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幕間3 足を踏み外すように超越して

 足を踏み外すように超越した私が転生したのは、モブの子の家でした。


 何の脈絡もなく、気づいたら前世の記憶も前々世の記憶もある状態でゆりかごの中でした。

 転生系超越者になった結果、なんだかよくわからないけれど、奇跡的に前と同じ名前。いや、必然的にかも。以前会ったことのある転生系超越者もそうでした。

 ううむ。モブとは言え辺境伯です。シナリオから考えて騎士団長になるであろうアイザック・エオス伯爵令息と剣だの魔法だのを競うようにめきめき力をつけていったりしまして。


 うっかり、前々世と同じところからの転生者と、前々世を垣間見た大賢者と意気投合しました。


「盗賊×悪役令嬢はほんと正直最高ですよね」

「わかりみが深すぎます」

「まじヤバい純愛……」

(とうと)()案件」

「おお、リリカくんにジェイミーくん。随分楽しそうだの」

「公爵様!お久しぶりです、今は私たちが前世で見たヘーゼル様の話をしてたんですよ」

「ああ、我儘放題しすぎて放逐されたあと盗賊と何やかやあるやつなあ。本当は我儘放題させずにその義賊の男とやらの方をこっちに引き込めたらいいんだがのう……」

「公爵様は未来が見えるのでしたっけ」

「ここ自体の未来はよう見えんよ。並行世界の未来を見て、大まかに雰囲気が分かるだけだとも。まあ、並行世界自体はいろいろあるが、見える限りほぼ全部の並行世界で放逐されて盗賊くんに拾われとるわ。そう言う運命なんじゃろうなあ……」

「なるほど……」


 こんな感じで。

 で、うちの領地には結界の碑のある教会もあって転生者くんはしばしばそこに来るし、公爵様はテレポートできるしで、時々こそこそと三人でこうして話したりしてました。


「ええっと、テレストラでしたっけ」

「んむ。話を聞く限り、二人は今の基底世界のテレストラにいたんだろうなあ。あ、リリカくんはこの直前はフィニオンだったか」

「はい。マークさんに導いていただいて」

「ほう!あの竜神の手綱を握る者にか!この世界にはまだ来てないのー、その父親のメルクリウス殿は随分大昔に来とったらしいが」

「ええと、ぼくの記憶が正しければですけど……竜神って、世界を滅ぼすためにいるから、来たらまずいんじゃないですっけ?」

「うんにゃ、その辺はマーク殿はかなりやりおるよ。滅ぼすべき世界とまだ生かすべき世界とを考えて、適切な場所に移動し続けておる。ウィストリアは残念ながらどこもかしこも腐敗しきっておったからのう……滅んで良かったとは言わんが、しょうがない」

「そうなんですか……あ、あの、マルシア様と関係なく滅んだりもするんですか?」

「おお勿論。最近の例でいうと、ブロムスは竜神でなく現管理者の判断で滅びに向かっておる。もうブロムスの大賢者のデボラちゃんとも話せんくなってしもうたわ。……あ、お前さんらのいたテレストラはしばらく安泰だとも。なんせ今の基底世界だからのう!」

「基底世界?」

「たくさんの世界の基準になる場所だとも。今の大賢者はたしかファビオラちゃんだったかのー。イタリアという国に住んでおる魔女だよ」

「魔女?!」

「あの世界魔女っていたんですか?!」


 こんなかんじで世界の話をして。

 自分のいた世界にも、知らないことがたくさんあることを知って。


「おったわ。ディランという盗賊。なるほどまだお前さんらぐらいかちょいとばかし上くらいの子どもだが……」

「ヘアアアアアアアアアアアア」

「キタコレ!キタコレ!キタコレ!」

「おおう二人ともどうした壊れた魔道具みたいに首縦にブンブン振って。すごいことなっとるぞ」

「わあああああああ私いまなら空飛べます」

「ぼくも飛べそうです」

「やめとくれ。後片付けが面倒すぎる」


 定められた運命(げんさくどおり)を垣間見て。


「前世は何をしていたんですか」

「ぼくの前世は女性だったんですよ。働きすぎて足踏み外してホームに落ちるまではバリキャリでした」

「それはまた、数奇な転生を」

「まあ、他にも転生者がいたら困るのでみんなの前ではもっとちゃんと転生者じゃないふりをしますけど」

「じゃあ、ほかの転生者に会ってもジェイミーのことは秘密ってことですね」

「そうしていただけると嬉しいです」


 小さな秘密を守って。


「ええと。お恥ずかしながら、僕はこうしてずっと君とオタトークに花を咲かせていたいです。もしも、もしも前世で愛したミロア嬢という方に今も操を立てておられるとしても、それでも構いません。愛でなく、家同士のつながりでもなく、ただ、同志として、寂しい僕のそばにいて欲しいのです」

「……ミロアのことを今も愛している私でよければ」

「ありがとうございます。転生を繰り返して永きを生きる貴方がここにひととき留まってくれる喜びに感謝を」


 ちょっと不思議な、婚約をして。


「うん?ジェイミーくんの前々世はミロアというフィニオンのお嬢さんで間違い無いようだが」

「……ミロア?ミロアなのですか?」

「……僕には全く、ミロアの頃の思い出がありません」

「でも見た限り同じ形しとるようだがのう……リリカくんと引き合ってるというか、無意識に引き寄せたのかもなあ」

「……わたし、気づかなくて」

「……僕も覚えておりませんでしたので」

「……まあ、仲良くやりなさい。リリカくんもそのうち見えるようになるだろうからね」


 超越者というのがどのようなものなのか。

 それに愛されてしまった人はどうなってしまうのか。

 私が手に入れてしまった、世界を超える恐るべき者の力を垣間見て。


「……ジェイミー。私はミロアが好きです」

「わかってますよ」

「でも、今は、ううん多分ミロアが好きって言い張ってた頃から、貴方の魂がかつてミロアだと知らない頃から、実は、少しずつ、貴方に惹かれていました」

「ミロアの生まれ変わりの生まれ変わりだからですか」

「魂が引き合う、いいえ、私が引き寄せてしまうのならば、無いとは言い切れません」

「オタ友だからですか」

「ふふ、それもあるかもしれません」

「——僕も、ミロアが好きと言っていた貴方だった頃から、貴方が好きでした」

「気づいてましたよ」

「バレてましたか」


 数奇な運命の、心の置き所を二人で決めて。


「速報です。薄々気づいてたかもしれませんがヘーゼル様が転生者でした。本人に『今日気づいたけど自分も転生者です』って言って確認とったのでガチガチのガチです」

「えっ……嘘と言ってください……嘘ですよね……まさか……そんな……」

「なんとびっくり追加ディスクがない世界から来てらっしゃって、見てるとこっちのヘーゼル様もアリかなって」

「キャラ崩壊不可避じゃないですか……僕はちょっと見極めたい……」

「私はもう今のヘーゼル様めっちゃ推せます」

「成る程……」


「僕の気持ちも固まりました」

「どうですか」

「推せるか推せないかでいうと」

「はい」

「ぶっちゃけた話どちゃ推しです」

「なるほど」

「あのちょっと現代っ子小市民っぷりと今までの貴族生活とが相まってなんともまさにパラレルワールドのヘーゼル様の究極完成形ではというレベルの単体尊さを醸し出して」

「おわかりになりましたか」

「無限にわかる気がします。これはこれでひたすらに尊い。早くCP萌えしたいです」

「公爵様がなんかやらかしたとか小耳に挟んだので正座待機で」

「星座待機で」

「はぁー星になるしか」


「はあ?何ですかそれもう君だけのヒーロー的ななにかじゃないですか?無限に尊いじゃないですか?なんなんですかほんとまじ無限に推せます……ヤバみが尊い……」

「語彙は死にます……オタも死にます……自分の命の危機とかはるかかなたすぎる……」

「改めて(とうと)()しないでください、生きてもうちょい状況解説ください」

「さいのこうでした」

「アカンやつですか」

「アカンやつです」

「はー……結界修繕費とか見なかったことにして素直に尊びたい……いやこれ一応割れたのうちのせいなんでちょっと素直に尊ぶには抵抗あって……」

「ちゃんと対策立てて強化してても山賊のせいで割れたんだから、山賊と強制力のせいにしちゃっていいですよほんと。まじナイス強制力ってことで」

「ナイスフォローありがとうございます。今日だけは尊ぶことだけに心を傾けます」


「推しの結婚式に大切な人とともに二人とも友人として参列できるなんてこの世でいちばんの幸せものなのではないですか?」

「少なくとも僕らオタ界では快挙でしょうね」

「はぁー人生こんな楽しくていいんですかね」

「いいんですよ、人生って楽しいものですよ」


 オタ生活という名のこの世の春を謳歌しました。


 どこに行っても、どこで生まれても私はミロアを、ジェイミーを連れて行ってしまうのでしょう。

 直前の前世の記憶しかないのに、いつも一回別のところが挟まってしまう貴方。

 私のオタ趣味に付き合える、時にそれを上回る知識や技術をいつのまにか身につけてくる貴方。


 ああどうか願わくば。

 何度生まれ変わっても、ずっと一緒にいてくださいね。

 ——というのは、超越者の奢りなんでしょうか。

これにて本当に完結です。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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