舞踏会へ
今から説明するのは異世界ギオスにおける奴隷のルールだ。
1つ、奴隷への命令にはギオス金貨一枚の代価が伴う。
1つ、奴隷はその身分を主が死ぬまで覆すことはできない。
1つ、奴隷はいかなることがあろうとも、主に危害を加えられない。
1つ、奴隷の生殺与奪は主以外にできない。
細かい部分はあまり把握してないので省くが、以上が奴隷の大原則だ。
ギオス金貨は日本円で十万円ほどの価値があると聞かされた。
今回の決闘大会への出場も、女神である我が主の命令で動いている。
彼女には優勝賞金として金貨三十枚。
俺には今回の命令の代価として金貨一枚が、それぞれ支払われる。
なぜ俺達奴隷が決闘大会に出場するのかと言われれば、死なないからだよ。
俺達奴隷の命は異世界ギオスの盟約により守られている。
だから奴隷は戦争の道具にされるし、皆奴隷を欲したがる。
主の奴隷になってからの生活は、決闘大会で優勝することの一辺倒。
彼女は戦争の道具として俺を鍛え上げた。
「優勝おめでとう、この金で豪遊でもすればいい」
「ありがとう御座います主」
主は胸元から一枚の金貨を俺に寄越した。
これで一ヶ月分の生活費は稼げたとして。
俺は、見目麗しい彼女に――っ、っ。
すると迎賓室の扉がノックされ、女神である主は姿を消してしまった。
「どうぞ」
「失礼します、いやー、今回も圧巻の試合運びでしたなヴィラン殿」
「お褒めの言葉に預かり、これ以上ない光栄ですレオナルド様」
レオナルドは闘技場の支配人で、私腹と脂肪を肥やした人物だ。
着るものも、つけるものも華美な品々で、度が過ぎている。
「所で、ヴィラン殿の主はまた姿を隠しておいでかな?」
「申し訳ない、主は俺以外を信用してないみたいで」
「噂に違わぬ人間嫌いなんでしょうな、まぁ構いません」
レオナルドがパンパンと手を打つと、奥手からシェリーがやって来た。
彼女はレオナルドの奴隷の一人で、いつも不満顔でいる。
貴金属を好むレオナルドの趣味嗜好を汲むに、酷な使い方されてるんだろうな。
「ヴィラン様、今回の優勝賞金の金貨三十枚です、お受け取り下さい」
「ありがとう御座います」
「出来れば、金貨三十枚きっちりと入っているか、中を確かめて欲しいのですが」
と言われ、革袋の中身を確かめる。
中には金貨と一緒にとある封筒が入っていた。
「開けてみてくだされ、それはきっとヴィラン殿にとっていいものでしょう」
「今度は一体何を企んでいるのですかレオナルド様」
封筒の中を読んで欲しいとレオナルドはしたり顔で催促する。
このおっさん、趣味は悪いが、案外人柄は良いんだよな。
【舞踏会招待状】
封筒の中には封蝋がほどこされた招待状と、一通の手紙が入っていた。
『剛猛な拳闘士、ヴィラン殿。お初目に掛かる、私はリッツ領で領主を務めるリチャード三世だ。貴殿の決闘大会を幾度か観客席から拝見させて頂いたが、素晴らしいの一言に尽きる。貴殿の猛々しく精悍な面構え、鍛え抜かれた体躯、研ぎ澄まされた練達の戦い振りに、私は惚れ込んだ。であるからして、私が主催する舞踏会に貴殿をお招きしたい』
「……舞踏会ですか?」
「然様、ヴィラン殿は以前私に仰ったではありませんか――舞踏会にお誘いしたい本命がいると」
以前、決闘大会を瞬殺した際にレオナルドは俺に訊いたのだ。
ヴィラン殿はどんな女性が好みなのか、と。
異世界ギオスに転生して、色男の風貌になったのはいいけど。
俺は童貞、正真正銘の童貞だ。
気持ちとしては、見初める相手は自分の目で見つけたい。
だから彼の厚意には悪いが、やんわりと断るためそう言ってしまったのだ。
「レオナルド様、舞踏会へのお招きは非常に嬉しいのですが」
「なにかご不満がおありですかな? リッツ領の領主と私は知己なのです」
レオナルドは控えさせていたシェリーに葡萄酒を持ってこさせ、喉を潤しては。
「ヴィラン殿、いくら貴方が優れた剣闘士であっても、奴隷は奴隷。今回の舞踏会の招待状は私がリチャード三世に直に頼み込んでやっとこぎつけた、またとない機会なのです。貴方が舞踏会に参列しなければ私の名前に泥が付いてしまう」
「……それはご命令でしょうか?」
「えぇ、ヴィラン殿が望むだけ金貨を支払いましょう」
奴隷の原則を活用するよう、レオナルドは俺に命令を言い渡した。
主以外の存在から命令を受けても、なんら効果はないが。
レオナルドは舞踏会に出向く対価として金貨百枚支払うと言う。
転生前のことを考えると、貯金は極力持っておいた方がいいのは明白だった。
◇
して、レオナルド一行に交じってリッツ領の領主が所持する豪邸へとやって来た。
道中、シェリー含むレオナルドの奴隷馬車に乗っていたのだが。
レオナルドの奴隷はみんな陰気な性格で、旅の途中全く喋らなかった。
これほど退屈だった旅路もないぐらいだ。
「さ、皆着いたぞ。降りて荷物を邸宅に運び込め」
「「「畏まりました」」」
およそ二十人の奴隷がレオナルドの命令に応じる。
と言うことは今の命令で金貨二十枚発生するのか。
「レオナルド様の金回りは相変わらず良さそうですね」
「私の取り得と言ったら、それくらいしかありませんからな」
快活な笑みを浮かべたレオナルドからは、『豪気』という言葉を想起した。
邸宅前の庭は芝生に覆われ、白い机と椅子のセットが円形に置かれている。
空を見やると、東の方角には酷い暗雲が立ち込めていて。
まるで、舞踏会に危険が迫っている兆候を、示しているようだった。
空訳あーわーぁ~。
Bang Bang! BAN BAN Bang!
これは余談ですが、三人の歌姫が共演した『Bang Bang』ですが、僕の耳には。
「撃て撃て! BANをBANを撃ち抜け!」
みたいな垢BANへの強い犯行声明のように聞こえなくもな(略
空訳あーわーぁ~。




