王からの依頼
「じゃあこっからはあっしの番っすね。」
待ってましたとばかりに口を開いたブレーキさんが、今回のスタンピードについて話し始めた。
「今回のスタンピードの発生源はスポーンエリアの一つ《ケイトウ火山》っす。規模は二等災害級、ランクC~Eの魔物の群れが数万、といったところっすね。」
「王都でも、直撃すれば危ないレベルね。」
「そうっすね。ただ、この情報は大きな誤差はないにしても推測でしかないっす。なんてったって、シュウくんが跡形もなく消し飛ばしちゃったっすからね。」
「うっ⋅⋅⋅⋅⋅⋅なんかすまんな。」
俺が謝ると、オスペオさんとナナがフォローしてくれた。
「そう謝ることじゃないよ。この王都の危機を救ってくれたんだしね。」
「すごかったよ!魔物の塊をシュウのグレネードが一瞬で消し去っちゃったもん。」
「けど、せっかくの素材が取れなかったんじゃないか?」
「うっ⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
コラルドさんに痛いところを突かれる。
「ま、まぁそれはそれ、これはこれっすよ。で、発生原因として考えられるのは、この異常気象っすね。」
異常気象?そういえば今年は異常に暑いって話だったな。それが原因でスタンピードがねぇ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
そう思ったところで、俺は疑問を持った。それは俺だけではないようで、
「でも、火山に住む魔物が暑さにやられてしまうなんておかしくないですか?」
ルーンがそう問いかけた。みんなもそう思っていたようで、同じようにすっきりしない顔をしている。
「そんなことはあっし達もわかってるっすよ。もちろん、これは建前っす。」
「「「「えっ?」」」」
「国民を安心させるためにもそうゆう建前にしてあるってわけだ。」
「コラルドの言う通りだよ。正直、明確な理由は分かってないんだよね。」
「そうなのか?」
「だから、ここからはほんとに推測の話になるっす。」
ブレーキさんは、そう念を押した上で再び話し始めた。
「あっしの推測だと、《ケイトウ火山》に何らかの規格外の魔物が現れたと考えられるっす。」
「規格外の魔物、ね。」
「それって⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
「まさか⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
マリア、ナナ、ルーンとそろって何やら心当たりがあるようだった。それは俺も、そしてブレーキさん、オスペオさん、コラルドさんも例外ではない。
その場にいた全員が、ある存在を思い浮かべる。
「「「「「「「ドラゴン⋅⋅⋅⋅⋅⋅」」」」」」」
「だと思われるっすね。」
規格外の魔物という条件だけでは、他にもいくつか該当するものがいる。しかし、回りの町などに被害が出てないないということは、空を飛んでいるものと考えるのが自然だ。
そんな条件に該当するのは、ドラゴンぐらいである。
《ドラゴン》いくつかの種類はあるが、翼膜を持つ爬虫類に近い魔物の総称である。最も弱いワイバーンという低級飛竜でさえBランクの魔物であり、最高位飛竜では古龍というSランク魔物の中でも上位に位置する魔物がいる。
「今回のドラゴンがどの種類かは⋅⋅⋅⋅⋅⋅いや、そもそもドラゴンがいるのかも分からないけど、調査はしないといけないんだよね。」
「それを、俺たちに頼みたいってわけか。」
「そうだね。」
そう言うと、オスペオさんは椅子に座り直し、あの威厳を含んだ態度に変えた。
「今回のスタンピードに関する調査依頼を君たち《マリーゴールド》に指名依頼したい。頼まれてくれるか?」
その問いに、俺はマリアと顔を見合わせてたが、その答えはすぐに出た。
「「もちろん、受けるぞ(わ)」」
「ほんとかね!」
「俺も気になるからな。」
「古龍でもない限り、私一人でも遅れはとらないもの。」
承諾を得たところで、オスペオさんはまた普段の口調に戻した。
「といっても出発は半月後だからね。まずは君たちの町に帰ってもらって大丈夫だよ。」
「それは嬉しいわね。準備もあるし、私は住むところも探さないといけないもの。」
「そうだな。ルーンの住む場所も決めて、色々買うことになるだろうし。」
まぁルーンに限って言えば、一応あてがあるのだがな。
「とりえあず、話はこんなところかな。王宮前に馬車を手配しておいたから、先にブレーキとコラルドを行かせておくよ。」
「わかったっす。」
「了解した。」
「じゃあ俺たちは荷物を取りに行くか。」
「はーい」
「わかったわ。」
「わかりました。」
そうして、俺たちは王の間を後にしたのだった。
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閑話 謎の盗賊団 団長視点
暗闇の中、草原の一角に身を潜める十数名の男達。手にはそれぞれの得物を持ち、物音立てず待っていた。
『こちらβ、目標を確認しやしたぜ。』
魔力無線機から流れてくる声に、その男はいやらしい笑みを浮かべた。
『対象は、御者が一人、幌の中には何人かいるもよう。確認したなかでは、女も何人か。どいつも上玉ですぜ。』
『ふふっ、了解した。女は拘束して、男は殺せ。絶対に乗っている品物は破壊するなよ。』
そう告げたところで、男は少しばかり声を張り上げた。
「馬車を確認した。β地点へと向かうぞ。」
すると、息を潜めて待機していた男達が、洗練された動きで一斉に移動する。
「楽しくなりそうだ、くくくっ。」
そう言うと、男は下劣な笑みを浮かべたのだった。
少しばかり移動すると、さっきの報告者βのもとへと到着した。
「あれですぜ。」
再び物陰に隠れながら指差す方向を見ると、一台の馬車が草原を移動していた。
「期待のできそうな馬車だな。」
見た目からして、しっかりとした造りをしてあり、大きさもそこそこある。今分かってる時点でも上玉の女がいるのだ。完全に当たりである。
「そろそろ仕掛けやすか。」
「いや、あいつらはこの先のΔ地点を通るだろう。先回りだ。」
「おぅ。」
再び全体に連絡をかけると、疾風のような速度で次の地点へと向かう。
少しすると、平原から抜けてゴツゴツした岩場に入った。
「すぐに対象はやってくる。全員、包囲配置につけ!」
「「「「「「「おぅ!」」」」」」」
これまた、何度も訓練してたどり着くほどの完璧な動きで、団員たちはそれぞれの配置についた。それから幾ばくかして、対象の馬車がやってくる。
この地点での動きは全員が頭に入っている。特に連絡をせずにも予定通り始められるはずだ。
そうして、団員の一人が奇襲を仕掛けようとした、そのとき、
ブ ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛!
ギシャァー!ギュゥー!
羽音と独特な威嚇が聞こえてきたかと思うと、馬車の進行方向側から、《ブラッドワスプ》が群れで襲ってくる。それを確認したのか、馬車は動きを止めた。
(ちっ、面倒な魔物だな。)
ブラッドワスプは個々の能力はDランクほどだが、群れで襲ってくるため、全体としてはB~Aランクほどとされている。
(いや、これもチャンスか?戦闘で弱ったところを奇襲するか。)
そう思い、馬車のほうに視線を戻したそのときだった。
シュッ、バフゥン!
突然馬車から何かが飛び出たと思うと、ブラッドワスプの群れの近くで爆発、しかも不自然なことに群れの方向にのみ深緑色の煙を撒き散らした。
その煙に触れたブラッドワスプは地面に落ち、瞬く間に動かなくなる。後には、魔石とドロップ品のみが残っていた。
それでもブラッドワスプは全滅してはいない。一瞬動きは止まったものの、再び馬車に向かって飛び始める。
すると、今度は青白い光線が群れを貫いた。そして、触れたところから順にブラッドワスプたちは氷づけになっていった。
(アイスレーザーか?)
この魔法には見覚えがあった。氷属性の中級魔法名前の通り触れたものを氷づけにするレーザーを放つ魔法だが、
(あれが中級魔法だと?威力がおかしいだろ。)
通常とは比べ物にならないほどの威力だ。
あれこれ思考を巡らせていると、今度は馬車から煌々と光るオレンジ色の球体がふわふわと出てくる。
それが、未だ動きを止めないブラッドワスプの群れの中に入ったかと思うと、
ドゴォォォン!
群れの多くを巻き込んで大爆発を起こした。
(っ⋅⋅⋅⋅⋅⋅!さ、さっきからなんなんだ!あの煙といい光線といい⋅⋅⋅⋅⋅⋅。撤退すべきか?)
このようすから見て、相当な手慣れがいることに違いない。勝てない戦いを挑むほど馬鹿な盗賊団ではなかった。
男は再び魔力無線機を使って団全体に撤退を指示し、闇に紛れるようにして消えていった。
─────その一連の流れが、馬車の中の人たちにばれていたことをしるのは、少し先の話である。
やっと町に帰れますよー!
少し閑話っぽいのを入れてみました。変な感じになっていなければいいのですが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
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