囚われの身 脅迫⑥
男がマヤの首につけたのは、金属で作られたチョーカーの様なものだった。
(なぜ首飾りなんか……?)
そんなものに何の意味がある。
マヤは男の考えている事が全く理解出来ない。困惑と憤りだけが彼女の中でごちゃ混ぜになっていく。
しかし…、
男の次の言葉はとんでもないものだった。
「綺麗な水霊石の結晶なんだ。後でゆっくり見ると良いよ」
「!?」
(…………水霊石ですって!!?)
マヤに衝撃が走る。
必死にもがくが、うつむせに拘束されて確かめようにも体が動かない。すぐに神経だけを首の装飾に集中させた。
すると、首飾りの中心辺りから、ごぽっ、ごぽぽっ…と深海の奥底で水が絶え間なく巡り巡る様な瑞々しい力の波動が微かに感じ取れたのだ。
「………っ!!」
嫌な予感がする…。
マヤは呼吸を整え、体の奥底から炎を呼び起こす…。するといつもの如く炎の隆起がマヤの中から駆け上がってきて…。
(大丈夫。いつも通りだわ)
漆黒の彼女の瞳と髪がチリっと色が変化し始めた時…。
その異変は起きた。
首の水霊石が、まるでそれに呼応するかの様にほのかに青く光り出したのだ。
その様子を、男は鮮やかな緑の瞳で静かに見下ろしている。
「炎が……、出ない…?」
マヤの愕然とした呟きが静かな空間に響く。
炎が具現化するその瞬間、冷たい冷水で消火される…。そんな感じだった。
(私の炎が相殺されてる…)
抵抗する事さえ忘れたマヤは、ただ呆然と地面を見つめるしかない…。
まるで時が止まったかのような冷たい広い空間の中…。
男はその整った顔を無表情に、緑の瞳を月明かりに揺らめかせ、静かに語り出した。
「昔……。ルタという言葉はある一族を示す言葉だった」
男の下で、マヤが微かにピクリと反応する。
「彼らの存在は、長い年月の果てに滅びたと言われていた。土地を追われ身を隠す中、他部族の血と混ざり合って、その誇り高き純血は失われてしまったと……」
男が静かに語り出したのは、この世界で永くに語り継がれる戒めの物語…。
「でも…、それは違う。彼らは生き残るために、純血の血だけを残さなければならなかった。自分達の眷属だったものから身を守るために……」
そう言うと、男は体の自由を奪ったままうつむせのマヤを自分の方へ反転させる。
「……っ!!」
必死に抵抗するマヤだが、虚しく手枷の鎖がジャラリと冷たい音をたて、擦れるだけだ。
仰向けになったマヤの目の前に男の顔が近づく…。
「もうかなり前から各地で怪しい動きがあるのは報告を受けていたんだ。ルタの中に凄腕の殺し屋集団がいるって…。………君も覚えがあるだろ?」
「…………。」
男に問われてもマヤは答えない。
男の緑の瞳に、自分の無様な姿が映し出されている。
今すぐ男から離れたいのに…、しかし今彼女に出来る事と言えば、ただ男を睨み返す事だけだ。
「生き残った者の証言に、炎を身にまとう少女の話があった…。銀の兜をかぶった当時11歳くらいの少女の髪は、燃える炎の様に赤かったという…」
そう言って男は、マヤを拘束していた両手の片方を彼女の心臓へと向ける。
「君のここには火の霊獣…。いや、魔獣イフリートがいるはずだ」
男の言葉には確信が満ちあふれている。
「話してくれ。何故君はそれ程の力を身に宿して自我を保っていられる…?君を利用して奴らはいったい何をするつもりだ…?…………そして君がさっき殺したくて堪らないと言ったその相手は…」
「……君と瓜二つのこの国の姫君、ミルディ皇女の事か…………?」




