故郷
《テナの洋服店》でルーンと別れた後、言った通りブレーキさんの新居(といってもギルド内の部屋だが、人が生活できる宿のような居住スペースがあるらしい)へと向かっていた。
勿論、ナナと二人で、である。
ギルドまで暫く歩いていると、ふとナナが呟いた。
「なんだか、久しぶりな感じだね。」
「今更どうしたんだ?」
『久しぶりな感じ』というのには共感しないでもないが、町に帰ってきたのはもう何時間も前だ。
帰ってきたときや、さっきまでの間にずっと町の様子は見えていたと思うが⋅⋅⋅⋅⋅⋅
そう思いつつ回りを見回すと、やっとナナの言うことの意味が分かった。
「分かった?」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅そうだな。久しぶりな感じがする。」
回りに意識を向けると、そこまで賑わっているわけではないこの小さな町に住む人たちの声が聞こえてくる。話し声、笑い声、時には泣き声なんかも聞こえてくるが、そのすべてに俺は懐かしさを感じている。
さっきまでは忙しくて分からなかったことが、途端に頭に入り込んでくるのだった。
そして自分の隣を見れば、俺に向かって優しく微笑むナナがいた。
(『故郷』か⋅⋅⋅⋅⋅⋅。)
日本から転移してきて早数ヶ月。そんな短い時間だったが、俺はこの《ラベンダー》の町を故郷のように感じているようだった。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅まぁ名前に馴染みがあるのも理由の一つかも知れないが。
「ありがとな、ナナ。」
前を向いて歩きながら、隣にいる恋人にそう告げる。
特筆はしていないが、ナナはいつもさりげなく腕を組んでくるので、それが今では当たり前となっていた。
「ふふっ、急にどうしたの?」
突然のことに戸惑いつつも、ナナは一層嬉しそうな顔をして、尻尾を左右に振っている。
(⋅⋅⋅⋅⋅⋅一緒にいてくれて。)
心のなかで、さっきの言葉の続きを言う。
最初は『ナナの心の拠り所になるために』と言っていたが、今では俺の方もナナを心の拠り所としてしまっているのかもしれない。
ナナが絡める腕の力をギュッと強めてきたので、俺も少し強く絡め返す。
回りから感じる懐かしさと、隣の暖かさに包まれながらも、俺たちは無言のままギルドへと向かうのだった。
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ギルドに近づくにつれ、『リア充め、爆発し⋅⋅⋅⋅⋅⋅。』と言った視線が増えてきたように思えるので、さすがに腕を組むのはやめようと意見が一致した。
俺としてはもっと前からその視線に気づいていたのだが、ついナナに流されてしまっていたのである。
ギルドに入ると、相変わらずそれなりに人がいた。中には見知った顔もいて、
「お!久しぶりだなぁ、ナナ!」
「テッドさん、久しぶり!元気そうだね。」
「最近見なかったな。どうしたんだ?」
「リドさん!ちょっと王都まで行ってたの。」
「キャー!ナナちゃん久しぶりぃ~。あとシュウくんも!てかどこ行ってたのよー、心配したんだからぁ!」
「ごめんね~、実は王都に用事があって行ってたの。」
「サーナさん。お久しぶりで。」
「そうだったの。そ・れ・で!ナナちゃん、シュウくんとはどうなのぉ?さっき腕組んでたし、進んでる?」
見られてたのか。なんか恥ずかしいな。
「うん!ちゃんと付き合ってもらえたよ!」
「キャァ~!良いわねぇ。やっぱり若い子の恋愛話は元気が貰えるわぁ。じゃあ、お幸せにねぇ~。」
そう言うとサーナさんはギルドの外へと歩いていった。因みに発言が少しおばさまっぽい(誰がおばさまよ!)気もするが、サーナさんは20代前半といったところである。
その他にも何人か声をかけられながらも(主にナナに対して。稀に俺のことを知っている人もいる。)俺たちは受付カウンターまでたどり着いた。
「用件は何でしょうか。」
受付に座る女性のマニュアル通りな問いかけに、間を開けずに答える。
「ギルド長に会いたいのだが。」
「すいません。只今ギルド長は取り込み中でして、会うことが出来ません。」
『取り込み中』というのはブレーキさんの住居についてだろう。
どうしたものかと困っていると、さっきの話を聞いていたらしい他の従業員の人が来て、受付係の女性の耳元でなにかを話す。
受付の女性は、一瞬驚いた顔になったがすぐに再び真面目な顔に戻して話し出した。
「冒険者カードを見せていただけますか?」
「分かった。ええっと⋅⋅⋅⋅⋅⋅これで良いか。」
少し探した後、いつも通りの銀縁の冒険者カードを出す。
それを見て受付の女性はまたしてもぎょっとした後、冒険者カードの内容を読み出した。
「冒険者〔シュウ〕 え、Aランクぅ!?」
突然の叫び声と《Aランク》という言葉に、辺り一帯の冒険者たちが一斉にこっちを向く。
『Aランクだと!?あの男がか?』
『隣にいるのは、ナナちゃん!?じゃあそのAランク冒険者ってのはナナちゃんの彼氏かしら!』
『いつの間にそんなすごいやつが⋅⋅⋅⋅⋅⋅』
俺たちの方を見た冒険者達から、ヒソヒソと会話が聞こえてくる。ヒソヒソと言ってるのに隠せてねぇよ!
少しの間ヒソヒソ話が続いたが、呆然としていた受付の女性がさっきの従業員に引き戻されて話し出したので、意識をそっちに向ける。
「し、失礼しました!直ぐにギルド長に確認してきます。」
「は、はぁ。」
Aランクと分かっただけでこんなにも態度が変わるものかと少し呆れつつも返事をすると、離れたところから声が聞こえてきた。
「その必要はない。」
「ぎ、ギルド長!」
今度は冒険者たちが一斉に声の主の方を向く。そこには、言われた通りギルド長⋅⋅⋅⋅⋅⋅コラルドさんがいた。
「シュウ、来るなら連絡してくれればよかったのだが。」
「なにぶん連絡手段がなかったもんでな。それより、なんでこっちに来たんだ?」
『なんでギルド長と普通に会話してるんだ!?』という視線を受けつつも、コラルドさんと会話を続ける。
「いや、ブレーキのほうが一段落ついたからな。休憩に来たら声が聞こえてやって来たというわけだ。」
「そうか、助かったよ。それで、ブレーキさんと話をしに行きたいんだが、大丈夫か?」
「勿論だ。こっちに来てくれ、案内する。」
そう言われて、俺とナナはコラルドさんの方に向かう。俺が通ろうとすると冒険者たちがサッと道を開けてくれたので、申し訳ないなと思いつつも通らせてもらった。
「こっちだ。ついてきてくれ。」
「分かった。」 「はーい。」
案内するとのことなので、俺とナナはギルドの奥へと向かうコラルドさんの後ろについていった。
ブレーキさんのところまで行くつもりが、序盤が拙いラブストーリーの一部みたいになってしまいました⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
次話からはブレーキさんの住む部屋に入ります。
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