第五十一話 境界の扉
朝日が畑を照らしていた。
壊れた空だけが、この世界が普通ではないことを思い出させる。
レインはいつものように鍬を肩に担ぐ。
「さて」
「今日は何も起きないといいな」
フィオが笑う。
「その台詞を言う日に限って何か起きるんだよ」
リゼも苦笑した。
「もはやフラグ」
ゼルは空を見上げる。
「……来る」
その瞬間。
空の裂け目ではなく。
畑の真ん中。
世界の木の根元が光り始めた。
ゴォォォ……
土が渦を巻く。
歯車が回転する。
根が一本ずつ地面から浮かび上がる。
そして。
巨大な石の扉が現れた。
高さは十メートルほど。
古びた石でできている。
しかし表面には歯車の紋様と、植物の蔓が絡み合っていた。
まるで機械と自然が一つになったような扉。
フィオが目を丸くする。
「こんなの畑に埋まってたの!?」
ゼルが苦笑する。
「最近はもう驚かなくなってきた」
ソレアだけが青ざめていた。
『……嘘だろ』
レインが振り返る。
「知ってるのか?」
ソレアはゆっくり頷く。
『知識としてしか知らない』
『でも存在するはずがない』
レインは扉を見上げる。
「何なんだ?」
ソレアは静かに答えた。
『境界の扉』
空気が張り詰める。
『世界と世界の間』
『その境界へ行くための入り口』
フィオが息を呑む。
「つまり……」
『管理者がいる場所へ続く可能性がある』
レインは扉に手を伸ばす。
その瞬間。
石の表面が淡く光る。
文字が浮かび上がる。
認証開始
全員が固まる。
さらに文字が変わる。
適合者確認
第七転生個体
構造干渉者
農民
最後の一文字が表示された瞬間。
ゴゴゴゴゴ……
扉がゆっくりと開き始めた。
扉の向こうには。
何もなかった。
闇でもない。
光でもない。
ただ真っ白な空間。
その中心に一本だけ道が伸びている。
誰かが作ったような。
いや。
「誰かが歩き続けた結果できた道」。
レインは一歩踏み出そうとする。
しかし。
フィオが袖を掴んだ。
「待って」
「今回は……みんなで行こう」
レインは少し笑う。
「当たり前だろ」
今まで一人で抱え込むことが多かった。
でも今は違う。
仲間がいる。
その時。
空の裂け目が震えた。
管理者の声が響く。
『境界扉起動確認』
少しの間。
そして。
『観測不能領域への侵入を確認』
初めてだった。
管理者の声に。
わずかな焦りが混じる。
ソレアが静かに言う。
『この先は……』
『もう管理者にも完全には見えない世界だ』
レインは鍬を握り直す。
「だったら」
「行くしかないな」
五人は顔を見合わせる。
誰一人、引き返そうとは言わなかった。
レインは先頭に立つ。
そして。
境界の扉の向こうへ、一歩踏み出した。




