第1回 武将好き同士の邂逅
高校生活がスタートし、今日は一人一人の自己紹介の日である。周りは見知らぬ人ばかりで緊張するものだが、その少年だけは違っていた。
少年――汐崎 龍星は窓際の列、一番後ろの席で頬杖をつきながら外を眺めていた。元々、他人と関わることを好まず、一人でいることがほとんどなため、自分の自己紹介も簡潔に済ませ、その後の内容は右から左であった。
男子が終わり女子になったようで、いくらかトーンが高めの声が聞こえてきた。それでも特に気にも止めず、以前として聞き流している。
突如として一部の男子生徒から、「ひゅ~」という、ちょっとした口笛のような声がした。一瞬で水を打ったように教室内が静かになる。
一瞬、そちらを向くと黒の長い髪を自然に垂れ流した少女が立っていた。しかし、その髪が妙に神秘性を醸し出しており、同年代とは思えないほどの貫禄を備えている。
「北海道から転校して参りました、皇 涼夏と申します。皆様、どうぞ一年間よろしくお願い致します」
涼夏は深々と頭を下げる。まるで嫁ぎ先の両親に挨拶するかのようなその上品さに、ますます男子生徒の期待が高まったようだった。一方、龍星はというとさしたる興味も示さず、逆に奇妙な言葉遣いと、意味不明な仕草に面食らってしまった。
しかし、この少女の出現によって、龍星の今後は大きく変わるのである。
入学して一週間後。人気のない教室で龍星は椅子に座って読書に励んでいた。ここは彼が所属している歴史研究会の部室である。部員が今年、卒業した三年生だけだったので、現在は龍星一人の活動である。
龍星が読んでいる本は古本屋で購入した、「戦国武将おもしろ百科」というものである。彼は父が大学で史学科の教授をしているため、幼少時からこのような歴史に関する書籍を絵本代わりに読んできた生活を続けていた。そのため、こうして歴史の、それも戦国期のファンになったのである。また、パソコンでよくプレイしている、戦国時代を舞台にしたシミュレーションゲームもまた、龍星が戦国時代のファンになる大きな要因の一つであった。
「竹中 半兵衛か……、本当すごい奴だよなあ……」
本を手にしたまま、しみじみといった感じに独りごちた。あの有名な豊臣 秀吉に天下を取らせたとして知られる天才軍師の竹中 半兵衛。龍星の憧れの存在でもあった。




