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からくり屋敷の悪夢  作者: 鳳仙花
第二章・狂人
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希望と焦燥

「じゃあ、本当にすぐに戻るから。玄関ホールで待っていてくれ。香奈恵と裕太も戻ってくるはずだから」


俺がそう言ってから行こうとすると、優羽が自分のバックを漁り出して懐中電灯を取り出してきた。


「気を付けてね、煌太…。あとこれ私の秘密兵器の懐中電灯を渡しておくね」


「お、ありがと。優羽と翔さんも気をつけてな」


俺は優羽から小型の懐中電灯を受け取って地下への階段を下りていく。

階段は狭く、俺は転ばないようにと手を壁に添えるように当てながら行くと、通路にでた。

やはり地下は余計な装飾が無くて、弱々しく照らす照明ぐらいしか見当たらなかった。

それでも俺は警戒の意味を込めて懐中電灯を点けて、罠を見落とさないようにと見渡しながら進んでいく。

だが地下はまるで迷路だった。

いくつも分かれ道があっては鉄の扉だらけで、複雑な造りに思える。

もしかしたら地上より広く場所を使っているのではないだろうか。

一度も扉を通っていないにも関わらず、通路はひらすら続いていて迷いそうなほどだ。

それでも俺は歩く足を止めずにコンクリートの通路を進み続ける。


「………ん?」


歩き続けている途中、俺は妙な物音を聞いた。

引きずるような音だ。

ネズミとか小動物が鳴らすような音とは違う。

流れる風による錯覚でもない。

おそらく人だ。

誰かがいて何かしているような、そんな音に俺には聞こえる。

俺は耳を澄ましてその音の方へ近づく。

ほんとにかすかで、わかりづらい。

ほとんど耳より勘を頼りに俺は音の方へと探りながら歩く。

でも、確かに近づけていた。


すすり泣くようであって、荒い息や声。

低い声……、男だ。

聞いたことある男の……声。


「……誰だ?」


俺が歩いていると、訊く前に突然声をかけられた。

暗くて声をかけてきた人物の姿はよく見えない。

俺は慌てて懐中電灯でその人物に光りを当てた。

その人物は男性で、首と両手に短い鎖で巻かれていて、鎖は壁へと繋がって身動きが取れない状態だった。

それに鎖があまりにも短いから壁に貼り付けされているのと変わらない。

そして髪はボサボサで無精髭や泥で顔は汚れきっていて、服も赤や茶色の液体をかけられたようになって元がどのデザインだったか分からない様子だ。


「…まさか煌太、か?ついに幻覚まで見るようになったか…」


鎖で繋がれた男性は弱々しい声でそう言って、乾ききった淡白な笑い声をあげる。

あぁ、姿はまるで別人みたくなっているけどこの声は知っている。

俺は信じられない思いでその男性に近づく。

そしてその男性の顔に光りを当て、俺は呟いた。


「蒼輝兄貴…?」


その言葉に縛られた男性は反応する。


「……本当に煌太なのか?嘘だろ……。なんで…」


「蒼輝兄貴…!生きてたのかよ…!ちくしょうっ!心配させやがって…!大丈夫なのか!?」


縛られた男性は間違いなく蒼輝兄貴だった。

正直、生きてる望みはほとんどなかった。

運良く見つけられても死体だと勝手に思っていた。

なのにまさか生きてるなんて…、夢のようだ。

それも思ったより簡単にみつけることができた。


「ったく、大丈夫に見えるかよ…。もう俺は体中ボロボロだ…。何日もひでぇ目に合わさせられているんだからよ…。いや、何ヶ月なのか。ここにいると時間が分からねぇな……」


「とりあえず鎖を取るぜ、兄貴。……これは、下手に釘を打って鎖を結んでいるだけだな。これなら力任せで…!」


俺は鎖で釘をひっかけて思いっきり引っ張り、まずは釘を抜いた。

そして次に鎖の結び目を外してすぐに蒼輝兄貴を解放させる。

蒼輝兄貴は解放されたと同時に地面に倒れ、その体勢のままゆっくりと落ち着くように呼吸した。


「げほっげほっ…。やっと楽な姿勢になれた……。本当、辛かった…」


愚痴っているあたり、思っていたより元気があるようで俺は安堵する。

体も傷はあるようだったが、深い傷跡はないので一見異常はないようだ。

蒼輝兄貴は壁に寄りかかって座り込み、俺に手渡された飲料水を一気に飲み干していく。

体は細くなっているが、どうやら食事はしていたみたいだ。

拘束されていた事を考えると、かなり酷い食事だったとは思うが。


「それで兄貴、なんでこんな所でこんな目に合ってたんだよ」


蒼輝兄貴は空になったペットボトルを床に置く。

それから立ち上がって俺の方を向いてきた。


「悪いけど、質問は後だ。いつ来るか分からないし、とりあえずはここから離れないとな」


「来る?誰が?」


「……俺をこんな目に合わせた奴だよ」


蒼輝兄貴は疲れた声で言い放つ。

一体どんな奴がこんな事をしたのか。

俺はいち早く聞きたかったが、蒼輝兄貴の言うとおり犯人に鉢合わせるような面倒はごめんだ。

俺と蒼輝兄貴は薄暗く狭い通路を歩き出して、地上である一階へと向かっていく。

でも蒼輝兄貴はどうも体を動かすのにかなりの不自由があるようで、思うように動けている様子ではなかった。

何をされたのか知らないが、何十日もろくに動けずにいたのは間違いないんだ。

いきなりまともに動けるわけがない。

しかも俺は地下の構造や間取りなんて全く把握できていなかった。

だから闇雲に移動している状態で、余計に歩いてしまっている。


「大丈夫か?蒼輝兄貴」


「悪い…。少し辛い。ちょっと、落ち着かせてくれ……、適当にどこかの部屋に入ろう」


「あぁ。わかった」


俺としては、心配しているであろう優羽と早く合流したかったが仕方ない。

近くの鉄扉を開けて俺と蒼輝兄貴は部屋に入る。

入った部屋は沢山の人形やマネキンが無造作に置かれているところだった。

あとは照明としての電球しかなく、人形たちは埃を被っていてまるで物置だ。

扉を閉めて蒼輝兄貴は床に座り込んで、何度か深呼吸をする。

俺は一応確認したが部屋には罠はなく、扉もオートロックではなかった。


「…それで、こんな目に遭った経緯なんだけどさ」


蒼輝兄貴がさっきの話の続きをするように、ひと呼吸つけると喋りだした。

俺は蒼輝兄貴が言う犯人が来ないかと通路の方を気にしながら、話に耳を傾ける。


「俺と他に二人の友達でこの屋敷に来たんだよ。でも、屋敷は施錠されていてな。それで仕方なくせめてと思って屋敷の周りを歩いていたんだ。それからすぐに事は起こったんだ」


蒼輝兄貴は手を頭に当てる。

手に平で目を覆い隠すようにして表情を見せない。

多分、無理に思い出そうとして複雑な心境になっているのだ。


「突然、友達の一人が撃たれた。何が起こったか分からなかった。本当にあまりにも突然で撃たれたとか理解することもできなかったんだ。そしてそのあと、もう一人も撃たれた。……俺は撃たれなかったが、撃たれた友達を運ぶのを強要されたんだよ」


蒼輝兄貴は悲しみに満ちた声を震わす。

小さく荒い息。

すするような鼻息を鳴らして話し続けた。


「そのあとは滅茶苦茶だった…。言葉にできない…、したくないほどのことを友達はされていた。俺は拘束されて……それをただ見せつけられたんだ。目をつぶる直前、一度見てしまったら友達の叫び声で全てが想像できた。目を閉じても見えるんだ、残虐な行為が。やがて声が聞こえなくなって目をあければ、それは想像以上の非道さだったけどよ……」


蒼輝兄貴は顔に当ててた手を避けて顔を伏せた。

その一瞬だけ見えた顔は目が赤くなっていて、目の周りが濡れているように見えた。

錯覚かもしれないが、俺はそのことに関しては追求しない。


「…それで、煌太はどうやってここに来たんだ?俺は特にここに来るって痕跡はなかったと思うが、俺の友達が何か手がかりになる物や情報を置いてあったのか?」


「いや、兄貴の友達に教えてもらったんだよ。本当は兄貴と一緒にここに来る予定だったけど、ドタキャンして来なかったって言ってたかな」


「………は?」


蒼輝兄貴は素っ頓狂な声を出す。

不思議そうにした顔をあげて、驚いた様子だった。

まるで心当たりがないような様子だ。

だから俺も疑問に言葉を返すしかなかった。


「え?翔さんって人は言ってたぜ。蒼輝兄貴とここに来る予定だったって…。それでいきなりキャンセルして…」


「いやいや待て。それはおかしい。俺は元から、俺を含めての三人でここに来るつもりだったんだ。誰もキャンセルとかそんなのあるわけないんだ。それに翔だって?同じような名前を知っているが、誘った記憶はないぞ」


そこで俺は振り返った。

特に考えようとしたわけじゃない。

まるで電気が走ったような妙な刺激が脳内を巡った。


翔…、よくある名前だと本人で言っていた。

そして蒼輝兄貴のアルバム写真にはいなかった。

蒼輝兄貴の話しでは屋敷に鍵がかかっていた、でも俺たちの時はかかっていなかった。

いや、開けたのは翔さんだ。

翔さんが鍵はかかっていなかったと言っていただけだ。

もし鍵が掛かっていたら?

それは……翔さんが鍵を解除したことになる。

玄関を閉めたのも翔さんだ。

それに前日には確認していたと言っていた。

それが確認ではなく、何らかの準備だとしたら…。

でも待て、まだそれだけで怪しいとは言い切れない。


「あ、兄貴……。荷物は?」


「荷物?いきなりなんだ?そんなのとっくに取られたよ。でも荷物は携帯とか財布とか、そんなのしかなかったけど」


「携帯に写真は?たとえば俺が写っていたやつとか」


「……あるな。俺とお前が写った写真のデータが何枚は」


俺は翔さんの顔に見覚えはなかった。

それも全くだ。

でも翔さんは俺の顔を知っていた。

あぁ、まさかまさか…そんな。


「それで俺の名前と顔が一致できるようなことはありえるのか兄貴」


「俺の顔が写っているんだ、一緒に似た顔があるんだから兄弟とは分かるだろうな。それにアドレスとかは家族のは苗字含めてで登録しているし、すぐに一致できるだろ」


……苗字ごと登録。

それなら名前だけ知ったとしても、調べたらきっと俺の顔は割ることが可能だっただろう。

もし、翔さんが……俺に会わずに俺の顔を知ったなら、それは写真でしかありえない。

何が接点が少ない、だ。

本当は全く面識なんてなかったんだ。

でもこれは俺の嫌な予感に過ぎない。

思いすごしかも知れない。

それでも気分が悪くなるほどの胸騒ぎはあった。

俺は携帯電話を取り出した。

地下だが何とかアンテナは一本だ。

あとは優羽の方もアンテナが立っていればいい。

でもどうかければいいんだ?

一応会話で翔に怪しく思わせることはしたくない。

なにか、呼びかければいいんだ。

それなら…。


俺は慌てた手つきで優羽に電話をかけた。

そして何とか電波が届き、繋がってコールが鳴る。

俺は一度コールが鳴ったのを聞けばすぐに電話を切った。

これは今日の朝にもした俺と優羽の特別な連絡方法。

こっちに来い、という意味。

これに優羽が気づけばいいが…。

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