱり作れないね」

 氷波の言葉に、二人の間に座った白花は首を傾げた。

「なんで? 炭なら沢山あるじゃん」

「逆に炭しかないんだよ。硫黄はこの辺りじゃ採れないし、硝石はそもそも日本に無い。南蛮から買うって言っても、そんなお金はこの家に無い」

 珍しく良く回る舌を色葉は披露した。すると疑わしい視線を白花に向けられたので、慌てて付け加える。

「って、この前道風に聞いたんだよ」

「へー、そうなんだ。あの人意外と物知りなんだね」

 どうやら信じてくれたようだ。いや、嘘は一つも吐いていないはずだ。自分は何を怖がっているのか。

「でもさ、それならおじいちゃんも道風さんに頼めばいいのに」

 色葉は大きな溜め息を吐いた。それができるならば、すでにやっている。色葉の心中を察したのか、先に氷波が口を開いた。

「生島さんなら、別件で外出されています」

「ちなみに陸も遠征訓練中」

「じゃあ、水望ちゃんは?」

 白花の無垢な言葉に、色葉は一瞬だけ表情に陰を落とした。

「水望は、火薬の事知らないと思うよ。それに……今はそっとしておきたい」

 言ってから、色葉は首を振った。あの夜の事は、二人だけの秘密にする約束だった。

「とにかく、今はこの三人しかいないんだよ。頑張ろう?」

「そ、そんな事、言われなくても分かってるよ!」

 それは良かったと微笑む色葉に、白花は頬を赤く染める。そんな仲むつまじい兄妹を見て、氷波はある事を思い出した。

「……そういえば、硫黄が出る場所って近くになかった? ほら、北東の方の山奥」

「そんなのあった?」

 白花は小首を傾げて眉間にしわを寄せる。しばらくの思慮の後、白花は顔を上げた。

「うん、あったあった。だって昔行ったもんね」

「……俺、憶えてないんだけど」

 なにやら話が盛り上がっている二人を見て、色葉は困ったように呟いた。

 だがそれ以上に、その言葉を聞いた白花は表情を曇らせる。

「だって、そこに行ったの、五年前だもん……ちょうど、あの日の一ヶ月前」

 沈黙が裏庭を包んだ。

 あの日。色葉の人生は、あの日を境に大きく変わった。それは言葉では言い表せないほど辛く、悲しい出来事。そして、それに伴って生まれた負の感情。心の奥底に封じていた気持ちが、その存在を主張するかのように疼く。だが、最近は溢れそうになるそれを、自分の意志で抑える事ができるようになってきた。記憶が無い事も関係しているのだろうが、それだけではないはずだ。

 ではなぜか。

 色葉は俯く妹の頭に手を置いた。

「じゃあ、白花に案内してもらおうかな」

「え……?」

 顔を上げた白花の向こうに座っている氷波に、色葉は目で合図を送る。彼女は微笑を浮かべて頷いた。

「そうだね、こんな所で話してても始まらないし」

「……分かったよ! じゃあ、早速出発!」

 庭に飛び降りて白花は振り返った。やはり妹は聡明な子供だ。その顔には満面の笑みが広がっていた。

「ほらお兄ちゃん! 早く!」

「はいはい。じゃあ行こうか、氷波」

「そうだね」

 色葉と氷波も庭に降りた。顔を見合わせて微笑みあう。

「あー……ごちそうさまです」

 その様子を見た白花が、苦い顔をしながら目を閉じる。意味が分かっていない色葉は、その言葉の意味をなんとなく考えながら、屋敷の門へと向かった。

 氷波は頬をほんの僅かに赤らめながら、白花の顔を見やった。

「白花さん、変な事言わないで下さい」

「そーだ、氷波さん……氷波ちゃん、もう敬語はやめよ。私達、友達だよ?」

 その元気な笑みに、氷波は一瞬逡巡をあらわにした。しかし、すぐに微笑を戻してしっかりと頷いた。

「そうです……そうだね、よし、色葉に置いてかれちゃうよ」

 すでに彼の姿は門に差し掛かっている。

「ちょっとお兄ちゃん、勝手に行かないでよ!」

 駆け出した白花の背を、氷波は微かな喜色を浮かべながら見つめた。

「……友達って…………嬉しい、かも……」

 その呟きは、果たして白花に届いただろうか。何かから決別するように小さく首を振って、氷波も白花の背中を追いかけた。

 

 

 

「あの〜、赤松様? 色葉、屋敷から出て行きましたけど〜?」

 道風は、隣に座る赤松の顔を見上げた。

「ふぉっふぉっ、心配するでない。今回はやりたいようにやらせればよかろう」

「……それは分かりましたが〜……なんで隠れて付いていくんですか〜?」

 道風と赤松は、塀の陰から温かく色葉達を見守っている。ように見えるのは実は気のせいだ。二人とも目が輝いている。

「お前さんは〜、所用がある事になっておるからのう〜」

「真似しないで下さい〜!」

 呆れたような道風の声に、赤松は豪快に笑った。

 さて、この二人の目的はいかに。

 

 

 

 旧山村領の山中。

「……ねえ、このあからさまな標識はなに?」

 腰に両手を当てる白花の視線の先には、でかでかと「硫黄はこちら」と書かれたふざけた標識が立てられていた。そんな木の板を見て、色葉は真面目な顔で白花を顧みる。

「こんな標識あったの?」

「無いよ! っていうか、もう少し書き方とかあったでしょ!」

 なんで白花は怒っているのだろう。色葉は声を荒げる白花から一歩遠のいた。

「……ま、まあ、もしかしたら最近できたのかも」

 氷波が背後から気遣うような声を上げた。

「怪しい……」

 いまだ唸る白花を、氷波は無理やりにその標識が指す方へ押しやった。その時。

「……?」

 色葉ははっと背後を振り返った。今、誰かがこっちを見ていたような──

「色葉も早く行くよ!」

「……うん、分かった」

 首を傾げながらも、色葉はさらに山道を登っていく事にした。

 

 

 

「あの〜、色葉に感づかれましたけど〜」

 木々の陰から、道風は色葉達の様子を窺う。

「しっかりせんか。お前さんは所用が……」

「さっきも聞きました〜」

 でも、と道風は言葉を続ける。

「何だか嫌な予感がします」

「ふむ。ならば気をつけるとしようかのう」

 だが赤松は、道風の不安そうな顔ににやりと笑っただけだった。

 

 

 

「ここ、廃坑になっちゃったんだ」

 三人の目の前には、大きな洞窟が口を開いていた。どうやら、これが昔行ったという坑道らしい。だがそこからは、全くそんな面影を感じる事ができなかった。暗いその大穴は、戦の時とは違う恐怖を感じさせる。

「とにかく入ろう?」

 氷波が色葉と白花を先導して、その隧道の中に入ろうとした。待って、とその肩を色葉は掴んだ。

「何か嫌な予感がする」

 その暗闇がもたらす恐怖だけではない。何か別の、予感がする。

 底なしの闇を食い入るように見つめる色葉に、白花はその瞳を見た。

「……お兄ちゃん?」

「大丈夫だよ、色葉。この三人が一緒なら、心配は要らない」

 微笑みながら顔を覗き込む氷波に、色葉は笑った。

「氷波にそう言われたら、行かない訳にはいかないね」

 そう言って、色葉は背中の刀を抜いた。何の気負いも無く振り返る。

「氷波も白花も、絶対に俺が守る」

「……お兄ちゃん、その顔でかっこいい事言っても…………んー、やっぱ何でもない」

 首を傾げる色葉は、何の事か分かっていないようだ。白花は隣に立つ氷波の耳に口を寄せる。

「……私、あれをかっこいいって思えないんだけど……」

「……大丈夫、きっと将来は……」

 話は聞こえているものの、何の事かやはり分からない色葉はその可憐な顔を曇らせた。

「早く行くよ?」

 色葉は振り返った。廃坑を前に、そっと刀を握りこむ。

 この嫌な予感の正体はいったいなんだろう。しかし、今はこの二人を守る事だけを考えなければ。

(特にこの二人には、最後まで生きていてもらわないと)

 

 

 

 廃坑の中は、かなりじめじめしていて少し肌寒かった。

 中に入ってまず不思議に思ったのは、その荒れようだった。並大抵の理由で廃坑になったのではないらしく、辺りには木片や金属片が散乱していた。

 唯一坑道の名残が残る天井からは松明が吊り下げられていて、それらは火を点ければまだ使えそうだった。

〈火よ集え、ファイヤーボール〉

 白花は火属性の下位魔法で、次々にそれらに点火していった。たちまち廃坑内は、心許ないが多少の明るさに包まれる。

「ここ、何でこんなに荒れてるの?」

 地面に転がるつるはしの残骸に蹴躓きながら、白花は文句を垂れた。

「廃坑になって、そんなに経ってる訳じゃなさそうだけど」

「その理由が問題だと思うよ」

 何かを知っているような氷波に、色葉は視線を向けた。歩みを止めずに、氷波は言葉を続ける。

「……ここは、魔物の発生で廃坑になったらしいから」

「魔物……?」

 白花が怪訝そうな声をあげた。

「魔物って、こんな場所にも出るの?」

「まあ、マナがあるところには必ずいるからね」

 マナはこの世界の万物を生成している。つまり、魔物はいつどこに現れても不思議ではないのだ。

「これは……」

 歩きながら目を閉じた色葉は、何かに気づいたように小さく呟いた。

「どうしたの?」

「気配が、読めない」

 色葉の声音は平常だったが、その表情は少し硬かった。彼の言葉を聞いて白花も息を呑む。

「……ほんとだ」

 気配が読めないと、急に魔物が襲ってきても対処ができない。それに、若干だが魔法の制度も落ちる。魔導師にとっては、状況は決して良くない。

「嫌な予感はこれだったのか」

 自分達の魔力が何かに邪魔されている。だが、それが何なのかは皆目見当がつかなかった。

「周りに集中するしかないね」

 深刻な雰囲気が伝染し、三人はそれ以来口を閉じた。

 黙々と歩いた。

 入り口からかなり奥に進み、徐々に道幅が狭くなってきた頃、色葉は呟くように言った。

「……何か見えてきた」

 目を凝らすと、遠くに灯りが見えた。

「もしかして、あそこが一番奥かな」

「原因があるとしたら、普通そこだよね」

 この坑道を廃坑にまで追いやった何かが、あそこにいるかもしれない。そう思うと、背中を薄ら寒いものが走った。

(大丈夫。何が相手だろうと、絶対に負けない)

 そう自分に言い聞かせて、もう一度左手の感触を確かめる。その小さな手に握られているのは、大きな大きな日本刀。身の丈に合うどころか、一般的にこの大きさの刀は戦闘に使用しない。それでも色葉がこの刀を使い続けるのには、一つの理由があった。

 それは誰にもまだ言っていない、秘密だ。

「あれ? でも、何もないよ?」

 全容が見えてきた。どうやら最奥は大きな広場のようになっているらしい。白花の言うとおり、そこには何もいないように思われた。

 広場の入り口が近づく。

 一歩一歩足を踏み出す度に、重圧のようなものが背中にのしかかってくる。

 やがて色葉達は、その広場に足を踏み入れた。

「…………やっぱり、何もないね」

 三人はほっと胸を撫で下ろす。白花は緊張から解放されて、乾いた苦笑いを浮かべた。

「あっ、あれって、硫黄じゃない?」

 氷波は、広場の奥に黄色い輝きを見つけた。鼻を突くような異臭に顔を覆いながらも、小さな硫黄に駆け寄る。

 その時。

「──危ない!」

 寸前で何かに気付いた色葉は、氷波の体を突き飛ばした。自らは横に跳んで転がる。

『キイイィィィィッッ!』

 甲高い音が空気を切り裂いた。瞬間、それまで立っていた場所に何かが激突した。

「な、何っ?」

「白花! 防御魔法!」

 廃坑中につんざくような音が反響する中、色葉は立ち尽くす白花に叫んだ。

「分かった!

〈我が身を守れ、プロテクト!〉

 色葉は氷波を抱きかかえ、両手を掲げる白花に向かって駆け出した。防御魔法が完成する寸前に何とか滑り込む。

『キイィィィッ、キイィィィッ!』

 それは透明な壁に何度も体当たりしながら、その身をよじらせて雄叫びを上げる。

 色葉はその黒い巨体に見覚えがあった。

「こいつ確か……デモンズバットだっけ」

 濡羽ぬれば色の巨躯に、鋭い爪を具えた両翼。それを開けば人間が縦に四、五人はゆうに入る。まさに化け蝙蝠こうもりだ。

 緊張感の無い色葉をよそに、白花は悲鳴を上げた。

「き、気持ち悪いっ!」

 顔をしかめる白花に氷波を託し、色葉は背後に放り投げた刀を拾った。

「……じゃあ、そこで待ってて。俺がなんとかする」

 目を閉じて、色葉は眼前に掲げた刀身を右手でなぞる。

「色葉……?」

「でも、今から見る事は、みんなには内緒にして」

 首を巡らせて背後を顧みる。微笑を浮かべる色葉に二人は頷いた。

「え? どういう事?」

 白花はしっかりと頷いたのに意味を理解していないようだ。それでも、色葉は気にせずに前を向いた。

「そういえば、この刀の銘って知らないね。……まあいいや」

 この無銘の刀は、同じ時間をともに過ごしてきた相棒だ。それが今、ようやくその本領を発揮する時が来た。

 目を細めて、微笑を浮かべる。

「我が魔力を通じ、偉大なるマナをその身に宿せ……魔剣『ひかり』!」

 魔力が渦を巻き、長い髪が風に煽られる。澄んだ心地よい音が鳴り始める。

 そして、色葉の刀は白い輝きを纏った。

「魔剣っ?」

「あれが……」

 色葉は、魔剣『光』を大きく振るった。白い軌跡が弧を描き、細やかな粒子が宙を舞う。

「光って言っても、正確には雷なんだけど」

 そう笑って、色葉は化け蝙蝠を見据えた。デモンズバットは、魔物の中でも比較的強い部類に入る。それでも倒せない相手ではない。

 この魔剣を扱うのが、自分だから。

『キイイィィィィィッッ!』

「……うるさい」

 低く呟いた色葉は大きく息を吐く。そして空中に浮く魔物を睨みながら防御壁へと近寄った。その背を心配そうな面持ちで見つめる氷波は、色葉に向かって叫んだ。

「色葉! 怪我しないで!」

 背中に受けた声に、色葉は手を上げて応じる。

(怪我しないで、か……こいつが相手だと、微妙だ)

 その巨体を見上げる。まるで威嚇でもするかのように、化け蝙蝠は体を大きく震わせた。

 薄い笑みを浮かべ、色葉は地面を蹴った。

 白花の防御壁をすり抜けて敵の真下に躍り出る。その巨体が作り出す影に入り身を隠す。

「だぁぁぁっ!」

 まずは一撃。大きく振り上げた刀は、敵の左足に命中した。赤い液体──おそらく血だ──が吹き出し、魔物特有の異臭を撒き散らす。

「もう一度!」

 間髪を置かずに次の動作に移る。敵が地面に着地した瞬間、こちらを向いた胴体を薙ぎ払う。

(硬っ?)

 だが刃は表面の薄い体毛を掠めただけで、致命的な攻撃には至らない。

 化け蝙蝠は攻撃を受けた事に苛立ったのか、左翼を大きく広げ──

「……ぐっ!」

 ──たと思った瞬間、驚くべき速さで回転してそれを色葉の体に打ち付けた。勢いのまま飛ばされた色葉は、高く宙を舞い広場の壁に激突する。息が詰まり全身に鈍い痛みが走った。

「さすがに、きつい……っ!」

 呻きながらも、敵の追撃を予測し壁を蹴る。

 地面を転がる最中に、穴の穿うがたれた壁に体当たりするデモンズバットの姿が見えた。その攻撃を外した事で化け蝙蝠はさらに興奮する。眼を怒りに燃やしながら、再び巨体をぶつけようとこちらを向いた。

(速すぎるだろっ……?)

 広大な広場を全力で駆けながら、巨大な両翼が捲き起こす旋風を掻い潜る。

「色葉! 上!」

「うわっ!」

 砂塵とともに巨躯が突撃してくる。間一髪でそれを避け、叫んでくれた氷波を一瞥した。

 その彼女は天井を指差していた。

(……上?)

 色葉は天井を見上げた。次いでにやりと笑う。

「ありがとう、氷波!」

 怒れる蝙蝠から距離を取り、壁に向かって走る。しっかりとその視線を引き付けて。

『ギイィィィィッッ!』

 甲高い絶叫に雑音が混じり始めた。散々の攻撃で疲労が出てきたのだろう。やはり今しかない。

 全速力で走りながら背後を顧みる。蝙蝠は真っ直ぐにこちらを見て、最後の突撃を決行しようとしていた。

「さあ来い!」

 そして、デモンズバットは地面を抉った。色葉の体を押しつぶさんと飛び掛る。その少年の姿が影に隠れた、その瞬間。

 轟音が広場を、坑道を震わせた。

「お兄ちゃんっ?」

「色葉!」

 少年の姿が消えた。デモンズバットは壁に激突しその動きを止めている。つまり──

「嘘、うそっ!」

 防御魔法を取り消し、白花は黒い巨体に駆け寄ろうとした。

「駄目! 白花ちゃん下がって!」

「でもお兄ちゃんがっ!」

 その時、二人の耳に頭上から声が届いた。

「──氷波の言うとおりだよ」

 次の瞬間、デモンズバットは無数の光となって霧散した。その頭の部分に刺さっていた何かが、乾いた音を立てて落下する。

 広場は静まり返った。

「おにい、ちゃん?」

 声が聞こえた天井を見上げると、吊り下げられた松明にぶら下がった色葉の姿が見えた。

「……ここ、意外と怖い」

 引き攣った笑みを浮かべながら、色葉はとんと地面に着地した。その彼が見たのは、涙を湛える妹の瞳。

「ば、ばかぁ──っ!」

 

 

 

「…………これは、……に報告しなければ……」

 岩陰から一部始終を見ていた赤松は、白花の怒号が聞こえてきた頃、ぼそりと呟いた。

「どうかしましたか〜?」

「ん? いやな、魔物は倒したと採掘の者らに報告しなければと思ってのう」

「なるほど、そうですか〜」

 帰るぞと身を翻した赤松を、道風は微笑を浮かべながら無感情な瞳で見つめた。

 

 今の言葉、嘘だ。


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