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俺は目の前の目線のおぼつかない人間に、首をきつく握り締めたまま、問いかける。
「それで、羽七ちゃんはどうしたいの?訴える?」
違う。本当に訊きたかったのはそういうことじゃない。俺が訴えられてどうなろうが、死刑になろうが構わない。そうじゃなくて…
「羽七ちゃんは俺が嫌い?」
ずっと訊きたかったことだった。本心から答えて欲しいことだった。彼女はもう言葉を話す気配もなく、ただ光と生気の完全に失せた瞳がカーテンで作った闇の方を向いていた。その目は「嫌」と言っている。わかってしまう。ずっとずっと側で、あるいは遠くで見てきたから。知りたくないことまでわかってしまう。羽七子がいればそれでいいと思ってきたはずなのに、今や彼女の全てが欲しい。心までも欲しい。しかもその願望は付き合い始めた当初から気付いていないだけでずっとあったのかもしれない、いや…確実にあった。"ヒロくん"は汚い人間だ、異常な程に下衆で、私に愛してると言いながら最悪なことをした…そう羽七子の瞳孔が物語っている。
「――――――――ねぇ、」
俺の目から涙が落ち、羽七子の頬に当たった。今まで散々叩いて殴って傷つけてきたのに、まだ透明感を失わない、生気のない白い皮膚に筋を描く。もう既に遅かったのか――――俺は、彼女の上で泣いた。ずっとずっと、疲れてもまだ泣き続けた。動かない。本当に反応がない。悲しい。苦しい…苦しい…でもこの苦しみも羽七子が感じているものの何億分の1にもならないのだろう。
ごめんね…羽七ちゃん…