ケイレブ編 12話
「いい?決して、家の外に出ては駄目よ」
母さんは毎日俺にそう言い聞かせた。
「どうして?」
「…外には恐ろしい化け物がいるの」
「化け物…」
「そう。その化け物があなたを食べてしまうかもしれない」
「………」
「あなたことが心配なの。お願いだから分かってちょうだい」
そして、毎日俺を力強く抱き締めた。
「………うん、分かったよ。母さん」
──幼い頃、俺の世界は小さかった。
別に小さな世界が嫌だったわけじゃない。
ただ窓から見える外の世界が眩しくて、どうしても憧れることを止められなかった。
外から子供達の笑い声が聞こえる。
俺は母さんの目を盗んで、外の世界へ飛び出した。
そこで、
「君、誰…?」
エイダンと出会った。
「…ケ、ケイレブ。ケイレブ・リード」
「僕はエイダン・ジェイコブ。ケイレブくんも一緒に遊ぼうよ、ほら!」
エイダンは俺に手を差し出した。
その手を取ると、あいつは俺を光の中心へと連れて行った。
楽しかった。
初めての鬼ごっこも隠れんぼもすごく楽しくて、俺は時間を忘れて遊んだ。
日が沈むにつれて、一人、また一人と人数が減っていった。
そして、最後に残ったのは俺とエイダンだった。
「まだ帰らないのか?」
「………うん」
「そっか。……なら、俺も帰らない」
「え?」
「もっともっと遊ぼうぜ!エイダン!」
「…っ、う、うん!」
真っ暗になるまで、俺達は遊び続けた。
まだまだ遊び足りないけど、そろそろ帰らなくてはと思っていた。
しかし──
俺があの家に戻ることはなかった。
エイダンを迎えに来た両親は俺の髪を、瞳を見た瞬間、口を揃えてこう言った。
「化け物」と。
その声を聞きつけた大人達に囲まれ、俺は狭い地下牢へと投獄された。
「出してくれ」と声が枯れるくらい叫んでも、誰も俺を助けてはくれなかった。
でもきっと、すぐに母さんが迎えに来てくれる。
そう思っていた、けれど──
迎えに来たのは父さんだった。
いつも無口な父さんから語られたのは、女神の神託と、住民達に非難されて母さんが自殺したことだった。
『あなたことが心配なの』
ふと、その言葉が頭の中で響いた。
──ああ。抱き締める力が強かったのは、震えていることを隠すためだったのか。
母さんは俺の心配じゃなくて、自分の心配をしていたのか。
化け物の俺が、周りの人間に責められるのが、怖くて仕方なかったから。
「お前のような化け物のせいで母さんは死んだんだぞ!?お前のせいだ!全部、お前のせいだ!!」
父さんは俺を責めた。そして、
「やはり、あの時に殺しておけばよかった…っ」
自分を責めた。
「……………一緒に帰ろう、母さんの所へ」
濁った瞳のまま、父さんは地下牢の扉を開けて俺に手を差し伸べた。
煙の臭いに混じって、硫黄の臭いがする。
嫌な予感がした瞬間、外から火が回ってきた。
村を巻き込んで一家心中しようとしてるんだと気づき、俺は父さんの手を振り払い、隙をついて逃げ出した。
案の定、村は炎に飲み込まれていた。
道に転がる死体から、こちらを見つめる青竹色の瞳から目を逸らし、俺は走り出した。
『お前のせいだ!全部、お前のせいだ!!』
そうだよ、父さん。
俺が約束を破ったせいで、生まれてきたせいでこうなってしまったんだ。
『外には恐ろしい化け物がいるの』
違うよ、母さん。
化け物は外じゃない、内側にいたんだ。
化け物は──
俺だ。




