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13.はじめてのクエスト

[依頼No.86578 ブラッククック(魔物化)討伐 依頼主:リーズ村 ゴン]

 依頼内容:ブラッククック(魔物化&通常個体)の討伐

 報奨:討伐数により変動

 備考:リーズ村からガイスまでの街道沿いに広がる森林地帯付近


 7回目のログインかな。ツインズ時間で早朝。私は南門の前でメモを確認していた。

 昨日、冒険者ギルドで受けた依頼をまとめたものだ。これが単独での初依頼になる。

 南門からは丁度リアルではゴールデンタイムのせいか、続々とパーティが出発していく。

 サービス開始から約1週間が経過し、初期装備を着替えたプレイヤー達も増えて、ジオス周辺に活動範囲が広がっているようだ。私はやっと外に出発という状況だけれども。


 依頼の内容は、リーズ村の特産であるブラッククック。酒場で食べた美味しいアレよね? あれが輸送中に魔物に襲われ、逃げ出してしまったらしい。

 それが森の中へ逃走して、森の中に存在する魔石に影響をうけて魔物化。繁殖してしまったそうよ。魔物化したブラッククックは、普通の鶏と強さはあまり変わりがないらしい。けれど、それを食べた獣が魔物化したり、また魔物が食べてさらに強くなってしまうことがある。だから、討伐の依頼が出されているのだ。 しかし、この討伐依頼は不人気だった。


 なぜなら、魔物化したブラッククックは行動範囲も広くなり、出没地区は広範囲になって探すのがめんどくさい。また、あまり強くないということから、討伐報酬が比較的安い。

 装備のない初心者ノービス冒険者には、よく討伐されるが、彼らは装備を強化するようになれば、もっと良い報酬の良い討伐依頼を受けるようになる。

 討伐数より繁殖する数が多くなり、この依頼は常時依頼となってしまっていた。


 私がこれを受けた理由は、いくつかある。まずは戦闘職でない単独。か弱いバードよ? けど、広範囲を捜索するのは苦にならないし。それにライアートのお勧めがあったからだ。彼曰く……


 弱い魔物なので、群れがいたら数をこなせること。そして、戦利品ドロップアイテムの肉と羽が、それなりの値段で売れること。また、この魔物が好む餌がある場所には、採取できる草が多いこと、とのことだ。彼のパーティも最初はこの討伐で、地道に技能を上げ、活動資金を溜められたらしい。


 メモをしまえば、代わりに防水用のポーチに入れていた紙の地図と方位磁石を取り出す。アナログだけれども、行ったことのない場所へ赴くには、きちんと把握しないとね。

 システムのマップも広げれば、ジオス周辺は全くマス目が明るくなっていない。先日行った牧草地帯と森林の手前ぐらいだ。


「よし……」


 杖を片手に街道を歩き出そう。本日の目的地は下調べして決めてある。

 ジオスから南に延びた街道は、最終地点は「神聖王国デイン」だ。馬車で半月はかかる距離。いつかは行ってみたいわ。その間には、幾つかの都市と街、その周辺に村が点在していた。逆に北に行けば「自由商業都市ラギオス」が歩いて数日のところにある。

 ブラッククックの特産地、リーズ村はジオスから南に徒歩で半日。街道を下り東へ行った場所にある集落だ。街道とリーズ村への分岐点。その周辺の森林が本日の目的地。1時間ちょっと歩けば辿り着くと衛兵さんから聞いていた。


 街道は馬車が1台通れる幅の道。舗装はされていないが、何人も何人も通ったのだろう。地面が踏み固められ、雑草は少なく「道」とわかる。

 街道の西は手の入った牧草地帯でのどか。反対の東の景色は、平原が広がった先、木材確保の為か、手が入っているように見える森が広がっている。途中旅人や冒険者とすれ違えば、単独の女旅人は少ないのかな? ちらりと見られてしまったわ。笑顔で良い一日を! と返したけれどもね。

 雨の日もあるこの世界、今日は雲一つない良い天気よ。思わず鼻歌を歌いながら――歩こう。リアルで、羊の国の草原をロングトレイルしたことを思い出すわ……魔物がいる世界だから、油断はできないけれども。


 やがて街道の分岐へと辿り着く。しっかりと打ち付けられた杭に付けられた木の看板。「東:リーズ」と書いてある。周囲は、西の牧草地帯も小さな茂みが広がる景色へ変化していた。東に続く道は少し細くなり、森に挟まれている。ここからは……<気配察知>の技能を発動させる。じわじわとMPが減っていくが、休み休み行けば問題ないだろう。不意を取られるのが、単独では一番怖いわ。



 ライアートから貰っていた情報の1つ、ブラッククックが好む草が生えた場所へ、いざ森林へと踏み入ろう―― 

 村が近い為か、植林がなされている雰囲気がある。少なくても人は入ってるかも。木立の合間を慎重に、左右、時々背後。確認しながら。<気配察知>のレベルが低くて、まだかなり接近されないと、気づくことができないけど。もっと技能をあげなければ。地図と方位磁石だけが道しるべだ。

 ツインズのシステムマップは、歩いたことのない場所はわからない。郊外へ出て、その仕様の鬼畜さをしみじみ感じるが、それもまた……楽しい? へんかしら? 私。


 地図の一部にマークをつけてる。それは泉だ。その周辺にある草を好んで、ブラッククックの魔物化は繁殖をしているらしいわ。

 森の中を緊張感を持って歩く……時折響く獣の鳴き声に足を止める。大きく茂みが揺れた! ごく普通の狐みたいな獣だった。鳥の囀りを楽しむ余裕は、まだないわ……時々腰まである茂みを、ナイフで伐採できるものは払って進む。手袋と長靴を新調して本当に良かったと思うわ。


「ここ、ね――……」


 水場特有の気配、冷えた空気を肌で感じる。木々が重なった合間、柔らかい草叢が広がるのが視界の先に見える。近づいていく。


「――いる」


 息を思わず潜める。杖を握りしめて、木立の陰に隠れるようにしゃがんで、じっと見つめる。<気配察知>に感じるのは3つ。湧水なのか草叢に滲むように水をたたえる泉の大きさは直径3m程だ。

 水場の影響か青々とした草が周囲へ広がっている。そこから少し離れた場所に、黒い一匹の影。あれが……ブラッククックね。魔物化したというニワトリ。<鑑定>を確認の為、発動させる。


 [ブラッククック(魔物化):魔物化したブラッククック。元は飼育されていたものが、魔物化し繁殖した。リーズ村周辺の森林に生息する。羽は生産の素材になる。また、肉は美味しい。(火を苦手とする)ステータス:平穏 ]


 当たりだ。鑑定するとウインドウがポップし情報を示す。最近その内容に変化があった。称号で<鑑定+1>を取ってからよ。それは追加情報だ。その生物ならば、苦手だったり、アイテムならば、結構どうでもいい情報だったり、豆知識みたいなものが、追加されるようになったのだ。とっても便利。


「クック、鶏よね? 味もそうだったけど……魔物化って、ああなるわけ?」


 可愛らしい黒色の鶏よりちょっと大きなものを予想していたわ。羊が特別だと思ってた。ビッグシープっていうぐらいだしね。けどね。けどね。草をのんびり食んでいる鶏もどきの大きさは、一抱えあるほどだけど?! 艶々した黒羽が綺麗だと思った。けれど……やるしかないわ。他の2つの気配も同じ大きさ? 姿は見えない。連鎖リンクはしないが、敵とみると攻撃はしてくると聞いてる。腰のベルトから投擲用ナイフを抜いて持つ。まずは――


「―――ッふ!」


 牽制! 泉へ向かって姿を現すように、踏み出す。ナイフの行先は――残念、背の部分を掠め羽が散った。同時、甲高い鳴き声!!!


 ゴケゴゴオオオオッ!!


 鳴き声まで可愛くない! 魔物を杖の届く範囲におびき寄せるのは成功か、な。跳ねるようにブラッククックはその敵意を向けてきた。なんだか、泡を吹いているのは魔物化の特徴なのかしら! 


「シッ!!」


 跳びかかってきた大きな鶏。その鋭利な嘴と爪が危険だ。だけどね! リーチと言えば私が有利なはず! 構えた杖を、ブラッククックの跳びかかりと同時に、踏込―― ガッ!!!

 その胴体を斜めに薙ぎ払う。鈍い音が響けば、飛べない鳥は、地面へ叩きつけられ、杖を返す勢いで――打ち付けるように垂直に突く!! めきり。胸骨が砕ける音が響いた。そして、崩れていく魔物の形。討伐だ。地面には……胸肉ね。これ。まさしく胸肉。だけどでっかい! 大きな黒い羽が1枚落ちた。 そして、冒険者ギルドで依頼を受けてると、システム的にか討伐証明が追加ドロップされる。それはトサカね。トサカ。背嚢に戦利品を押し込む。まだ……気配は。来た!!!


 茂みから2匹のブラッククックが飛び出した!! まるで飛びたいとばかりの跳躍。


 ココココッ ゴケエッ!! クエ!!!


 2匹! 一匹を避ければ、後ろへ跳んで距離を取ろうと。爪が袖を引っ掛ける! 思わず舌打ち。


大地(ノーム)の精霊よ。汝らの地を荒らす、穢れたモノを捕えよ!!」


 一匹を拘束すべき、精霊に呼びかける。大分、精霊は呼びかけに応じるようになってきたわ。泉の周囲、草に覆われた地から……小さな小人みたいなのが飛び出して、ブラッククックに飛び掛った!!


「?! ちょっと、えぇ?!」


 土の弾丸の如く、大地の精霊さんは、ブラッククックの胴体を貫く――!! 崩れる鳥の影。お願いしたことより、やりすぎてる気がするのだけれども! っそんなこと、いってられないッ!


「こっちも、ね!!」


 同族がやられても気にしないような魔物の鶏。大地の精霊の小人が草叢で遊びだしたのを片目に、トサカごと叩き潰すように、杖で上から下へ強打!! 大地に溶けるようにその姿は消えて……


「3匹ね。確かに……狩りやすい? のかしら」


 軽く切れた息を整えば、鶏肉。今度は腿肉よ、これ。まさか部位ごと?! 今日の晩御飯は決まったわ。確かにこれは、私には合っている依頼かもしれない。焼鶏にしよう。ネギ……あるかしら?


 ふ、と息を吐き出し、改めて周囲を見渡す―― <気配察知>は、反応がない。

 MPは単独行動においては重要だ。杖で殴ったのはそのせいよ? 殴りたいからではないわ。 それに肉とか羽が血で汚れることがないと思うの。バードにできるのは、それぐらいよ。なるべくMPは使わないにこしたことはない。


 泉の周囲を<鑑定>していく。泉から染み出る水は草叢を潤し育てる。メモを取り出して、情報を確認するわ。確か、膝下までの長さで根元が膨らんでいる、茎に細かい繊毛がある青みがかった草。これが、探していた草だ。


 [治癒草:清らかな水辺で育つ草。古くから傷をいやす効能があると伝えられている。薬づくりにもよく使われる薬草とも言ってよい草 (実は齧っても傷がちょっと治る。まずい)状態:新鮮 ]


 当たり! 治癒草。そのまんまね。薬草ってことで、<調合>技能でポーションの材料になるという。それなりのいい値段で売れるという情報だ。スコップで根元から採取する。根元も使えると聞いたからね。ドガが染料に使うって言ってた気がするのよ。


 泉の周辺で、餌を求めてやってくるブラッククックを数羽狩り、採取を続ける。常に<気配察知>は、切らさずだ。MP回復はポーション。ケチってられないわ。


 やがて泉に陰る木の影が短くなってくる――正午が近づいている。これは、お楽しみの昼食タイム! 今日は折角だから初期装備にあった「携帯食」を食べることにしてたのよ。

 どんな味なのかしら……背嚢から取り出す。四角い箱だ。中身はまだ見てないのよ。あければ……四角い大き目のビスケットが数枚。え、これだけ?! 齧ってみた。 


「うぅ、酷い……味……」


 とっても残念な味だった。なんていうの? 小麦を練って焼いただけっていう味ね! お腹は膨れるけれど味気ない。いや言葉どおり味がない。少しもさもさするし、携帯には軽くていいけれど。

 テンションが斜め下に落ちて行ったわ。無言で咀嚼する。残すことはしないわ。ただ、絶対今日の夜は、ブラッククック料理にするわ。

 

 残念な携帯食の昼食が終われば、もう少し狩りを続けよう。早めに帰るのが鉄則だが、まだ。もう少し狩ろうかな? のんびりとした気分でいた。だから鶏が草を餌とするように、鶏を餌とする生き物がいる事……それを失念していたのに気付いたのは、違和感と同時だった。


 グラアアアアアアアアア!!!!!


 咆哮と同時だった。大きく揺れる草叢!! 飛びかかる大きな影! 鶏じゃない?! 

 <気配察知>には、反応しなかったソレ。それは<気配察知>より気配を抑えることに長けた獣だ。

 身をひそめ、獲物を淡々と狙う獣――それは。


「ぐぅッ!!」


 反射的だった。咄嗟に喉を庇うように杖を前面に構えるッ! 同時、強い衝撃が身体に走れば、続いて背中に衝撃を感じる。正面に見えるのは、巨大な毛玉…じゃないわ! 牙を杖へと食らいこませる大きな黒いウルフの姿だった!! 杖が無ければ、喉を一撃だったかもしれない。

 ハァハァと聞こえるのは、自分の息の音か獣の息か。生臭い息が唾液と共に首元に落ちてくる。 肩口に鋭い爪が食い込んで、ジクジクとした痛みが響く。落ち着け落ち着け――…力じゃかなわない。牙が……ッ


大地(ノーム)の精霊!! お願い!!」


 言葉に出来たのはそれだけだ――けど、その響きはいつもの言葉でない言葉だ、それは咄嗟に<精霊語>で紡いだ言葉。どうか、聞いて!! 刹那、草叢を揺らし、地面が揺れた?! 「ヒャッハー!」 て、聞こえたのは、き、気のせいよね? 


 グラアアアアッ!! グガアッ!!


 ドズンドズンッ 鈍い音が響けば、ウルフの拘束が緩む。思いっきり私は膝をウルフの腹に蹴りあげ、杖を振り身体を反転させれば、草叢へ転がりこむ。振り向けば、地面から槍のように盛り上がった土の塊が、ウルフの身体をいくつも貫いていた。


「ハッハッ」


 息が響く音が全身に響くように聞こえる。ウルフを見れば槍を抜くように大きく身体をもがいている。

 <鑑定>を考える間もなく、発動させる。


[ブラックウルフ(狂暴化):魔物化したウルフ。その中でも一際魔石の影響を受け狂暴化したもの。群れを成すこともあるが単独で移動することもある。革は素材として優秀である。(火を苦手とする)ステータス:凶暴化 ]


 黒々と鈍く光る大きな狼。その大きさは2m程? 巨大羊よりも大きい? 思わず、背中に汗が伝うわ―― やるしか、ない? 狂暴化って……特殊個体?!

 逃げる? 絶対追いかけられるわ。 死に戻りを選ぶ? イヤに決まっている。やるしかない!!

 土の槍を抜け出そうともがく大きな獣。その槍の拘束も、ボロボロと土が崩れだしている。


 杖を構えれば、<鑑定+1>を得て、ありがたく思う。

 背嚢を開けば取り出すのは、カンテラ。女は、度胸!! 私はブラックウルフと対峙した。


 

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