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第二十話 幻覚きのこシチュー

 森を抜けた頃には、すっかり夜になっていた。


 満月が近い。


 ゼルの言葉が、まだ頭に残っている。


『塔が開く』


『転生者たちの処刑場』


 嫌な予感しかしない。


 だが今はどうにもできない。


 レインたちは川辺で野営をすることになった。


 火を起こし、鍋を置く。


 フィオが小さく手を挙げた。


「あの……私、料理できます」


 レインが少し驚く。


「意外だな」


「失礼」


 フィオは少しむっとした。


 リゼはニヤニヤしている。


「新婚感あるね」


「ない」


『ないな』


 ソレアも即答した。


 フィオは荷物から食材を取り出す。


 干し肉。


 野菜。


 そして森で採ったきのこ。


 レインはちらっと見る。


(……まあ大丈夫そうか)


 火に鍋をかける。


 ぐつぐつ。


 いい匂い。


 かなりいい匂い。


 リゼが目を輝かせた。


「うわ、めっちゃ美味しそう」


 フィオが少し照れる。


「昔、お兄ちゃんに作ってたから」


 一瞬だけ空気が静かになる。


 だがフィオはすぐ笑った。


「食べよ」


 結果から言うと。


 めちゃくちゃ美味かった。


「……うま」


 レインが素直に呟くレベル。


 肉も柔らかい。


 味付けも絶妙。


 リゼは感動していた。


「やばっ、嫁にしたい」


「自分で作れ」


『フィオ普通に料理上手いな』


 ソレアまで感心している。


 フィオは少し嬉しそうだった。


 だが。


 問題は、その十分後だった。


「……ん?」


 レインが眉をひそめる。


 なんか変だ。


 景色が揺れている。


 火が妙に七色。


 リゼが急に笑い始めた。


「あは、あはははは!! レインの顔ちっちゃ!!」


「は?」


 フィオもふらふらしている。


「……耳が増えてる」


『いや増えてないが!?』


 ソレアが焦る。


 レインは鍋を見る。


 そして。


 底に残っていたきのこを見て固まった。


「……あ」


 ソレアも気づいた。


『おい待てそれ』


 レインの顔が引きつる。


「幻惑茸じゃねえか!!」


 沈黙。


 リゼ、爆笑。


「なにそれぇ!?」


「高濃度幻覚素材だ!!」


 フィオの耳がぶわっと逆立った。


「えっ」


「えっじゃない!!」


 時すでに遅し。


 視界が歪む。


 空が溶ける。


 火が踊る。


 レインは頭を押さえた。


「最悪だ……!」


 五分後。


「ふっ……この世界の理が見える……」


 ゼルみたいなこと言い始めたレイン。


 リゼは草原で寝転がりながら笑っている。


「空ふわふわ〜」


 フィオは真剣な顔で木に謝っていた。


「いつも酸素ありがとうございます……」


『終わってる!!』


 ソレアだけが正常。


『おいしっかりしろお前ら!!』


 だがレインは急に立ち上がった。


「……見える」


『何が!?』


「農業の未来」


『駄目だこいつ!!』


 レインは木を見つめる。


「お前……土壌が疲れてるな」


 木、無言。


 リゼは笑い転げている。


「やば、レインが畑と会話してる」


「作物には話しかけた方が育つ」


『それ普通の農民理論だな!?』


 その時だった。


 フィオが急にレインの服を引っ張った。


「……レイン」


「なんだ」


 フィオは幻覚で完全に目がとろんとしていた。


「しっぽ、触っていい?」


「生えてない」


「未来の」


「嫌だ」


 数時間後。


 薬効が切れ始める。


 レインは焚き火の前で頭を抱えていた。


「……二度と野生きのこ使わん」


『当たり前だ!!』


 リゼはまだ笑っている。


「いやー楽しかった」


 フィオは真っ赤になっていた。


「ご、ごめんなさい……」


「……まあ死んでないし」


 レインはため息を吐く。


 その時。


 ふと、違和感。


 森が静かすぎる。


 ソレアも気づいた。


『……レイン』


「ああ」


 空気が変わった。


 次の瞬間。


 森の奥で。


 “何か巨大なもの”が動いた。

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