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プロローグ

去年(2019年)の夏以来の投稿となります。

前作では様々な人に支えられて最後まで書ききれることが叶い、幸甚の至りでした。


その節は大変お世話になりました。


 円は俺がこの世で最も愛する図形だ。


 円には人類の様々な叡智が籠められているし。

 円には世界の真理が隠されている――――ッッッ!!


 円柱状をした舞台に思慮を重ねていると、人々の殺気だった大歓声が飛び込んでくる。


「決まったッ――――!! これで本日の決勝カードは闘技場ではもうお馴染みのスーパースター、ヴィランと!! 後、よ……よも? 何だこれ読めないな」


 ヨモギダ、だろ。

 せめて剣闘士の名前ぐらい訳なく読んで欲しいものだ。


 あの司会者はろくな教育を受けてないのがたった今判明した所で。

 日本から異世界ギオスに俺がやって来た顛末を語ろう。


 ◇


蓬田(よもぎだ)、蓬田さん」

「……何?」

 妙齢の女性が俺の名を二度呼ぶ。


 最近特にオナニーに使っているAVが熟女物であれば。

 俺を呼ぶこの人に、恋愛感情を覚えるのが普通なのだろうか?


「お受験のお具合はどうでございますでしょうか?」

「……割と駄目っぽい」

「蓬田、お前後で校舎裏来いや。お母様からちょっとお話がおありですよ」


 と、俺の母は芝居掛かった頭が残念そうな敬語調で一階の居間へと呼び出す。


 姓は蓬田、名は塔矢、この世に生を授かった時から嫌いなものがあった。

 それは――勉強だ。


「蓬田さん!! どうしてお前はそうなの! 地頭はいいのに、一切勉強しないで受験会場に行ったら、そら当然全滅でしょ」


 家は片田舎に存在する普通の一軒家で、今日は盛大に怒声が飛び交っている。


「……いや、俺勉強アレルギーだし」

「ちなみに母さんは男性アレルギーよ」

「よく父さんと結婚できたな」

「だって、父さんのアレ、凄い可愛いのお前だって知ってるでしょ」


 止めろよ、いくら殿方のアレが常時皮被っていたって皮肉るのは。

 それが実の父親であれば、遺伝的に俺のアレも心配になるじゃないか。


「ふぅ……浪人するの?」

「しない」

「じゃあどうするの? 今どき大学の一つぐらい出ないで」

「一方的に古い価値観を押し付けないで欲しい」


 今の時代、大学を出なくとも、生きていけると言えば生きられる。


「じゃあ、ってどこ行くの」

「外に行って気分転換して来る……大学に落ちて、少し憂鬱なんだ」


 出来れば、一流大学とはいかずも、二流三流ぐらいの大学には受かりたかった。


「……蓬田さん、外は寒いんだからせめてダウンを着て行ったら?」

「そんなに長く出ないし、ほんの気分転換のつもりだから」


 この時のことを、よく覚えている。

 何せこれが自分の最期だったんだ。


 気分転換のつもりで片田舎のあぜ道を散歩している最中、俺は暴走してきた一台のトラックに撥ねられ、体が中空を舞った。空に点在する冬の星座と、地面に散乱している砂利が交互に視界に入って、気持ち悪かった。


 中空に意識を残したまま、俺は呆気なくこの世を去る。


 これが受験戦争に敗れたものの末路だと言うのなら。

 母さんが言うように、真面目に勉強しておけばよかった。






 現世での意識が途切れると、光に包まれていた。


 淡い虹が、視界の中央から環状に広がり、俺は光の中に埋没している。


 ……美しい光だ。


 神々しい絶景に感嘆して、言葉が出ない。

 何度でも言うが、本当に美しい光だ。


「美しい輝きだな、お前の魂魄は」


 頭上からか、それとも足元から声が湧き上がる。


「ヨモギダ・トウヤよ、今からお前を転生させる」


 ……転生か。

 なら、今俺と喋っているのは神なのか?


 声音から察するに、これは女のものだろう。

 とすると、女神?


 女神の声色は疲労感に満ちているようだった。


「しかし残念、転生後のお前の役職は奴隷と定められている。勉強をサボった天罰でも下ったんじゃないか? だが不幸中の幸いだったな、ヨモギダ・トウヤ。奴隷となったお前を使役する主を決めさせてやろうじゃないか」


 光の先から聴こえる声は、奴隷主を決めろと急き立たせる。

 何も考えられなくなった。


 決して嫌いじゃなかった両親との死別やら。


 愛猫を残してこの世を去ることやら。


 何より、次の未来は奴隷だという現実に。


「……転生先の世界の名前はギオスと呼ばれている。緑が豊かで、人種差別が比較的なく、様々な種族が往来を行き交っているのが特徴だ。文明レベルはお前の故郷である地球の比ではない、何せギオスでは主に魔法文化が主流だからな。素晴らしいだろ、剣と魔法の国は」


 でも奴隷なんだろ?

 奴隷って……例えばどんなことをするのだろうか。


「せいぜい奴隷にしか出場できない拳闘大会に送り出されることぐらいだよ。御託はいいからさっさと主を決めてくれないかヨモギダ」


 女神が言い放つ俺の名は、剣と魔法の国に似つかわしくないように思えた。


 ◇


「さぁ――! 待ちに待った決勝カード! 今回もヴィランの圧倒的勝利で終わるのでしょうか……しかしヨモギダ選手も中々の気鋭に満ちているような、なんとも腑抜けた表情しているがここまで勝ち残った実力は本物と言わざるを得ない」


「さっさと始めろ」


「あ、失礼。ヴィランから催促されたので決勝戦! いざ尋常に始め!」


 やはりあの司会役、ろくな教養を受けてないな。例え相手がこの闘技場で百戦錬磨を武勲にしている奴だろうと、口八丁が仕事の司会役が言い負かされるのは頂けないな――ッ!


 日本円にして三百万円が懸かった決勝戦の試合は一瞬にして終わる。


「オアアアアアアアアアアアアア!!」

「煩いぞ司会、いいからカウント取ってくれよ」


「あ、はい、では10! 9! 8! 7……え? どうやらヨモギダ選手は戦意喪失! よって、今回の拳闘大会も! ヴィランの手堅い優勝で幕引きだあ!」


 俺の予備動作なしの裏拳を食らったヨモギダは、会場の端に吹っ飛ばされ、満足に言葉を発せなくなり試合はそのまま終わる。にしても、転生前の俺と同姓とは、誰かが図ったかのような偶然だったな。


 決闘大会が終わった後は、闘技場の迎賓(げいひん)室に通される。


 深い赤茶色を基調とした内装の部屋は酷い静けさに包まれていた。


「今回も、楽勝だったろ?」

 

 短髪の麗しい銀毛を携えた女は偉そうな口調でそう言う。

 瞳の色は紅く、左目には髑髏の刺繍が入った黒い眼帯を付けていた。


 Yシャツに、高級感あふれる銀色のベストと合わせたズボンは、金満家の彼女にとてもよく似合っていた。闘技場の迎賓室に仕立てられた彼女専用の洋椅子で片足を組み、優美に紅茶を口に運ぶ作法は実に凛々しい。


「……」

「おいおい、お前の主が気を利かせて語り掛けてるんだ、泣いて喜べよ」

「命令か?」

「自分の奴隷でも、一度の命令に付き金貨一枚とは、世も末だな」


 それでも。と彼女は言葉を続け、椅子から立ち上がって。


「誰に向かってそんな生意気な口を利いてる」

「……申し訳ありません」


 俺のけい動脈にナイフをあてがい、命をかさに脅してきた。


 異世界ギオスで奴隷になったものは総じて主に生殺与奪権がゆだねられ。

 社会的ヒエラルキーが底辺の奴隷は、皆、臆病風に吹かれている。


 いたく惨めだ。


「今回の相手は本当に雑魚ばかりで助かったな、ヨモギダ」

「主よ、今の俺はヨモギダではなく、ヴィランです」


 俺の主は威厳に満ちた、美しい人で。

 世界でも有数の存在で。


「……まぁ、お前が強い理由は、私が神だからなんだけどな」


 そして彼女は、俺をこの世界に遣わした女神その人だ。



追伸、本日からプロローグを公開しますが。


前回の轍を踏まえ、少しでも多くの読者様のお目に掛かるために。

本日中に第一章『開幕編』を全て掲載するつもりでいます!

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