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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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王城からの使者



 夜。


 離宮の食堂では、遅めの夕食が続いていた。


 王都散策の疲れもあり、皆どこか気が抜けている。


 フィルニアは巨大肉串をまだ食べていた。


「まだ食ってんの!?」


 タマが呆れる。


「冷めても美味いぞこれ」


「そういう問題じゃねぇ」


 ミツコは笑いながら皿を並べていた。


「いっぱい歩いたもんねぇ」


 ユキは今日買った布を広げて見ている。


 淡い銀糸が灯りを受けて綺麗に輝いていた。


 ミーコは窓の外を見ていた。


 王都の夜。


 賑わい。


 人々の声。


 少しずつ。


 本当に戻ってきたのだと実感し始めている。


 その時だった。


 コンコン。


 扉が叩かれる。


 ベルドが静かに入ってきた。


「皆様」


「王城から使者が来られております」


 空気が変わる。


 フィルニアの咀嚼音だけ響いた。


「……んぐ」


「お前は食うの止めろ」


 タマが突っ込む。


 ベルドは続けた。


「国王陛下からの正式招待状です」


 ミーコ達の表情が変わる。


 王。


 つまり。


 現在のレイシス王国最高権力者。


 まだ記憶に輪郭は無い存在だった。


 ユキが静かに聞く。


「……明日ですか?」


「いえ」


 ベルドは首を振る。


「三日後になります」


「皆様を正式に王城へ迎えたいとの事です」


 タマが腕を組む。


「ついに来たか」


 フィルニアは普通に聞いた。


「飯出るか?」


「ご馳走確定だな」


「お前はそこ固定なんだな」


「大事だろ」


 トシオは静かに茶を飲んでいた。


 ベルドが一通の封書を差し出す。


 白銀の封。


 王家紋章入り。


 かなり格式が高い物だった。


 ミーコは少し迷いながら受け取る。


 重かった。


 紙なのに。


 妙な重みがある。


 ゆっくり開く。


 中の文字は綺麗だった。


『アクアリア=ヴァル=レイシス殿下』


『並びにライガル家御息女・御子息へ』


『王城にて、正式に帰還歓迎の席を設けたく思う』


『レイシス王国国王』


『フェルディオ=ヴァル=レイシス』


 静かな空気になる。


 ミーコはその名前を見つめていた。


 記憶の奥が、微かに揺れる。


 だが。


 まだ霧が掛かったままだった。


「……親族?」


 ユキが小さく呟く。


 ベルドが頷いた。


「陛下は、ミーコ様方のお父上の弟君にあたります」


 ミーコ達が少し驚く。


 つまり叔父だ。


 タマが眉を上げる。


「王様ってそんな近かったのか」


「はい」


「ですが、当時はまだ王位継承権が低く……」


 ベルドは少し言葉を選ぶ。


「王族失踪後、混乱の中で即位されました」


 重い話だった。


 本来の王家が消えた。


 その混乱の中で王となった人物。


 簡単な立場ではない。


 ミーコは封書を見つめたまま静かに聞く。


『……どんな人?』


 ベルドは少し考えた。


「真面目なお方です」


「不器用ですが」


「民を見捨てられない方でもあります」


 その評価に嘘は無かった。


 長年仕えてきた者の言葉だった。


 その時。


 フィルニアが口を開く。


「会うんだろ?」


 ミーコは少し黙る。


 不安が無い訳じゃない。


 王城。


 王。


 政治。


 また空気が変わる。


 でも。


 逃げ続ける訳にもいかない。


『……うん』


 小さく頷く。


 ユキも頷いた。


「ちゃんと話したい」


 タマは息を吐く。


「まぁ行くしかねぇよな」


 その時。


 トシオが静かに聞いた。


「離宮はどうなる」


 ベルドが答える。


「生活拠点は離宮のままで問題ありません」


「王城側もそれを認めています」


 一瞬で空気が緩んだ。


「よかったぁ……」


 ユキが素直に安心する。


 フィルニアも頷く。


「離宮落ち着くからな」


 タマも苦笑する。


「王城住みとか絶対疲れる」


 ベルドも小さく頷いた。


「離宮は元々、“王族が家族として過ごす場所”でしたので」


 その言葉は。


 皆を少し安心させた。


 すると。


 フィルニアが急に真顔になる。


「じゃあ今後も勝手に厨房入っていいんだな」


「そこ確認すんな」


「重要事項だろ」


「お前だけだわ」


 ミツコが笑っている。


 その空気に。


 ミーコも少し肩の力が抜けた。


 王城へ行く。


 でも。


 帰る場所はちゃんとある。


 それだけで違った。


 その後。


 ベルドは退出し、一行はしばらく食堂で話していた。


「王様かぁ……」


 タマが椅子へ寄り掛かる。


「緊張する?」


 ユキが聞く。


「ちょっとな」


「なんか失礼やりそう」


「お前の方が危ねぇだろ」


「俺様は大丈夫だ」


「信用出来ねぇ」


 ミーコは封書をもう一度見る。


 フェルディオ=ヴァル=レイシス。


 記憶は曖昧なまま。


 でも。


 その名前には、不思議と嫌な感覚は無かった。


 会わなければいけない。


 そんな気がした。


 その時。


 ミツコが優しく言った。


「無理しなくていいからねぇ」


 ミーコが顔を上げる。


「ちゃんと話せるかなとか」


「王女様らしくしなきゃとか」


「考え過ぎなくて大丈夫」


 柔らかい声だった。


「ミーコちゃんはミーコちゃんだから」


 トシオも静かに頷く。


「変に取り繕う必要はねぇ」


「いつも通りでいい」


 その言葉は不思議と安心した。


 王族。


 王女。


 色々言われる。


 でも。


 今の自分を否定しなくていい。


 そう思えた。


 その時。


 フィルニアが真剣な顔で言う。


「ミーコ」


『ん?』


「腹減ってる時は難しい話すんな」


「お前だけだわそれ」


 タマが即突っ込む。


 だが。


 ミーコは少し笑っていた。


 その夜。


 離宮は静かだった。


 王城からの正式招待。


 それはつまり。


 レイシス王国が、“帰還した王族”を正式に迎えるという事。


 もう。


 噂や確認だけでは終わらない。


 ミーコ達はこれから。


 本当に王国の中心へ足を踏み入れていく。


 だが。


 不思議と。


 最初より怖くはなかった。


 帰る場所がある。


 一緒にいてくれる家族がいる。


 それだけで。


 前へ進める気がしていた。

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