第四十話 再構築開始
空の歯車が回り出す。
ギギギギギギ……
ゆっくり。
しかし確実に。
世界そのものが“作り替えられる音”だった。
◇
フィオがレインの袖を掴む。
「これ、ほんとにやばいやつじゃない?」
「今さらだな」
レインは鍬を握ったまま空を見る。
ひび割れの向こう。
巨大な“目”のさらに奥。
何かが設計図のように展開されている。
『再構築プロトコル開始』
無機質な声。
『世界構造を初期化します』
ゼルが叫ぶ。
「初期化って言った!今初期化って言った!」
リゼが眉をひそめる。
「つまり全部消えるってこと?」
ソレアは即答した。
『そうだ』
『農民も勇者も魔王も全部“初期値”に戻る』
沈黙。
◇
その時。
畑の“世界の種”が強く光る。
ドクン。
ドクン。
まるで心臓のように。
空へ伸びる根が広がる。
機械の地面を割りながら。
歯車の間に入り込みながら。
世界の“隙間”を埋めるように。
ソレアが息を呑む。
『まさか……再構築に干渉してる?』
レインは目を細める。
「勝手に育ってるだけだろ」
「怖い言い方するな!」
◇
その瞬間だった。
空の“目”が揺れる。
『異常干渉確認』
『再構築遅延』
歯車が一瞬止まる。
全員が息を呑む。
初めてだった。
システムが“止まった”。
◇
だが次の瞬間。
空間がひずむ。
ゴゴゴゴゴ……
ひび割れの中から“手”が出る。
巨大な手。
人のものではない。
しかし機械でもない。
その手がゆっくりと世界を押し直す。
『補正実行』
ソレアが顔を青くする。
『来た……再構築の“修正係”だ』
レインが振り返る。
「まだ上がいるのかよ」
『いる』
『むしろこっちが本体に近い』
フィオが小さくつぶやく。
「もう嫌だこの階層構造」
◇
手が空を押す。
歯車が再び回り始める。
世界が“リセット”へ戻される。
その瞬間。
レインの鍬が震えた。
終端の鍵。
第二の鍵。
そして世界の種。
三つが同時に光る。
初代農民の声が重なる。
『今じゃ』
レインは一歩前に出る。
「何をすればいい」
『耕せ』
またか。
だが今度は違った。
初代農民は続ける。
『世界そのものをじゃ』
沈黙。
「……どうやって」
初代農民は笑った。
『お前はもう持っとる』
『全部な』
◇
空が崩れ始める。
再構築が完成に近づく。
フィオが叫ぶ。
「レイン!!」
リゼも。
「早く!!」
ゼルも。
「説明してくれ!!」
だがレインはもう見ていなかった。
見ていたのは畑だった。
芽だった。
その芽は。
もう小さくなかった。
木になり始めていた。
世界の中心で。
確かに育っていた。
◇
レインは鍬を振り下ろす。
ドン。
たった一撃。
畑を耕すように。
世界の“線”を切るように。
その瞬間。
空の再構築が止まる。
『……停止』
静寂。
歯車が止まる。
手が止まる。
目が揺れる。
そして。
世界が一瞬だけ“呼吸”した。
◇
レインは息を吐く。
「これでいいのか?」
初代農民は静かに言った。
『まだじゃ』
空が割れる。
その奥から。
最後の声。
『最終再構築実行』
世界が白く染まる。
その中で。
レインは見た。
無数の“可能な世界”。
勇者の世界。
魔王の世界。
滅びた世界。
741回の失敗。
そして。
たった一つの芽生えかけた世界。
レインは鍬を握る。
小さく笑った。
「ならさ」
「一回くらい耕してみるか」




