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からくり屋敷の悪夢  作者: 鳳仙花
第一章・キラートラップ
9/22

人形からくり劇

まず俺たちは屋敷の玄関ホールを見渡した。

如何にも絵本の世界とかに出てきそうな古風な造りだ。

見開いた空間で見上げれば屋上までの天井が見えて、他の通路へ続くであろう複数の扉。

ホール中央は特に家具らしい家具はないが、申し訳程度に造花や額絵が飾ってあるぐらいだ。

本当にただ広いだけの空間だ。

そして俺は壁にかけられていた時計を見てみる。

時計の針は秒針も含めて綺麗に9時をぴったし差して止まっていた。

今の時間とも合ってないし、完全に動いてないから壊れているのだろう。

だとしたら常用されている屋敷ではないのか。


後ろからガチャっと重く動く金属音が聞こえた。

翔さんが玄関扉を閉めたのだ。

俺は振り返って翔さんにどうするか訊いてみる。


「翔さん、どうしますか?」


「そうだね。バラバラで探して何か事故があったら困るし、まずは団体行動で行こうか。この場所がどういうものかも分からないからね。それに何が潜んでるかも分からない」


確かにこの屋敷はどういう目的で建造されたか分からない。

案外元はホテルとしてかもしれないし、個人が別荘としてか住むためにだったかもしれない。

もし後者ならかなりの富豪だな。


俺たちは翔さんの提案を受け入れて、全員がまとまって行動する形で屋敷内を徘徊することにした。

まずは当然、一階からしらみつぶしにだ。

翔さんを先頭に俺たちは歩き出した。

玄関ホールの玄関扉から見て、左手側に扉、中央前方に扉、右手側に扉の玄関を除いて三つの扉がある。

結局は全部は繋がっている構造だろう。

だからどの扉から入っても大差はない。

ただ全室を周る以上は、外側から見ていくのが定石だ。

そのため俺たちは、最初に中央前方の扉を選ぶことは絶対にない。


「あっちの扉から行こうか」


翔さんはそう言って左手側の扉を指さした。

もちろんその提案に誰も異論はない。

みんなで歩幅を合わせて歩いて、左手側の扉を先頭の翔さんが開けた。

扉の先は長い通路だ。


真っ赤な長い絨毯が敷かれていて、壁側にランプがいくつも据え付けられている。

そして、そのランプの上には手の平サイズにも満たない小さなぬいぐるみがいくつも置くように飾ってあった。

よく見れば全てのランプの上にだ。

そのぬいぐるみは洋服を着たリスや鳥、兎といった如何にもメルヘンチックなもので可愛らしさを演出していた。

でもランプが点いてないので廊下は薄暗くて、どんなにメルヘンでポップなぬいぐるみでも薄気味悪く見える。

しかしそう見えるのはあくまで俺の主観で、優羽は目を輝かせていた。


「すっごーい、ここって変わってるね!こんな可愛らしい洋服きた動物のぬいぐるみが飾ってあるなんて!」


優羽は楽しそうに声をあげながら一つのランプに近づいて、ぬいぐるみをよく見ようと手を伸ばした。

その時だった。

ランプが突然点灯して薄暗かった廊下を照らした。

更にランプの上に飾らせれていたぬいぐるみが、何と動き出したのだ。

丁寧に礼をするように頭を垂らしてから、ぎこちなく頭を上げてランプの上で回りだす。

それはまるでぬいぐるみ同士のダンスだった。

ランプという小さなステージの上で舞って、かたかたと音を鳴らしながら愉快に動く。

いくつもあるランプの全てがそうなっているのだから、それはとてもとても不思議な光景だった。


「わ、わっ!なにこれ!すごい!踊ってる!かわいい!」


優羽は無邪気にはしゃいでみせた。

だが俺と翔さんだけは呆気にとられていた。

かわいいというのは分かるが、なぜこのタイミングで動き出したのか疑問だった。

屋敷から入って僅かだけど、俺たちの行動の何かがスイッチを動かすものになっていたのか。

それとも誰かが意図的に作動させたのか。

そして香奈恵と裕太は特に思うことがないのか、物珍しそうにぬいぐるみの舞踏を見ているだけだ。


「ふふっ、なかなか面白い仕掛けね。ここは娯楽施設か何かだったのかしら?」


香奈恵が裕太に対して他愛もない質問をなげかけた。

しかし、もちろん裕太はそうだったと肯定の言葉で答えれるわけもない。


「さぁ、どうだろうな。しかし動いてるという事はまだ使われている屋敷なんかねぇ?内装はまだ綺麗だったけど、てっきり完全な空家かと思ったぜ」


そういえば内装は綺麗だった。

つまりは誰か、管理人に当たる人物がいて業者による清掃が適度に行われているのかもしれない。

だとしたら不法侵入にでもなるのか。

でも、翔さんがすんなり開けたってことは鍵はかかっていなかったんだ。

だから管理者に文句を言われる筋合いは、多分ない。

少なくとも言い訳はできる。


「……みんな、近くの扉から行くよ」


翔さんが俺たちを呼びかけて、近くの扉を開けた。

そのまま先に翔さんが扉の先へ入ってしまうから、俺たちも慌てて追いかけようとする。

しかし、優羽だけはぬいぐるみの踊りをずっと見ていた。

そのことに気づいた俺は優羽に声をかける。


「おい、優羽。置いていくぞ」


優羽は突然自分の世界から帰ってきたように、一瞬間の抜けた顔で俺の方に振り向いてきた。

そのため返事の一声目が素っ頓狂なものだった。


「へ?あ、ごめん!なんだか楽しくなっちゃって!本当にごめんね、煌太のお兄さんを探しに来てるのに夢中になって…」


「何急にしおらしいこと言ってるんだよ。ほら、みんな待ってるぜ」


俺は開いた扉の前で優羽が近づいて来るまで待った。

優羽は恥ずかしそうに照れた顔で駆け足に近づいて、嬉しそうに言ってきた。


「えへへ、待ってくれてありがと!」


「いきなり何だよ。いつもよりおかしいぞ?」


「えー、そうかなぁ?」


優羽があどけなく言って不思議そうな顔をする。

仕方なしに「俺の勘違いかもな」とだけ付けくわて言って、追いかけるように俺と優羽は扉の先に遅れて入っていった。

入った部屋は一見、ホテルのような客室だった。

でも客室と呼ぶには、あまりにも変わっている物が置いてあった。

ベッド、テーブル、椅子、電気スタンド、小型のタンス、クローゼット、そして小型のタンスの上で動く人形たち。

今度の人形はもっと変わった動きをしていた。

大きさは20センチほどで二体あるのだが、片方はカップにお茶を入れる動作をして、そのカップをもう片方の人形に手渡し、受け取った方は飲む仕草をしてカップを返すというものだ。

それも単純ながら、なかなか目が惹かれた。


「なんだろうね。ここは人形屋敷なのかな」


翔さんが首を傾げて、そう呟いていた。

これだけ見たら人形屋敷だと思うしかないほど、からくり人形のような仕組みがされている。

もちろん、実際はどうかわからない。


「……どうでしょうね。それにしても、特に兄への手がかりになりそうなものはないですね」


俺は本来の目的である蒼輝兄貴の捜索について発言した。

なんだか言葉にしないと、ただの観光になりそうだったからだ。


「うーん?もし全部の部屋がこんな感じなら別々で行動した方がいんじゃないかな!」


優羽が人形に目を輝かせながらそう提案してきた。

少し目を離せば、またさっきのようにからくりに夢中になっていそうだ。

そして優羽の考えに翔さんは、はっきりと否定した。


「いや、駄目だ。それだと油断しているだけだ。別々に行動するにしても、少なくとも一階は団体で行動してからにしよう。あとの二階と三階は優羽さんの言う通り別々で…、いいだろうね」


翔さんの考えには同意だ。

俺は全員に目配せしてから賛成した。


「そうしましょう。みんなもそれで異論はないみたいですから」


今更ながらも探索の仕方を決めた後は、全員でこの部屋を細部まで調べ尽くした。

しかし人形以外は他にめぼしい物は何も見当たらなかった。

タンスやクローゼットの中身は空っぽだったし、からくり人形以外に仕掛けがあるわけでは無かった。

これ以上、この部屋には何もないと判断した俺たちは、通路へ出て次の隣の部屋へ向かう。

同じように翔さんを先頭にして隣の部屋へ入ると、今度はさっきとは違って異質な物だった。


「なんだ…、この部屋…?」


翔さんが隣の部屋の中身を見て、そうぼやいた。

続いて俺たちも部屋の中身を覗いたが、翔さんが口走ったのと同じ感想が真っ先に思い浮かんだ。

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