12.情報と道具、準備は大事
本日2回目の投稿になります。
ドガの露店から、商店街のメインストリートを少し離れた路地へ歩いていく。
「道草亭」もそうだけれども、少し路地に入ると、住民の人達が利用する食事処があったりする。目的のお店は、エルザさんが教えてくれたお菓子屋さん。持ち帰りがメインだけれど、店内で食べることもできるという。
お菓子屋さんがある程度に、この世界の食生活は充足していることがわかる。嗜好品であるお菓子は、バターや砂糖を贅沢に使うからね。食料事情で文化等社会面が見えるのはリアルでも一緒ね。
「よくこんな道を知ってますね」
「歩くの好きなのよ。今から行くお店は、バードギルドのマスターに教えて貰ったのよ」
「なるほど……NPCからの情報ですか。あんまり魔術ギルドの職員とは、話をしたことがなくて」
「このゲームはNPCと思えない。むしろ異国の地で住民と交流しているみたいと、私は思うの。案外面白いことを教えてくれるしね」
そんな会話をしながら店へ辿り着く。看板の名前を見れば、間違いない。
まるでカフェみたいなお店。明るい黄色のレンガ造の建物は、女性が好みそうな雰囲気をしている。
事実、大きめの窓からは店内の様子が目に見えて女性の姿が多い。
なんだか、ライアートが微妙な顔をしている。うん。ごめんなさいね? 男性は入りにくいかもしれない。
店内の壁紙はシンプルな花柄。パン屋みたいに棚に商品が並んでいた。日持ちの為か、焼菓子がメインのよう。エプロン姿の可愛らしい店員さんに尋ねてみると、買い上げたものを店内で食べてもいいらしい。また、店内飲食用のメニューもあると。店内飲食用で今日のお勧めのお菓子を選ぼう。ついでに飲み物も。ライアートも同じものを頼んでいた。寧ろ、選ぶのに困ったみたいね。そわそわと落ち着かない感じが見て取れる。空いている席へ移動してお菓子を待つ。
「それで、何が聞きたいのかしら」
「何からというと……難しいですね」
向かい合わせに座れば、そう切り出した。あまり大した情報を持っていないと思うのだけれども。
ライアートは少し考え込んでいる様子。
「さっきドガが……毛を刈ったといっていたのですが、そのことを教えてもらっていいですか? あと、エルフとドワーフのことを知ることになった切欠なのですが」
「そんなことでいいの?」
聞きたい事に思わず首を傾げてしまう。聞きたいというならば……私は順序立てて説明をした。
ドガ達との毛刈りのこと、精霊語を学ぶ為に行った図書館での出来事を話そう。ライアートは真剣な顔をして聞いている。一方的になってしまったけれど、説明が終われば、ほぅと溜息が聞こえる。
「何といっていいのか……貴方が、先程NPCと話すのが良いと言うのがわかりました」
「そう? だってここは彼らの世界よ。私達が知らないことは、彼らの文化だったり常識だったり。私はそれが、旅の醍醐味だと思って味わっているけれども。……ゲームとわかっているけどね」
「……このゲーム、開発元がもう一つの世界に暮らそうと謳っていました。その意味がとても身に染みましたよ。ゲームであってゲームでない気がしてきます。こういったゲームだと、いかに強い魔物を倒すかに目を行きがちですが……色々な話の英雄譚を思い出せば、どのように、どうやって英雄は生きたかを語っている気がします」
穏やかだけれども一生懸命という感じに語る彼。うん、彼は真面目な性格だと理解したわ。
こういうタイプの人は嫌いじゃない。良い友達になれそうな気がする。定員さんが木製のお盆を持ってやってきて、それぞれの前に置いていく。お盆の上には、甘酸っぱい香りのする林檎色の液体が入ったグラス。そして、拳大のマフィンのような焼菓子だ。甘くバターのような香ばしい匂いが漂う。その傍らには、飴色がかった木の実。ナッツの砂糖漬けかな? どれも美味しそうだ。グラスを手に取ると喉を潤しながら、どうぞ食べてと促し。
「そういうのを私は歌いたいの。吟遊詩人らしくない? なんてね」
「いいですね。なんだか私も色々気になることを、片っ端から調べたくなってきましたよ。先日赴いた遺跡の話ですが、知識を得ていなかったら、依頼も果たせなかったと思いますし……」
「ああ、どんな遺跡だったの?」
少し身を乗り出して、遺跡という言葉に食いついてしまう。だって遺跡よ? ゲームでいうダンジョンとは違うのかしら。その勢いで驚かしてしまったらしい。びっくりした顔をされたけど、すぐ楽しげな笑みを浮かべ。
「この街から少し先にある、リーズという村の近くなのですが……」
ライアートさんは、その遺跡について事細かく説明しだした。この人、やっぱ好奇心旺盛よ。だって、説明がすごく細かい。それだけ興味を持ってよく見ているんだと思う。メモ帳を出して、その遺跡についてメモをしよう。……暫し、遺跡について情報を得れば、私の顔はニヤニヤしていたのに違いない。
「行く気ですね。そうだと思いましたけれど。お一人ですよね?」
「ええ、だって……これは行かないといけないと思うわ。丁度装備もできたし……大丈夫よ。慎重にいってみるわ」
「一緒に行ってみたいのですが……友人達とパーティを組んでいるので。冒険者ギルドで人を集めるのも、手だと思いますが……」
リアルの友人達とパーティを組んでいて、固定パーティで時間がいつも決まっているという。
仲の良い友達と冒険っていうのは、ロマン溢れるわ。気にしないでと首を振ってマフィンを一口。あ、干した果実が入ってる? 甘くも固い触感が素朴な生地の中にプチプチと感じられる。うん、美味しい。そして、グラスの中は葡萄より少し酸味の聞いた果汁ね。何の果汁か、やっぱり癖の<鑑定>だ。
「もう少し、精霊語についても聞きたいのですが。テストプレイの時は精霊魔法、憧れていたのです。精霊語があることを初めて知りましたよ。といっても、今でも修得は大変そうですよね……」
「たまたま、冒険者ギルドで、精霊使いの冒険者に出会えたことが、良かったかもしれないわ」
「そこなんですよ、ケイ。貴方のプレイ方針のせいかもしれませんが、そういう巡り会わせを引き寄せるかもしれませんね」
貴方に会ったこともね? と笑って見せたら、ライアートはマフィンを一口齧り。照れ隠しかしら。
ふと思いついたように。
「精霊魔法について、精霊語のことを公式HPの掲示板に載せてもいいでしょうか? もしかすると情報が集まるかもしれませんし。精霊使いを目指すプレイヤーの活性化につながるかもしれません。あと魔物の採取の件ですが、生産職の方には伝わっていそうですが……知れば戦闘職メインのプレイヤーの素材集めの攻略につながると思うのです」
「ええ、私。あまり掲示板とか馴染みがないから……書いてもらってもいいわ」
「ありがとうございます」
ドガ達を通じて生産者にもそろそろ伝わっているだろうし、ゲームの中が活性化するのは良い事よ。
NPCと間違えられるような私より、戦闘や生産をばりばりしてるプレイヤーに公開してもらったほうがいいしね。
「いいえ。あ、私が聞きたかったこと、いいかしら? 魔術の魔法の付与効果の事なんだけど。実は……調べている事、求めている事があるのよ」
魔法の歌のことを彼に聞いてみよう。魔術と関連あるかもしれないと言われたことも、付け加えて。バードといえばと、彼は納得した様子。そして、今はないのですねと。少し思案気に視線を揺らせば。
「ケイ。<魔術>にも、付与の魔法はあるのですが……効果はあまり使えないものなのです。魔導語を並べることによって魔法は生まれますが。付与の言葉は数が多く、今現在、有効的に使いこなす魔術師はいないと思います。今できる魔法は、私のレベルならば……数秒、力を上げる。とか、秒単位なんですよね。効果が強い程、魔力がいるわけですから。範囲にかけるとなったら、もっと複雑なことになるでしょう。そう思えば、一般的なゲームで言われる魔法の歌……気になりますね」
ライアートは眼鏡をくいと上げて語る。マフィンを齧る手を止めて、付与の魔法の情報を頭の中で整理する。そう、付与の効果がある<魔導語>はある。
先日パーティを組んだ服飾職人の人は、物に付与する為に魔術を取っていた。これとはまた違うようだ。
一般的に想像される魔法の歌は色々あるけれども……魔導語と歌? 精霊語の歌もある? どうやって? ぐるぐると単語が回ってしまう。思わず、思考の海に沈んでしまった。そこから浮かびあがる、考えもない。何度かライアートに名前を呼ばれていた? あ……ごめんなさいね。
「ケイ。何か有益な情報あれば……お伝えしましょう。フレンド登録してもいいですか?」
「もちろんよ! 私が色々知っているというけれども、フィールド探索したり冒険者稼業の話は、ライアート達のほうが詳しいわ。私こそ、色々教えてもらいたいもの……活躍を歌にしちゃおうかしら」
ふふと、冗談めかしていってみよう。え、と目を見開いて、丸眼鏡がずりおちそうだ。そして、僅かに頬を染めて、ぶんぶんと首を振って。
「いや、それは……恥ずかしいので、やめていただけませんか?!」
「さっきの遺跡の攻略の話だって、十分活躍劇よ?」
「いやいやいや……ケイ、本気ですか?」
「ふふふ」
話を聞いてみてわかったけれど、ライアートのパーティ。実は実力のあるパーティだと思うのよね。探索している範囲も広いし、技能のレベルが高いことも伺わせる。初期の街以外の村にも辿り着いているしね。プレイヤーの冒険譚も面白いものだと、私は思っている。歌に……しちゃおうかしら? なんてね。
しばらく雑談を交わして……ライアートとはお店の前で別れた。
私は再び商店街へと戻っていた。ドガは……フレンドリストを見るとログアウトの印がついていた。フレンドリストは、何所にいるかとか状況もわかるみたい。商店街へ来た目的はある。旅に必要なものを買い揃えにきたのだ。
初期装備を卒業することができた。これで街の外に出る準備が出来てきたわ。
ソロを考慮して慎重に準備を考えている。先程、ライアートに周辺の情報も聞いて地図に書き込み済みね。一線で冒険者稼業をしている彼の情報はとても有益だ。おすすめの冒険者ギルドの依頼も教えて貰ったわ。明日はそれに挑戦してみようと思っている。
一日目に見つけた雑貨屋の玄関をくぐる。カランと響くベルの音。その雑貨屋は老舗と思われる木造建築の店だ。ここで以前筆記用品を買ったのだ。その時にまた来ようと思っていた。
日常品も扱っているが、旅人用の道具も揃えている。都市を繋ぐ街道の間にある街だからともいえる。
商店街の店は、どの店も郷愁を感じるわ。まるで小さい頃行った駄菓子屋みたいな感じかな。店内の小さなカウンターの中では、のんびりと本を読む店主のお爺ちゃん。初めてお会いした時、旅に必要なものを助言してもらっていた。その時は、金策の目途もついていなかったので、聞いただけだったけど。
「こんにちは。以前教えていただいた道具を、買いにきたので……」
「ゆっくりしてっておくれ」
店主に軽く頭を下げて、挨拶をすれば本を読む仕草に戻る。素気ないけれども、色々親切なお爺ちゃんなのよ。路面側の窓から光が柔らかく差し込み、色々な道具を照らしている。
農作業用の鍬等から料理用の包丁、清掃用品までと雑多に揃っている。その中で、まるで定番というように旅の道具が置かれている棚がある。
棚の上にはいくつかの品々。まずは、カンテラ。照明器具が補充用の油と共に置いてある。
油は植物性から動物性まで品質や用途によって色々ある。カンテラ自体もその品質によって値段が違うのだ。日が暮れたら必須となるもの。日没迄に街まで帰れる予定だが、念のために購入しよう。持ち歩きに一番軽いものを選んだ。予備のオイルも購入する。
次は、水袋だ。一般的な動物の革でできたものを購入。あとは薄い毛布を買おうとしたが……外套を少し良いものを買うことにして後回し。
そして、火口箱。これは必須だと思う。濡れないように小さな革の袋を買って入れることにした。少し多めに買っておく。火種はとても重要だと思う。
火と水は魔術や精霊魔法が上達すれば必要なくなるのかしら。インベントリの中は重量がゲーム仕様なのがありがたい。
後は何がいるかな。ロープも10m程買っておこう。アウトドアキャンプをした時によく使ったわ。基本冒険セットにあったのよね。実際何かに使えるかもしれないしね。
こういった道具を揃えるのも、この世界ならではである。リアルでは、薄く軽く便利なものが沢山あるけれどもね。原始的、シンプルともいえる道具を選んでいくのは楽しいと思う。
今は必要ないけれども、長い距離を移動するようになったら野営用のテントも欲しい。あ、あと大き目の収納装備も欲しくなってくるしなぁ。うう、今は見てるだけ、見てるだけよ。
簡易用の調理器具も目に入ってしまった。旅用の軽い食器類も一緒に並んでいる。外で食べるご飯は美味しい。余裕があればだけど……けど、手持ちが足りない! 水場で水を汲めるように木製のコップだけ購入したわ。もう少し路銀が潤ったら、料理スキル上げるためにも購入しにこようと思った。
あとは、小型のナイフと採取用のスコップ。素材等を分けて入れる巾着を何種類か購入を決めた。
応急手当箱も買ったわ。ポーションを飲むまでに至らない傷用ね。技能に<応急手当>があるぐらいだから、効果はあるのだろう。
最後に旅人用のベルトと名前がついている革のベルトポーチを購入した。投擲ナイフやポーションをすぐ取り出せるように、腰ベルトに追加しようと思った。そこで……懐が底をついてきた。うん。また来ないといけないわ。
現在、日々の収入といえば……酒場で歌う賃金。基本給1000Jだ。それにお客さんが、チップをくれる時もある。一応、余分な出費をしなければその日暮らしは出来るのね。ただ、装備やこういった消耗品。あと、お酒や美味しいもの! これは別に稼がなければならない。
とりあえず、今回は野外活動の為の投資だと思ってる。あとで、バードギルドで仕事の斡旋ないか見てこよう。宴会の演奏等の仕事もあるのよね。時間が縛られてしまうけど……
雑貨屋の店主に代金を支払って、購入した品物を背嚢へとしまう。最初の手入れや装備の確認は宿屋でしよう。あ、あとは……ポーションも念の為に補充をしなきゃ。食料は初期の携帯食でよし……と。
明日の朝早く出たいから、冒険者ギルドであらかじめ依頼を受けることもしないと。
一人で郊外へ散策に出る――旅の第一歩のように感じて、不安だけれども、わくわくしてきてしまうわ。宿に戻ったら、もう一度必要なものを確認しよう――




