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肆 ミヨに会いたい冥王

 自室に戻ったセダは、座椅子に座ったのち、ふぅと大きな溜息をついた。

目を閉じると、まぶたの裏にぼやけた彼女の姿が浮かび上がる。


「……」


神とのやりとりは疲労を抱かせる。

とくに、人間界で力を使ったことも相まって、いつもより疲れを感じた。

最後の気力で、家来(けらい)に飲み物の準備を指示する。


家来はセダが冥王として冥界に降り立ったときに作った人形だ。

感情はなく、指示しなければ動くことはない。

逆に、セダの指示の通り、正確に動く。


神から桃をもらったが、すぐに食べる気にならない。

桃を置いたまま、寝間着(ねまぎ)に着替える。

もう座椅子に座ってしまっては、立ち上がれない気がするので、そのまま寝台に寝転がり、目を閉じた。


まぶたの裏にぼんやり浮かぶ彼女の姿は、細かいところまで思い出せない。

もう一度みれば、思いだせる気がする。

髪のかかり方や、まばたきの仕草。

欠けた己の記憶を補いたい。

一目で良いから、もう一度彼女に会いたい。


骸骨(がいこつ)の形をした人形が入ってきて、セダの寝台の傍に置いた机にお茶を置いて出て行く。

セダは起き上がってお茶を飲む。

ふと、己の発言を思い出す。


―――ミヨの魂が癒えたら、改めて話をしよう


「何を言っているのか……」


状況の把握に時間がかかりそうなのは、己の方だ。

正確には、状況を受け入れるのに時間が必要だった。


彼女をみたときの感覚は初めてだった。

視線をとらわれる。

思考が止まる。

自分の手の届く範囲にいてほしい。

いつでも会える場所にいてほしい。

それが、何という名前で表現されるのかは知っているつもりだ。


「何故……」


受け入れられない。

でも出会ったことへの後悔ではない。

受け入れられないのは、自分の中身のないプライドのせいだ。

それは気分の悪いものでもあり、良いでもあった。


だが、彼女が神の手元に行ってしまうのが、最も気分が悪いものだった。

あの神だ。

『我のものを(うば)うなど許さない』とか言われそうだ。

こちらだって、神に奪われるのは我慢ならない。


そんな事を考えている間に、自然と冥王の意識は眠りの沼に落ちていった。

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