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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜  作者: 阿井りいあ
闘技大会開幕

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信じたくない夢


「……───す」


 夢を視ている。あぁ、やっぱり私の夢渡りは制御出来てないんだなぁ。思わずガックリきてしまうけど、視てしまったものは仕方がない。こうなったらしっかり内容を覚えておかなくては。

 でも、変だなぁ。モヤがかかったみたいによく視えない。誰かが2人、互いに向き合って立っているのはわかるんだけど。


「ど────? ……ない!!」

「仕方な……他の…………!」


 声も、なんだか聞き取れない。なんで? こんなに不明瞭なことって珍しくないかな。ええい、私の夢で私の能力ならしっかり視せなさいっ! 魔力っ、いうことを聞いて!

 さぁ、先を、視せて。


「俺が、お前を、殺す……!」


 ────え?




 ガバッと上半身を起こして目を覚ます。呼吸が荒く、全身が汗でビショビショだ。窓の外はまだ少しだけ薄暗いから、たぶん夜明けより少し前くらいの時間だろう。でも、この室内にギルさんはいないから、もう起きて活動しているか、夜通し仕事をしていたか、かな。たぶん後者な気はする。

 ふぅ……今の状況を確認したことで、だいぶ震えがおさまってきたよ。手にはまだ、力が入らないけど。うん、大丈夫。夢の内容も、覚えてる。


「リヒト……」


 間違いない。あれは、リヒトだった。決意のこもった力強い眼差しで、真っ直ぐ相手を見ながら言ったんだ。「お前を殺す」って。

 残念ながら、その言葉を向けた相手まではわからなかった。夢のリヒトは名前を言わなかったし。


「今の姿だったな……リヒト。きっと、近い未来に起こることだ」


 そう、そしてここが重要だ。今より年を取っていれば、もう少し先の未来だって思っただろうけど、夢の中のリヒトと今のリヒトの姿は変わらない。だから、これはわりとすぐに起こることなんだ。

 前にもあったよね、そう思ったこと。たしか、リヒトがギルさんと戦っている時の夢だ。……じゃあ、じゃあさ。それって、もしかしなくても、リヒトが殺すって言った相手は。


「ギルさん、なの? 嘘でしょ……」


 いや、まだそうと決まったわけじゃないけど。でも、その可能性が1番高いのは事実だ。え、無謀じゃない? だって、ギルさんだよ? リヒトが敵うわけない……とも、言い切れないんだよねぇぇぇ。

 なんでかって、リヒトの魔力の質は、ものすごく良くなっているからだ。会うたびに洗練されていく魔力の質と、増えていく魔力量に、実はいつも驚いていたんだよね。それも、魔王城で鍛えているからだって、頑張っていてすごいなって、そう思ってた。


 そう思っていたけど、夢の中のリヒトを見る限り、目的はそこにあったんだって思ったのだ。そのために、リヒトはずっと頑張ってきたの……? ギルさんを、その……殺す、ために。

 も、もちろん、今の夢が予知夢とはかぎらないよ? もしかしたら、誰かの悪夢を夢渡りで視てしまったのかもしれないし。そうであってほしいだけなんだけど。


 あぁ、ダメだ。これはちょっと、リヒトの顔を見ていつも通りにしていられる自信がない。ギルさんも、だ。私の様子がおかしいって話を聞いてくると思う。それはまずい。

 相談はしたい。けど内容が内容だけに、どうしても躊躇ってしまう。相談するにしても、誰にすればいいのかしっかり考えないと。


「よし、まずは、今日も訓練を頑張るところから、かな!」


 今、出来ることはそんなものだ。ご飯を食べて、身体を動かせば何か他の考えが浮かぶかもしれないしね! ウジウジ悩まない。せっかくのいい天気なんだから!




「おはよーアスカ! 今日もすごく食べるね!」

「おはよう、メグ! そりゃあね! メグは今日もフルーツだけ?」

「ううん、今日はちゃんと食べるよ。あっ、シュリエさん! おはようございまーす!」


 身支度を整えてからテントの外に出て食卓へと向かうと、昨日と同じようにおかずで山盛りになったお皿を前に朝食を摂るアスカを見つけて声をかける。本当に美味しそうに食べるなぁ。そんな会話をしていると、ティーセットのトレーを持ったシュリエさんがこちらに来るのが見えたので挨拶をした。


「はい、おはようございます、メグ。今日も元気いっぱいですね」

「えへへ、昨日はいっぱい訓練していっぱい寝たから!」


 シュリエさんがクスクスと笑うので、両腕で力こぶを作りながら元気に答えてみた。……相変わらずこぶはないけど。


「それは良かった。でも無理は禁物ですよ? 今日はしっかりと基礎の訓練をしてから最後に模擬戦をしましょうか」

「また模擬戦出来るの!? よぉし、今日は負けないからね、メグ!」

「私だって負けないもんっ」


 シュリエさんの提案に2人してやる気を漲らせる。そんな私たちの様子を穏やかに微笑んで見守りながらシュリエさんは紅茶を淹れて私の前にカップを置いてくれた。


「まずは腹ごしらえですね。何か持ってきましょうか?」

「ううん、自分で取ってきます! ありがとう、シュリエさん」


 基本的にここでの食事はギルドにいる時と同じで自分たちで取りに行くスタイルだ。キッチン専用のテントがあるのでそこに用意してある食事を必要な分だけ取っていく。昨日はフルーツだけにしたから自分で出したけどね。

 料理はもちろん、チオ姉たち調理担当の方々が用意してくれたものである。わざわざ遠征のために作ったものを取り出すのではなく、少し大きめの、生き物以外を送ることが出来る転移陣がオルトゥスの食堂と繋がっているので、リアルタイムで作られた食事の受け渡しをするシステムだ。そうすれば、手間としては普段の作業とそう変わらないだろうからって。調理担当の人たちへの配慮なんだ、ってお父さんが言ってた。転移陣というオルトゥスの技術あってこそだよねぇ。相変わらずすごい。


 こうして朝食のサラダとサンドイッチ、コーンスープを食べ終えた私はお腹もいっぱいになったところでようやく落ち着いた気持ちになっていた。まだ夢のことを引きずっているけど……お腹が満たされると少し余裕が出てくるものだね。ギルさんやリヒトにまだ会っていないのが幸いしたかな。2人にはもちろん会いたいけれど、あの夢の直後では冷静でいられる自信なんかなかったもん。

 訓練して身体を動かしたらもっと落ち着けるかな。そうであって欲しい。そう願いながら私はシュリエさんとアスカとともにゆっくり歩いて訓練場へと向かった。




「やったーーー! 今日はメグに勝ったー!」

「うーっ、次は負けないもん!」


 訓練の後の模擬戦、シュリエさんの審判で行われたその試合で、私は負けてしまった……粘ったんだけどなぁ。悔しい。


『ご主人様……?』


 フワリ、とピンク色が目の前を通り過ぎる。そしてそのまま私の肩に止まったその精霊、ショーちゃんは心配そうに小声で話しかけてくれた。


『心配ごと、大丈夫なの……? 心配なのよー』


 ああ、やっぱり声の精霊であるショーちゃんにはお見通しかぁ。そう思って苦笑を浮かべる。うーん、これは声に出して言える内容じゃないから、心の中で答えることにする。

 本当は大丈夫じゃないけど、今は何も出来ないから。なにかあった時に対応出来るように心の準備をしておかないとね。情けない主人でごめんね。これが影響して負けちゃった、なんて言い訳にもならないもん。もっと、強くならなきゃ!


『ショーちゃんは、ううん、ご主人様の精霊たちはみんな、いつだってご主人様の味方なのよー!』

「うん、心強いよ。いつもありがとう、みんな」


 汗を拭きながら精霊たちの優しさに触れてほっこりとする。ああ、癒される。精霊たちは心のオアシスだー!


「さぁ、拠点に戻って昼食にしましょう。午後からは勉強の時間ですよ」

「えーっ!? 訓練じゃないのー?」

 収納ブレスレットのお着替え機能によって着替えも終わった頃、シュリエさんの声と不満を漏らすアスカの声が耳に入る。あー、アスカは勉強苦手なんだもんね。


「大人と同じように丸一日訓練していては、身体を壊しかねません。効率よく成長するには適切な時間というものがあるのですよ。それに、文字の読み書きや簡単な計算も出来ないようでは、オルトゥスに入れません」

「うっ、わ、わかったよー、やるよ!」


 いつかオルトゥスに、というのが目標であるアスカには効果覿面な説得だったね。え? 私? 私は前世の知識が仕事をしてくれるので実は最初からある程度出来る。この世界に来たばかりの時は手が思うように動かせなかったとはいえ、ちゃんと書けたし、特に疑問も持たずに読めたし。

 今更だけど、それって身体の知識だったのかな? それはそれで幼児が全て覚えているってのも疑問が残る。日本とは文字の形も微妙に違うし、言葉だって違う気がするのに。え、違うよね? あまりにも普通に会話してきたから気にしたことがなかったんだけど。転移転生補正とかいうやつ? 相変わらず世界を渡る謎については色々と謎なままだ。いつかわかる日が来るのだろうか。


 勉強やだなー。身体動かしたいなーと文句を言い続けるアスカに対し、終わったら遊びに行こうね、と声をかけてやる気を出してもらいつつ、拠点までの道を歩く。拠点に着いたところで私たちの目はとある2人の姿を捉えた。その内の1人が持つ黒髪に、内心でドキリと胸が鳴る。


「お、オルトゥスの子ども組は訓練終わったのか」


 リヒトだ。いつも通りの幼さが残る笑顔に、軽い口調。夢のことがあって意識しているのは私だけである。そう、私だけなんだ。落ち着いて。まだ大丈夫だから。


「……うん! そっちは? どこかに行くの?」


 よし、声も上擦らなかったしいつも通りに話しかけられたよね? 笑顔もちゃんと出来てると思う。


「いや、今帰ってきたとこ。ウルバノと一緒に大人たちの訓練を見学したり、街を見て歩いたりしてきたんだ」


 そっか。大会に出ないウルバノは今回はお客さんとして来てるんだもんね。始まるまでは退屈なのかも。うちと同じように交代でウルバノのことを見ているのかもしれない。で、今日はたまたまリヒトの番だった、ってとこかな? あれ? でもリヒトは試合に出るのに訓練しなくていいのかな? そう聞いてみると、リヒトは困ったように眉尻を下げながら笑う。


「あー、まぁそうなんだけどさ。ウルバノは、あまり人が得意じゃないだろ? 慣れてるヤツと一緒の方が安心出来るだろうし……訓練なら夜出来るし、いいんだよ」


 その言葉にああそうか、と納得したと同時に泣きたくなるほどの安心感を覚えた。なぜって? リヒトが、変わらず優しいからだ。人間の大陸で一緒に旅をした時、リヒトはいつも私たちを引っ張ってくれて、明るくて。ちょっとからかう癖があるけど、とても優しくて。

 変わらない。リヒトはあの頃と変わらない優しさを持ってるんだって知って、安心したのだ。人間だから……変わってしまうこともあるって、思っていたから。


「その、ごめんなさい、リヒトさん……」

「あーっ、ウルバノは気にしなくていいんだってば! 何度も話したろ? せっかくここに来たんだから、楽しい思い出作って帰ろうな」


 申し訳なさそうにするウルバノの青い髪を撫でながら、リヒトは笑顔でそう告げる。そうだよ、リヒトはリヒトだ。あの夢の真相がどうであれ、きっとリヒトは優しいままなんだから。


 私は、リヒトを信じよう。そう決めた。


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