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第二十一話 動く山

宿屋を出てから二日。


 レインたちは北へ向かっていた。


 目的地は一つ。


 白い塔。


 満月の日に開くという、転生者たちの処刑場。


 ゼルもなぜか付いてきていた。


「私は案内役だからな」


「帰れ」


「ひどい」


 リゼが笑う。


 フィオは少し慣れてきたらしく、以前より表情が柔らかい。


 ソレアは相変わらず偉そうだった。


『農民、右だ』


「なんでお前が道知ってるんだ」


『昔通った』


「さらっと怖いこと言うな」


 昼過ぎ。


 一行は山岳地帯へ入っていた。


 道は険しい。


 だが塔へ行くにはここを越えるしかない。


 その時。


 フィオが立ち止まった。


「……静か」


 全員が周囲を見る。


 確かに。


 鳥の声がない。


 虫もいない。


 風だけが吹いている。


 嫌な静けさ。


 レインは無意識に剣へ手を置く。


「来るぞ」


 リゼが呟いた。


 次の瞬間。


 ゴゴゴゴゴ……


 地面が揺れた。


 小石が跳ねる。


 木々が震える。


 ゼルが顔をしかめた。


「地震か?」


 違った。


 山が動いた。


 正確には。


 山だと思っていたものが立ち上がった。


 全員が固まる。


「……は?」


 レインの口から間抜けな声が漏れる。


 巨大だった。


 本当に巨大。


 山ほどの大きさ。


 岩と木でできたような巨人。


 頭は雲の近くにある。


 その一歩で森が潰れる。


 フィオの耳がぺたんと寝た。


「大きい……」


『大きいじゃねえ!!』


 ソレアが叫ぶ。


『古代巨兵だ!!』


 ゼルの顔色も変わった。


「なんでこんな場所にいる!?」


 巨人がゆっくりこちらを見る。


 目が光る。


 嫌な予感しかしない。


 そして。


 腕を振り上げた。


「逃げろ!!」


 レインが叫ぶ。


 直後。


 轟音。


 地面が吹き飛んだ。


 一行は全力で走った。


 後ろでは山が追いかけてくる。


 意味が分からない。


 山に追われる人生など誰も想定しない。


「なんで追ってくるんだ!?」


「知らん!!」


 リゼが叫び返す。


 ゼルは息を切らしながら走る。


「本でしか見たことないぞあんなの!」


 フィオも必死だった。


 だが。


 巨人は速い。


 異常に速い。


 大きいのに速い。


 理不尽だった。


 しばらく逃げた後。


 レインは気づく。


「……待て」


「どうした!?」


「なんか様子がおかしい」


 巨人を振り返る。


 そこで全員が気づいた。


 巨人は攻撃していない。


 正確には。


 当てようとしていない。


 進路を塞いでいるだけ。


 まるで。


 どこかへ誘導しているみたいに。


 ソレアが小さく呟いた。


『……試されてる』


 レインの目が細くなる。


「何に」


『転生者だよ』


 風が吹く。


 巨人がもう一度腕を振るう。


 すると。


 崖の向こうに隠れていたものが見えた。


 白い建物。


 塔。


 巨大な白い塔。


 雲を突き抜けるほど高い。


 レインの心臓が跳ねた。


 見覚えがある。


 夢で。


 記憶の断片で。


 何度も見た。


 白い塔。


 転生者の処刑場。


 そして。


 巨人は塔の前で膝をついた。


 まるで門番のように。


 ゼルが震える声で言う。


「……間違いない」


 誰も笑わない。


 冗談じゃ済まない空気だった。


 満月まで、あと二日。


 そして塔の入口には。


 すでに何人もの人影が集まっていた。


 全員。


 首元に位階刻印を持っていた。

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