0. かつて語られた愛の話
──神様なんて、ろくなものじゃない。
今までぼんやりとした形でしか感じ取れていなかった想いは、そんな言葉として浮かび上がった。その思考を正確に読み取った彼女は、軽やかな笑い声を上げる。
「まあ、失礼な。人間が私たちに勝手に期待して、勝手に失望しているだけでしょう?」
笑う──嗤う、真っ白な少女。その肌も髪も、身に纏う衣服でさえも雪のように白い彼女。しかし、その姿の中でただ一点。両眼があるはずの場所も含めた顔の上半分を覆って咲き誇る、深紅の花々だけが異彩を放っていた。
「善も悪も、人間のもの。私たちには理解できないし、その必要もない。何度も教えてあげたはずなのに、人間はいつだって忘れてしまう」
可哀想ね、と彼女は微笑む。完璧な形で弧を描くその口元は美しいが、刃によく似た酷薄さも帯びている。
両手をひらりと後ろに回して組み、緩やかに身を翻す彼女の動きに合わせて花弁が舞った。辺り一面、見渡す限りを埋め尽くすのは、彼女の顔を彩る深紅と同じ。その鮮烈な花園の上にはしかし、あるはずの空がなかった。広がるのは、ただ果てのない──純白の虚無。
いつか見た悪夢のような、誰かが描いた幻想のような。この世のものとは思えない色彩の中を、純白の少女が踊るように歩いて行く。
「貴方が何処へ行きたいのか。何をしたいのか。何を望み、どのように生き、その根源となる心とは如何なるものなのか──私にはわからない。知ることはできても、理解することは決してない。
貴方の中に今、どんな言葉が浮かべられているかを読み取ることは容易いけれど。どうして『そんな風に』なるのかわからなくて、不思議なの。奇妙で、度し難くて……たまらなく惹かれるの」
だからね、と。彼女は振り返り、まるで彼を抱きしめようとするかのように、その両手を差し伸べた。
「世界が貴方を憎んでも。貴方が私を呪っても。──私はきっと、貴方を愛してしまうのでしょう」




