猿のいかり。
またまた、猿の話題を書く。
この動物園はやたらと猿が好きなようで、猿エリアはいくつか存在する。
またしても、そのエリアに差し掛かる。
日本猿のように、毛がむくむくした可愛いやつがいる。
だが、顔やお尻が赤くなく、むしろ黒っぽい。
うろうろしているが、行動がなんだか全体的に控え味で、おとなしい。
僕たちと彼らを遮る、アクリル板の手前まで来ると、ちょこんと座った。
両手を前にして、モジモジしているような動きをし、更におとなしさが際立つ。
こちらを時々チラチラと伺う眼は常に泳いでいる。
結構、気が小さい種類の猿なのであろうか。
せっかく、目の前に来てくれたのだから、こいつと一緒に写真を撮りたいなと、アクリル板のそばに近寄って、そいつの隣に立つような感じで、写真に収まろうとした。
その時、突如、背後からドンッ鈍い音が響いた。
一瞬、どこからその音がしたか気付かずに、背後を振り向くのが遅れた。
振り返ってみるとさっきまでモジモジしていた猿が、鬼のような形相でこちらを威嚇しながら、アクリル板にぶつかっているではないか。
両腕を真っ直ぐのばし、板を叩いたのだ。
突然のその変わり様に驚いてしまった。
だが、次の瞬間には、また最初の大人しい姿にシュンと戻った。
また、いつ怒るかと観察していたが、その気配は無かった。
眼は泳いでいて、こちらをたまに覗き見ているだけである。
どうやら、日々、かなりのストレスを抱えているようだ。
普通に考えて毎日知らないやつらに好奇の目で見られ、なんのストレスも無いハズがない。
なんとなく、自分の息子が突然キレてしまったような気持ちになった。
まだ、結婚もしておらず、子どももいないのだが、もし仮に自分に息子がいるとしたら、こんな感じの場面に出くわすのではと思った。
あまり、自己主張をせず、大人しいが、突如キレて一瞬食って掛かってくる。
だが、それは虚勢に過ぎず、その眼の奥には恐怖や悲しみが宿っている。
なんだか、いたたまれない気持ちになった。
その猿は、すっと、ぼくらの前を離れ、人目につきにくい、茂みの方へと去っていった。




