空から落ちた少女
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
鳥人族の少女が空中で大きく体勢を崩した。
風魔法が乱れている。
翼の動きもおかしい。
観客達の歓声が悲鳴へ変わった。
「落ちるぞ!!」
「誰か!!」
だが。
高度が高すぎる。
普通では間に合わない。
その瞬間だった。
タマが叫ぶ。
「フィルニア!!」
「分かってる!!」
二人が同時に飛び出した。
ミーコが目を見開く。
「ちょっ!?」
フィルニアが砦中央の荷台を蹴る。
ド ン!!
凄まじい脚力。
竜人族特有の身体能力で一気に上空へ跳び上がった。
一方。
タマは屋台天幕を駆け上がる。
「うおぉぉぉぉ!!」
観客達がどよめく。
「速っ!?」
「なんだあの獣人!?」
フィルニアが空中で少女へ手を伸ばす。
だが。
「届かねぇ!!」
高度が足りない。
その時だった。
タマがさらに上から飛び込んだ。
「フィルニアァァァ!!」
「タマ!?」
空中。
タマがフィルニアの肩を蹴る。
「うおっ!?」
加速。
フィルニアがさらに跳ね上がった。
次の瞬間。
ガシッ!!
鳥人族の少女の腕を掴む。
「捕まえた!!」
観客達から歓声が上がった。
だが。
「やっべ」
フィルニアの顔色が変わる。
「重力忘れてた!!」
「馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」
ミーコが叫ぶ。
当然だった。
上がったら落ちる。
しかも今は少女込み。
フィルニアが落下を始める。
「うぉぉぉぉぉ!?」
タマも空中で目を剥いた。
「俺まで届かねぇ!!」
その瞬間だった。
ゴ ォ ォ ォ ォ ッ!!
突風。
市場全体へ風が吹き抜ける。
観客達が顔を上げた。
空。
そこへ巨大な影が飛び込んでいた。
「なっ――」
鳥人族の青年。
いや。
デカい。
翼を広げた瞬間、周囲へ暴風が走る。
純白の翼。
蒼銀の装束。
風を纏った高速飛翔。
一瞬でフィルニア達へ追い付いた。
「掴まれ!!」
次の瞬間。
青年がフィルニアごと少女を抱え込む。
ド ォ ン!!
風圧。
そのまま空中旋回。
落下速度を強引に殺した。
「うおぉぉぉぉ!?」
フィルニアが叫ぶ。
「すっげぇぇぇ!!」
タマまで興奮している。
青年は市場中央へ着地した。
ザァァァッ!!
風が吹き抜ける。
観客達が歓声を上げた。
「助かった!!」
「おぉぉぉ!!」
だが。
青年は真っ先に少女を見る。
「リュナ、大丈夫か」
「も、申し訳ありません兄様……」
少女は青ざめていた。
兄様。
どうやら兄妹らしい。
青年は安堵したように息を吐く。
「怪我は?」
「……だ、大丈夫です」
すると。
フィルニアが立ち上がった。
「お前すげぇな!!」
青年が視線を向ける。
そして。
少し驚いた顔になった。
「……竜人族?」
「おう!!」
「いや待て、その跳躍どうなってる」
「気合いだ」
「気合いで済む高さじゃなかったぞ」
タマが割り込んでくる。
「なぁなぁ!! 今の飛び方どうなってんの!?」
青年が少し笑った。
「風流操作だ」
「かっけぇぇぇ!!」
フィルニアとタマの目がキラキラしている。
ミーコが、ため息を吐く。
「また始まった……」
ユキが苦笑する。
その時だった。
青年が改めて一行を見る。
そして。
深く頭を下げた。
「妹を助けてくれて感謝する」
礼儀正しい。
空王国の上位階級だろうか。
服装もかなり良い。
グランヴェルが静かに目を細めた。
「鳥人族の軍属か?」
「近衛飛空隊所属だ」
レオネの顔が少し変わる。
「近衛……?」
青年は頷いた。
「アルネシア空王国近衛飛空隊副長、アーク=フェルアルディア」
周囲がざわつく。
「近衛!?」
「副長クラス!?」
かなり偉いらしい。
だが。
タマはそんな事気にしていなかった。
「なぁ!! もう一回飛んでくれ!!」
「タマ!!」
ミーコが止める。
だが。
アークは笑った。
「面白い獣人だな」
「俺タマ!!」
「俺様はフィルニア!!」
フィルニアまで名乗る。
アークが一瞬止まった。
「……フィルニア?」
「ん?」
数秒沈黙。
次の瞬間。
アークが目を見開いた。
「ヴォルグラード帝国第一王女!?」
「第二だ」
「あっ」
フィルニアの目が細くなる。
空気が止まる。
タマが吹き出した。
「間違えたぁぁぁ!!」
「おい」
フィルニアが笑顔で怖い。
「いや待て!! 竜王家って第一も第二も圧怖いんだぞ!?」
「誰が圧怖いだ!!」
「違うのか!?」
「……否定は出来ません」
レオネが真顔で答えた。
「お前味方だろ!?」
市場中が笑いに包まれる。
一方で。
ミツコは少女――リュナを見ていた。
「まだ顔色悪いねぇ」
「……え?」
ミツコが買い物籠をごそごそ漁る。
そして。
「はい」
取り出したのは温かいスープだった。
リュナが固まる。
「え、どこから……」
「どーぞ」
優しい声。
リュナは戸惑いながら受け取った。
一口飲む。
「……おいしい」
その瞬間。
表情が一気に緩んだ。
アークが驚いている。
「凄いな……」
「ばーちゃん飯だからな」
タマが誇らしげだった。
「反則級だぞ」
フィルニアまで頷く。
その時だった。
トシオが空を見上げる。
「……」
ミツコが気付いた。
「あなた?」
「空気が妙だ」
低い声。
先程からずっと違和感を覚えている。
アークの表情も変わった。
「……貴殿にもわかるか?」
トシオが頷く。
アークは空を見上げたまま答えた。
「最近、上空域の風脈が乱れている」
風脈。
空王国特有の言葉らしい。
「今日の演舞事故も、それが原因だ」
空気が少し変わる。
セレスも静かに周囲を警戒していた。
レオネも真顔になる。
楽しい空気の裏側。
世界の異変は、確実に広がり始めていた。




