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幼稚園での出来事
幼稚園に通い始めた。
問題は、何もなかった。
——表面上は。
「不思議なんです」
担任の先生が言う。
「石川さんのお子さんが来てから……」
「はい?」
「怪我をする子が、ほとんどいなくなったんです」
「……は?」
環は、泣いている子に寄り添う。
「だいじょうぶ」
それだけで。
泣き止む。
怪我も、なぜか大したことがない。
だが——
環自身は違った。
転べば、普通に怪我をする。
血も出る。
痛みもある。
ある日、博が聞いた。
「なんで他の子は大丈夫なんだ?」
環は、少し考えてから言った。
「……まだ、いいから」
「何が?」
「……順番」
「順番?」
「ううん、ちがう」
そう言って、口をつぐんだ。
幼稚園では、環は特別な存在になっていた。
子どもたちが呼ぶ。
先生も頼る。
まるで、小さな調整役のように。
そして、もう一つ。
誰も気づいていないこと。
——博と亜希だけが、気づき始めていた。
体調が、明らかに良くなっている。
異常なほどに。
「……なあ」
夜、博が言う。
「環が来てからだよな」
「うん……私も思ってた」
偶然か?
それとも——
そのとき。
廊下の向こうで、環の声がした。
「まだ、だいじょうぶ」
誰に向かって言っているのかは——
わからなかった。




